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096 執事のバトラーさん

「とっ止まれ!!止まれ!!」


「お前達、ここがどこだか分かってるのか!?」


 道の行き着いた先にあったお屋敷を護っていたと思われる門番さんが私達一行を見て慌てふためいてる。


 まあ縛られた人達を荷台に載せて走る荷車に雪をガリガリと削りながら爆走するでっかい荷車、その後ろから明らかに多くの人達を乗せてる荷車が追走してくるんだから気持ちは分かります。


 どこのカチコミじゃ!?ってなるわよね!


「私達はマールから来ました。此度我が街において賊を捕らえましたが、その賊が自らを貴族と名乗っております。賊が本当に貴族であるとすればこれは高度な政治判断を要求されると愚考したため、領主様にお目通りをと参上致しました。お取り次ぎを。」


 バスから降りたギルドマスターさんが門番さんに対して丁寧な挨拶をしたわ。


 私、貴族の人やお役人様なんかほとんど見たことないの。マールの街には代官って呼ばれる人がいないから。


 マールは開拓されてからまだ十数年しか経ってない街だから代表者の人が話し合って治めてる自治区だって聞いてる。


 というわけで、私貴族様やお役人様は今まゆげちゃんに載ってるダメ貴族の人達しか見たことないの。


 この門番さん達はどんなタイプの人かしら?


「ふざけてるのか!?突然領主様に会わせろと言われてはいそうですか分かりましたとは言えんだろ!帰れ!」


「領主様はお忙しいのだ。お前達のようなよく分からん奴らが会えるようなお方ではない!」


 あー、予想通りな感じの人達だったわ。なんで反発するのかしら?


 取り次ぎを頼まれたらさっさと上司に報告して判断してもらうべきなのにね。現場が勝手に判断したらおかしなことになっちゃうわ。


 11歳の私でも分かります。


「ふむ、私は貴様等の意見など受け付けてない。領主様に取り次げと言っているのだ。早く取り次げ。」


 ほらぁ、ギルドマスターさんが怒っちゃったわ。


 今後のこともあるし、ここはひとつ門番さん達に貸しを作っとこうかな。ギルドマスターさんが怒るとマジで怖いしね。


「ギルドマスターさん落ち着いてください。ここは私がお話ししますから。」


「む、そうかね。少し態度が悪かったかな?分かった、エリーゼ嬢にお任せしよう。」


 ポケットからハンカチを出して口元を押さえるギルドマスターさん。よくガマンしましたね。


「こんにちは衛兵様、私はエリーゼっていいます。衛兵様、あなた方はここを護ってるおつもりかもしれませんが、さっきのお話の通り事件が起きているんです。ですから私達が領主様に会うことは決定していることなのですよ。そうするとあなた達がやってることは事件解決の邪魔になりますよね?分かりますか?」


 私は衛兵さん達の説得に掛かる。ふっふっふ、私の交渉スキルが火を吹くわ!


「なんだと!?我々はここから先誰も通さない事を職務としている!それが何故邪魔になるのか!」


「はい、あなたの仕事はここから先へ誰も通さないことではなくて、領主様に害を及ぼす人を中に入れないことですよね?害を及ぼす不審人物かどうかを見抜く仕事はあなたの仕事じゃないはずです。だから判断できる人に報告して判断してもらってはいかがでしょうか。私、領主様とこちらのギルドマスターさんは古いお仲間だと聞いてます。また、私達は貴族様に関するトラブルを抱えてここへ来ています。そんな私達ををあなたの判断で追い返してしまったら……あなた、今後ここで働くことができますかねぇ?」


「むう、それは……確かに。」


「ち、ちょっと待て、確認を取る!」


 ひとりの門番さんがお館に向かって駆けていったわ。


「くっくっく嬢ちゃん、なかなか意地の悪い説得だな。」


「そんなことないですよ。私はあの方達に自分達の仕事はなんなのかを説明してあげただけです。」


 ミノルおじさん、私悪いことなんかしてませんよ?門番さんのお仕事をキチンと果たさせてあげただけですから。


 衛兵さんは防衛がお仕事で、お客様の選別は衛兵さんのお仕事じゃないですからね。


「うちの娘が詐欺師になってしまったような気がするのは私の気のせいだろうか?」


「だ、大丈夫だってウォールさん、商人なら口八丁も大事な手管だぜ?心配ないって!」


 お父さんがなぜか落ち込んでる。周りで慰めてる人達もなんだか私に対して刺があるような……


 ちゃんと交渉しただけなのに、解せぬ。




「これはこれは、『粉砕鬼』殿ではありませんか。お久しぶりです。」


 だ、誰かが出てきました!


