082 冒険者ギルドへ
私がお店に戻ったのはちょうど食後のコーヒーが出てくるタイミングでした。
「エリーゼちゃんどこ行ってたの?食後のコーヒーが来るわよ!」
「いやぁ食べ過ぎたわ。もう動きたくない動けない。幸せ過ぎるぅ。」
「是非カレーライスをマールで流行らせたいわ!」
お姉様方はみんな大満足。目尻と口元が緩みっぱなしだもの。
「お待たせしました、コーヒーです。こちらはお茶受けのビスケットです、良かったらお召し上がり下さい。」
ネコの形の型で押されて作られた焼き菓子。真ん中に『ネコの尻尾』って書いてあるわ。すごく手が込んでる。
食べてみようかな。1枚手で取って口に運ぶ。
サクッ、サクサク
美味しい!なにこれ甘くて濃厚ね。お砂糖が入った小麦の焼き菓子。私が知ってるのはクッキーね。クッキーと同じ感じがする。
まあ私が知ってるのはもっと薄味で甘さ控えめでもっとポリポリしてるわ。
「クッキーよりもサクサクですね、甘いし。味が濃いですからコーヒーのサッパリとした苦味が合うんじゃないですか?」
「確かに!ちょっと飲んでみるわね……コクリ、……ほおっ。」
魔法士さんがコーヒーを一口飲んで大きく息をついたわ。
「凄っ!この焼き菓子の甘さが消え去ったわ。そしてコーヒーの苦味を完全に中和しつつ香りを残してる。コーヒーとビスケットはベストマッチなんじゃない?」
「ほんと……カレーライスでお腹いっぱいなのが嘘みたいに食べれちゃう。」
サブマスさんも大満足のようね。
「このビスケットは小麦粉、バター、牛乳、砂糖等を混ぜ合わせた焼き菓子、いわゆるクッキーと同じ物です。手作り感が高い物がクッキーと呼ばれるようですね。このお菓子の語源は『ビスキュイ』と言うものだそうなのでそれに肖って当店ではビスケットと呼んでいます。ショートニングと呼ばれる植物油から取られた物を沢山入れるとサクサク感が増してサブレーと言うお菓子になりますよ。」
へえ、じゃあお母さんが作ってくれる丸い焼き菓子はやっぱりクッキーでいいのね。
「あーおいしいー、もう帰りたくなーい、眠たーい。」
「もう!はしたないわね。気持ちは分かるけど冒険者ギルドも行かないといけないし、マールに帰らないといけないし。お昼寝してる暇はないわよ。」
「はーい、やれやれ。」
サブマスさんと魔法士さんのやり取りを見ながらマキアートを飲み干した。
あーお母さんが淹れてくれるマキアートもいいけど、ここで飲むのはやっぱり違うわ。香りと甘さ、苦みとほんのり感じる旨みが違うの。
特別感がすごいです!
私はカウンターの中にいる店員さんの方を見たわ。
お姉さんはサイフォンを水洗いして布巾で拭き取ってる。あっ目が合った!
「ねえエリーゼさん……」
急におしゃれお姉さんが小さな声で私を呼んだわ。
「は、はいっ!なんですか?」
「あ、あのぅ、このコーヒーってウォール商会さんで扱ってないんですか?」
「ええまあ、家で飲む分だけ購入してますよ。まだまだマイナーな飲み物だから商品としては取り扱ってはいませんね。」
「是非取り扱って貰えませんか?私購入希望です!」
「あ、それならここで買えますよ。豆やサイフォン、ドリッパー、ミルも買えますし美味しいコーヒーの淹れ方ハンドブックもいただけますから。」
私がそう言うと少しモジモジしながらお姉さんは答えました。
「じ、実は先程ショッピングで少々お金を使い過ぎまして……ここの飲食代を支払ったらもうカツカツなんです。すいませんエリーゼさんのおうちで扱って頂けるなら必ず買いに行きますから!」
「あはは、あらぁ……」
それは自業自得ってやつですよね?まあいいですけど。
とりあえずうちの分プラスコーヒー豆とコーヒーメーカーセットを追加で購入しとくとしますか。
お腹いっぱいになったし、それではいよいよ冒険者ギルドに向かいますか。
「冒険者ギルドは何処にあるのかしら?」
「えーっと、ここから歩いて20分くらいですかねぇ。ちょっと距離がありますよ。」
「はいはい、まゆげちゃんに乗ってください。行きますよ。」
食べたばかりのおなかに20分のウォーキングなんて女性にはつらいらしい。みなさん黙ってまゆげちゃんに乗り込みました。
るるる、ぷるるん!と軽快なエンジン音を立ててまゆげちゃんが起動……しなかった。
うぃーん、カチャ、ヴン!ルルルルルル………
な、なんだかメカニカル!!
