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081 不思議なひと

「あの、その荷車に何かご用ですか?」


 私が声を掛けるとその人はゆっくりとこちらを向いた。


 灰色のローブを着た黒目黒髪の男の人。一見大人な人に見えるけど、なんだか少年のようにも見える。


「ああ、この()()()()はあなたのものですか、素敵ですね。」


 その人はニッコリ微笑みながらまたまゆげちゃんの方を向いたわ。


 優しそうな面差しだけど意志の強そうな眉毛、大きくて力強い目、顔立ちはわりと普通だけど……なんとなく作り物の顔みたいに見える。すっごいにこにこしてるけど。


 着ているものは灰色のローブなんだけど、それにも凄く違和感を感じたわ。生地は少し光沢がある硬そうな雰囲気の素材でできてるのに、実際は柔らかくて手足の動きにフィットしてるように見えるの。


 てか彼のローブ、フードや袖が付いてるのに縫い目が全くないのよ。絶対変だわ!


 でも、それより1番気になるポイントは……


「あなた、なぜその荷車を()()()()だって知ってるんですか!?あなた一体何者ですか!」


 この人、まさか!


「あああすいません驚かせたようですね。懐かしいものを見たもので気になっちゃって。でも、サイズが違うなぁ。『まゆげ』は軽トラな筈なんだよね。」


 やっぱりこの人まゆげちゃんが何なのかを知ってる!



 間違いない!この人異世界人だ!!



 私は収納付きの指輪からハンマーと盾を出して構える。途端に私の恐怖耐性スキルからキンキンと警報が放たれた。


 なにこれ!?私の恐怖耐性スキルでは防げてないほどの圧力!?この人、ヤバいかも!!!


 そんな私の反応に、彼は慌てたように両手を振ってる。


「いえいえ、こんな所であなたと争うつもりはないですしこのトラックになにかするつもりもありません。ただ、懐かしさから眺めていただけですから。どうか鉾を収めて下さい。」


「ほんとに……何もしませんか?」


「うっ、そう言われると困るなぁ。そうですね、じゃあお話をしましょう。人とはコミニュケーションを取る生物ですからね。ぼくはコミニュケーションを取るのが苦手でして……逆にしっかり話してお互いの理解を深める事が重要だと思ってるんです。人の気持ちを図るのは難しいですからね。」


「それはとても大事だとは思うんですが……私としては、初対面の、それも女の子が不審に感じている男性とコミニュケーションを取ることの方が難しいと思うんです。」


「た、確かに!!」


 ガビーンって音が聞こえそうな程もんどり打った彼。明らかにガックリきたみたいで、しょぼんとしてため息をつきながら私から1歩離れたわ。


「はあ、失念してました。やっぱり女性の心理は分からないなぁ。お話をすれば打ち解けれるかなと思ったんですけど、そもそもぼくを不審に思っているなら会話なんて無理ですね。あああ、落ち込むなぁ。」


「い、いやいや、そんな凹むほどの話じゃ……」


 ……なんか、私が悪いこと言ったみたいな気がしてきちゃった。


 ハンマーと盾を指輪の収納に戻す。


「私はあなたのことを知りたいとは思いません。でも、私に害を及ぼしたりまゆげちゃんを壊したりしないのなら特に問題ないです。ご自由にご覧ください」


 はあ、とため息をつきながら私がそう言うと、彼は頭を上げて笑ったわ。


 よく笑う人ね。悪い人じゃないのかも。


「ありがとうございます。じゃあお互い身分を明かさず詮索せずって事で。このマイジェットに見える中型ダンプがどういう経緯でここにあるとか知りたいとは思いますが……我慢します。こいつを見せてもらえるだけで満足しなきゃ。」


 そう言いながらも彼はすっごく残念そう。


 仕方がないなぁ。


「このトラックは『まゆげちゃん』って言います。私のスキルで生まれてきたの。よくしてくれるおじさんがスキルや重機に詳しくて、その人のアドバイスで手に入れた私の眷属…というより相棒です。」


「ええっ!スキルでトラックが出せる?そりゃすごい!これ1台でも流通に革命が起こるレベルなんじゃないかな?」


 へぇ、ミノルおじさんもそうだけど異世界から来る人ってそんなに経済に興味があるんだ。


 異世界ってどんなところなんだろう。


「という事はやはりこの子は元々マイジェットで、あなたのスキルで変化してるという事か。なるほどねぇ。ん?所々明らかに人の手が入ってるな。荷台に空間収納、過剰な程の防衛魔導具、さらに何故か『ウルクシステム』まで……うーん、これはちょっと……」


 なにかふんふん言いながらあちこち見て回ってる。


 本当にただの重機が好きな人のようだわ。よかった、重機を怖がらない人に悪い人いないでしょ?


「楽しそうですね。運転してみますか?」


 私がそういうと彼は驚いた顔で私を見て、すぐに穏やかに笑った。


「お気遣いありがとうございます。お言葉は嬉しいのですが遠慮しておきましょう。この子はあなたの相棒だ、ぼくなんかが興味本位で乗っちゃいけない。」


「えええ、まゆげちゃんはそんなこと言いませんよ?誰だって何だって運んでくれますから。」


「ああ、あなたは素晴らしい人だ。」


 彼は私の前まで進み出て、しゃがみこんで私の手を取ったわ。


 えっえっ?なにごと!?