「ふむ、バトラーか、息災かな?」


「お陰様で主共々楽しく過ごしております。後ろにおられるのはお仲間様ですかな?」


「仲間か……ふふふ、そうかもしれんな。うむ、私の仲間達だ。」


 執事さんのような白髪のおじさんがギルドマスターさんと握手を交わしている。


 だ、だれ?お父さんに聞いてみよう。


(この方はどなたですか?)


(彼は領主様の執事兼家令兼育ての親みたいな方だよ。元白金等級の傭兵だ。)


(傭兵ってなんですか?)


(傭兵とは正規の軍人の様に雇用関係を結ばず、兵役や期間で決められた金銭を受け取り軍に所属する戦のプロの事だ。この国や周囲の国家ではずっと戦がなかったのであまり聞かない職種だな。)


 お父さんも私に合わせてコソコソ話で教えてくれたわ。バトラーって名前は愛称らしいです。


 初老の男性ながら背筋は張ってるし所作に隙がないわ。たぶんこの人メッチャ強いと思うの。白金等級の傭兵さんってば伊達じゃないようだわ。


 うーん、強くてミステリアスでロマンスグレーなおじ様……とてもカッコイイですね!


 ギルドマスターさんとバトラーさんが語らっているのを眺めていると、後ろからさっきの門番さん達がやってきた。


「お嬢さん、先程は申し訳なかった。我々はバトラー様とあんなに親しげにしている方をもう少しで追い払う所だったんだなぁ。」


「取り次ぎしてよかったぜ、危うく首になるところだったよ。お嬢さん、ありがとな。」


 門番さん達はペコペコと頭を下げてる。


 うーん追い払えればまだマシですから。多分あなた達やられちゃうから。かなり危なかったですから!


「いえいえどういたしまして。こちらこそ対応していただきありがとうございました。上司に細かく連絡するのは面倒かもしれませんが、上司に連絡した時点でなにがあろうがあなたの責任はなくなるんですから楽ちんですよ。」


「ははは、なるほどためになるな。次からはそうするし、お嬢さんは顔パスにするよ。」


「そんなことがあるならよろしくお願いします。」


 お互い頭を下げて挨拶を交わした。ちゃんと話せばわかる人達だったわ。よかった。


「おいエリーゼちゃんよ、ここにまた来る約束するなんて気が早いんじゃねえか?」


「いやいや、案外そうなるかもよ?フラグとか言うやつじゃないか?」


「確かに!!」


『そよ風の輝き』の人達は退屈になったのか私を弄ってきた!フラグとか言っちゃダメ!ホントにそうなっちゃうじゃないの!


「ふむ、あなたがエリーゼさんですか。お噂は兼ね兼ね耳にしております。我が領に多大な貢献をして下さっているとか。」


 バトラーさんが私に声を掛けてくださったわ!ひええ、ロマンスグレーに声を掛けられちゃった!どうしましょう!


「お、お褒めに預かり光栄です!ありがとうございました!!」


「ははは、そんなに緊張しないで下さい。私は只の爺ですよ。あなたには御館様も興味を持っておられますからね……さて、本日は何やらトラブルに見舞われたとか。御館様には後で面会されるとして、私に出来る事であれば承りましょう。僭越ながらお力になれるかと思います。」


 バトラーさんはまゆげちゃんの荷台に載ってる騎士様達に目をやり、少し溜ため息のようなものを吐き出したわ。

誤字報告いただきました!ありがとうございました!即訂正即反映いたしました。いつもいつもありがとうございます!

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