089 雪掻き
目が覚めたら身を切るような寒さだったわ。
「うーっ寒い!起きたくないわ!」
ベッドから出るのが苦行じゃないのかってくらいの寒さよ。ほんと、もう冬ね。
でも朝はお母さんといっしょにご飯の支度をしなきゃいけない。仕方ない、起きよう。
私は目覚まし代わりに部屋の窓を開けました。
「うっわ……真っ白!」
寒いはずよ!だって外は一面白銀の世界だったんですもの!
私の部屋は3階にあるわ。そこから見える全てが白い。
屋根も、道も、空も白く見えたわ。
「すごい、雪が降ったんだ。」
そうよね、もう冬なんですもの!
雪ってさ、積もるとなんだか嬉しくならない?
こうしてはいられないわ。急いで着替えてから洗面所に行って顔を洗う。
つ、冷たい!痛い!
身体中をつきぬけるような冷たさについアワアワしてしまった。
これも冬の醍醐味ね!
「お母さんおはようございます!雪が積もってるわ!もう見ましたか?」
「あらエリーゼおはよう、ええ見たわ。なかなかしっかり積もってるみたいよ。早く雪掻きをしないと店の前の道がぬかるんでしまうわね。」
そっか、私は雪が積もると楽しいとしか思ってなかったけど、大人には楽しんでばかりではいられない事情があるのね。
うちのお店の前がぬかるみになればお客さんは通りにくいし、もし入って来ちゃったらお店の中も泥だらけになっちゃう。
それに滑って転べば汚れるし、もしかしたら怪我をしてしまうかもしれないし。
これは、なんとかした方がよさそうね。
「お母さん、私雪掻きをしてきます。今日の朝ご飯は任せてしまってもいいですか?」
「ええ勿論よ、エリーゼはいつも朝手伝ってくれるから助かってるし、雪掻きをして貰えるんだったらもっと助かっちゃう!あ、もしかしてエリーゼのスキルで出してくる荷車の『おまめちゃん』を使うのね。」
うふふ、そうなの。たしかかけるくんには雪掻きに向いてるアタッチメントがあったはず。
それに、まゆげちゃんには新しい力が備わったからね。こんな時には大助かりしちゃうわ。
でも、おまめちゃんはちょっと酷くないですかお母さん。
「それをいうなら『まゆげちゃん』ですよお母さん。まゆげちゃんに聞かれたらヘソを曲げられてしまうわ。」
「あらあらごめんなさい。それじゃよろしくね。」
「はーい。」
私は元気にお返事してから外に飛び出したわ。
「まずは、出ろぉぉぉ!まゆげちゃぁぁぁん!」
パチンっ!ゴゴゴゴゴ………
「続いて、かけるくんカムヒヤー!」
パチンっ!ドドドドド………
2台の重機達が私の前に現れたわ。私の膝くらいまである雪の中に鎮座する翡翠色した二体の怪獣達。
まゆげちゃんはちょっとサイズダウンをしてシングルキャビンの3トンダンプ型に、かけるくんはバケットを樹脂製の軽くて大きいものにカスタマイズしてあるわ。
「よーし、じゃあさっそくうちの前を除雪してみましょうか。」
まずはかけるくんに乗り込もう。
キャビンのドアを開けて中に乗り込み、エンジンを掛けるとドルルンとご機嫌にお返事をしてきたかけるくん。
気合い充分ね!
「じゃ周囲確認、誰もいません!よーし発進!」
かけるくんのバケットで雪を押すように掻いていく。雪の深さは私の膝の下くらいまであるから10メートルも雪を押せばバケットは満タンになっちゃった。
それを抱えあげてまゆげちゃんに積み込む。ドサーっと荷台に乗せられた雪は瞬時に空間収納へ入っていくわ。
さっき雪を掻いた隣の列の雪を掬いまゆげちゃんに積み込む、そのとなり、そのとなりとあっという間にうちのお店の前の雪は無くなってしまった。
「すごーいはやーい!よーし、ついでだからこの通りの雪は全部掻いてしまおう。まゆげちゃん、追走できる?」
『了解!マスターを追走します。『E04H』のバケットが満タンになり次第我は『E04H』に対し追い越しを掛けて正面に横付け致します』
まゆげちゃんはそう言ってかけるくんの後ろに追走する体勢を取ったわ。
そうなの!まゆげちゃんってば、勝手に動けるようになったのよ!