「是非あなたの眷属『まゆげちゃん』をカスタマイズさせてくれませんか?この子はとても大事にされている上かなり高性能に仕上げられてる。さらにスキルの力なのか眷属の加護の力なのか、すごい魔素で保護を受けてる。でも、残念な事にその力の凄さに車体が付いていけてないんです。能力や加護に見合った躯体を手に入れなければこの子の能力は制限され、いずれ壊れてしまいます。」


「えええっ!?まゆげちゃん壊れちゃうの!?」


「はい、このままではいずれ。」


 それは困るわ!そんなのイヤよ!まゆげちゃんは私の初めての眷属で、大事な家族なのよ!


「怖がらないで、大丈夫。そんなにすぐ壊れるわけじゃないですから。ただ大きくて強い力にはそれに見合った受け皿が必要だと。あなたは聡明だ、ぼくの言ってる意味は分かると思います。」


 分かるわ。古い皮袋に新しいワインを入れておくといずれ皮袋は破裂しちゃう。新しいワインの熟成していく力に皮の張力が保たなくなるの。


 まゆげちゃんはもともと中古の550ccトラックだもの。今の状態は私のスキルで無理にカスタマイズしちゃってるって事なのね。


「あなたがぼくにお気遣いをしてくれた事に応え、ぼくも自分の事を伝えましょう。ぼくは『錬金術師』です。今素材もそれなりに持っていますしそれを使ってまゆげちゃんを再錬成しましょう。」


「れ、錬金術師!?」


 思わず声が出ちゃった!


 錬金術師。それは伝説のスキル。


 そんな珍しいスキル持ちがこんな所にいるなんて、嘘か冗談かな?ありえないと思うわ。


 でもまゆげちゃんが壊れちゃうかもしれないって時にトラックが好きな異世界人の錬金術師が目の前に現れる確率は、砂浜で落とした小さな宝石の欠片を見つけ出した時よりも稀有だと思うの。


「まゆげちゃんをお願いします。」


 私は彼の手を握り返してお願いしたわ。


「はい、よろこんで。すぐに取り掛かりますしすぐに終わりますよ!」


 立ち上がった彼はピョンピョンと飛び跳ねながらまゆげちゃんに近付き、色んな所をぺたぺた触り始めた。


「やはりシャシーは柔軟性の高いオリハルコンだよね。逆にボディは衝突安全性と旋回剛性を上げるためにアダマンタイトがいいかな?エンジンは魔導エンジンに積み替えてある…….アイツ良い仕事してるなぁ。それなら触らずに魔石を大型化しとこう。」


 見た目は全く変化ないけど、確実に何かが変わってるのが分かるわ。


 だって、まゆげちゃんから発する不思議な力は明らかに増えてるんですもの!


 この人本当に錬金術師だったのね!


「コントロール系に擬似魂縛を仕込んで、飛行系魔法と転移系魔法の付与された魔石は……あったあった!」


 そしてちょいちょい聞き捨てならないのよ!不思議な力増え過ぎ!




 時間にしてほんの1、2分だったけど、錬金は全て完了したようね。


 スッキリした表情から見てとても満足した様子でまゆげちゃんを磨いている彼。


「あ、あのぅ、終わりました?」


 いちおう声掛けとこ。


「あ、あああ、はい、バッチリです。これなら古龍にでも勝てますよ。」


「え?なんですって?」


「いえいえなんでもないです!」


 古龍に勝てる?意味が分かりませんが?


 もうさっきからこの人めっちゃ不穏な言葉を漏らし続けてるわ。本当に大丈夫なのかしら?


 でもまあこれでまゆげちゃんが壊れないで長く走り続けることができるのなら、それでいいわ。


「完成させておいてから言うのはなんですが、ひとつお約束してほしい事があります。」


 まゆげちゃんのボディを丁寧に拭いてるご機嫌な彼から声が掛かった。


「な、なんでしょう?」


 え?約束?


 この人弄ってから請求かけてくるタイプの人だったの!?しまった、つい油断したわ。


「なになに簡単な事です。この子を捨てないでやって下さい。いつまでも大事にして、話し掛けてやって下さい。あなたの掛けた愛情の分、この子は応えることでしょう。」


 彼は私の目を見ながらそう言ったの。その目を見た瞬間、私の魂が震えた!


 ああ、なんて素敵な瞳かしら。その黒い瞳から放たれる赤い輝き。その真っ直ぐで優しい眼差し。


 モノや道具を愛するその気持ちには偽りはないのが分かる。この人は本当の意味でものつくりを極めてるのかもしれないわね。


 彼こそまさに、『錬金術師』だ。『士』じゃなく『師』と呼ばれるべき人。


「はい、分かりました先生。必ず大切にします!」


 なぜだろう、思わず私は彼の事を先生と呼んでしまった。


「あはは先生か、久しぶりにそう呼ばれたな……懐かしい響きだ。あなたなら大丈夫だろう。」


 私の返事に嬉しそうな様子の彼。


「その指輪も大事にしてあげて下さいね。余裕があったらまゆげちゃんにも指輪にもあなたの魔素を込めてあげて下さい。あと、ミノルによろしく伝えておいて下さいね………


「え!?今なんて………




 目の前にいたあの人は消えてたわ。いくら振り向いてももうその姿を見つけることは出来なかった。


 もしかしたら夢だったのかな?


 妖精に鼻を摘まれたような気持ちのまま、私はまゆげちゃんから離れてネコの尻尾店内に戻ることになっちゃった。

ヤツが出ました!気の迷いです。特に意味は無いです。まゆげちゃんバージョンアップでした。

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