「あれ?おかしいなぁ、まゆげちゃんのエンジン音がなぜかかっこよくなってる。」
以前の可愛らしいエンジン音と違い明らかにパワーのあるサウンド。それに左手のギアシフトノブがなくなって正面にツマミがついてるだけだわ。
これじゃ走れないわ。
「ねえエリーゼちゃん、座席の上に何かメモがあるわよ。」
メモには『操縦機構がちょっと古過ぎるので新しい仕様に変更しました。詳しくはこの説明書を読んで下さい』と書いてある。
ははあ、彼だな。やっぱりさっきのは夢じゃなかったのね。
説明書を見ると、どうやら正面のツマミを動かすとまゆげちゃんが前に出たり後ろに下がったりするらしいことがわかったわ。
速さを変えるのにギアチェンジをしなくていいらしい。便利ー!
アクセルを踏むといい感じにゆっくりと発進したわ。説明書によると何やら『スロットル・バイ・ソーサリー』という機構に変わったらしいわ。アクセルを踏んでも急発進せずいい感じに発進できるみたい。ツマミを1番に合わせるとめっちゃゆっくりしか走らなくなるし、2番に合わせると時速30キロ以上の速さが出なくなる。3番は普通に速いみたいね。
超便利かも!
慣らし運転をしてる間に冒険者ギルドへ到着しちゃった。慣らし運転とはいえ多分みなさん気付いてないくらいに快適だったと思う。
「ここよここ、ここがグレース市の冒険者ギルドよ。」
魔法士さんが指さした先にはマールの冒険者ギルドとは比べものにならないくらいの大きな建物があったわ。
「流石大きな都市の冒険者ギルドですね。」
「でも、何か居心地が悪いのよ。別に何かされた訳じゃないんだけど、何か嫌な気持ちになるの。」
「へえ。」
まゆげちゃんは目立っちゃうから1度送還して、改めて4人で冒険者ギルドに入ってみたわ。
中は広くて正面に4ヶ所の受付カウンターがあった。右側にクエストボードや模擬戦を行ったり装備を調整したりする施設があり、左側は飲食スペースになっているようね。
「ミルフィ、いるかな?」
私はキョロキョロと辺りを見渡したわ。周りの人と目が合う。
うーん、明らかに余所者のお子様はお呼びじゃないって目付きよね。私が依頼者だったらどうするつもりかしら?
「これは……女性だけで来るにはちょっと勇気が要りますね。」
「こ、怖いですよ!」
「うーん、まぁエリーゼちゃんがいたら別に問題ないレベルよ?私もいるし大丈夫。」
サブマスさんとおしゃれさんはちょっと気が引けてるみたいだけど、さすがは先輩冒険者の魔法士さんは堂々としてる。
なぜ私がいたら問題ないのかは分かりませんけど!!
その時、カウンターの方から大きな声がしたわ。
「嘘付きミルフィはどうやってクエストをこなしてるのかなぁ?弱いくせにこんな依頼なんで完了出来るんだよ!」
「親の金で適当な依頼出して上手くやったフリしてんじゃねえの?」
「あらミルフィさん、それはギルド職員として看過出来ませんね!この依頼は失敗とみなす事にしましょう!」
「………」
声の方を見ると、数名の冒険者らしい人に囲まれたコバルトブルーのマントを着た姿が目に入ってきた。
あれはミルフィ!!
フードを被ったミルフィはどうやら依頼を完了してギルドカウンターで達成金を受け取るところだったようなんだけど、なにか様子がおかしいわ。
なんだか意地悪をされてるみたい。
そういえばミルフィのお父さんもミルフィが嘘付き呼ばわりされてるって言ってたなぁ。一体何があったのかしら。
まあいいわ、まずはミルフィとお話しなきゃね。
私はカウンターにいるマント姿をしたミルフィの後ろに立ち、肩をポンポンと叩いた。
「ミルフィ、元気だった?久しぶりね!」
その声にマントの肩がぴくりと震わせた。そして、ゆっくりと振り返る。
「その声は……エリーゼ!どうしてここへ!?」
振り返った勢いでフードがずれてその赤い髪が顕になった。その姿は間違いなくミルフィだったわ。
でも、その綺麗な青い瞳からポロポロと涙が流れてたの。
やばい!たった今書き上がりました。今週はここまでです。
来週もがんばりますので応援よろしくお願いします!
また来週お会いしましょう!