まゆげちゃん凄すぎ!
先日グレース市からの帰り道、突然しゃべり始めたまゆげちゃんに一同ビックリよ!
私のことを『マスター』と呼んで、疲れたなら休憩を取りなさいとか自動運転に切り替えますかとかすごい細やかなサポートをしてもらっちゃった。
どうやらあの『灰色ローブの男性』が言ってた『まゆげちゃんに魔素を補充しろ』っていうのが、運転に私の精神力やスキルを使うことに相当しちゃってたみたいなのよ。
そりゃまゆげちゃんは私の精神力を消費して走ってるんだから当然なんだけどね。
そして精神力を充填されたまゆげちゃんは動き始めたってわけよ。
マールの街に帰ってからすぐミノルおじさんに報告したら、『アイツ……これはやり過ぎだぞ!もうちょっと素体に対する浪漫を持てよ!全部希少金属にするこたぁ無ぇだろうによ!』ってプリプリ怒りながらまゆげちゃんをオーバーホールしてました。
あの灰色ローブさん、ミノルおじさんの知り合いだったのかなぁ?
まあおじさんそれで満足したみたいよ。まゆげちゃんも嬉しそうだったし。
『マスター、『E04H』のバケット容量を計算した結果、12.75メートル毎に掬い上げた降雪を我に積載するのが効率が良いです。よって我が先行し停止した所までの降雪を掬って積載して下さい』
「は、はい、分かりました!」
『マスター、我に敬語は不要です』
まゆげちゃんが指定した通りに雪掻きしながらどんどん進んでいく。
2番通りもけっこう距離はあるんだけど、左側を1列掬うのに15分しか掛かってないわ。
往復して反対側、さらに戻って真ん中を掬えば完了よ。結果的に40分しか掛からなかった。
ついでに3番通りも除雪しました。モジャおじさんが屋根の雪を降ろしながら私達に手を振ってくれたし、街の人達も窓から手を振ってお礼を言ってくれたわ。
1番通りはちょっと広いから時間が掛かったし、途中で商業ギルドのギルドマスターさんや『そよ風の輝き』のみなさん、門のところでは衛兵さん達に見つかって質問攻めにあってしまったから時間が掛かっちゃったわ。
「ただいま帰りました!遅くなっちゃった!あれ?お母さんテーブルに乗ってるたくさんのお菓子や果物が朝ご飯なんですか?」
うちに帰るとお父さんとお母さん、お兄ちゃんがたくさんの荷物を抱えてあちこち歩き回ってる。
よく見たらリビング中に物が溢れ返ってるわ。
なにこれ?
「エリーゼ、お前何処まで行って来たんだ?うちの前の雪掻きをしてたんじゃないのか?」
「ああ、まゆげちゃんとかけるくんで雪掻きしたらすぐ終わっちゃったから、ついでに街中の大通りの雪掻きをしてきたんですけど……」
「それでか……」
私の返事を聞いたお父さんもお母さんも呆れたような顔で黙って私を見つめてる。
何があったの?
「エリー、君はいつでも素晴らしいな!いや、今日は特に素晴らしい!ここにある荷物は街中の人達が君の為に持ってきてくれたお礼の品々さ。さっきからお客様が絶え間なくやって来ててお父さんもお母さんも応対に必死だったんだよ。」
「お兄ちゃん、どういうことか分からないわ?」
「僕達だって分からなったんだ。みんな黙って置いていくんだから。でも今の話を聞いて分かったよ、これはエリーが街中の雪掻きをやってくれたお礼の品々だ!」
ええええ!?お礼!?こんなにたくさん!?
私はついでに雪掻きしただけなのよ!
「私、そんなつもりじゃ……」
「ああ分かってるよエリーゼ、お前が他意あって雪掻きをした訳じゃないって事ぐらい私達にも分かるさ。だがな、今度からは他所の雪掻きもやるなら一言言ってからにして欲しい。」
「ご、ごめんなさい……」
どうやらお父さんもお母さんもみんなから物を貰う理由が分からなかったみたいね。
この街の人達はみんな人がいいからなぁ。きっと『まあまあ黙って受け取って』みたいな感じで置いていったんだろうなぁ。
まあ良かれと思って雪掻きしたらみんなにも喜んでもらえたみたいなので良かったわ。
「おなか空いちゃった、朝ご飯が食べたいわ。」
とりあえず朝ご飯をいただくとしましょ。




