080 神々の食物
食後の飲み物はみんなコーヒーを頼んだ。私とコーヒー初心者のおしゃれお姉さんは私オススメのマキアート、魔法士さんはお店オススメのブレンドコーヒー、コーヒー好きなサブマスさんはカプチーノとかいうちょっとおしゃれな感じのを注文したわ。
どんな料理がくるかしら?みんなも気持ちは同じみたいでちょっとソワソワしてる。
「お待たせ致しました。クリームパスタとオムライスです。特製BLTサンドイッチはすぐにお持ちします。カレーライスは少々お待ち下さいね。」
来たっ!すごい待った気がする。とりあえず魔法士さんのクリームパスタとおしゃれさんのオムライスが先みたいね。
「ふわぁ!クリームの良い香り!この麺見ただけでプリップリなのが分かるわ!」
「この黄色いのはもしかして卵!?し、しゅごい!!」
ふたりとも大喜び。
「こちらの麺の事をパスタと呼びます。主に暖かい地方で取れる固くて水分量の少なめな小麦を粗挽きにしたものに水、塩、場合によっては卵を入れて練り込み、コーヒーメーカーと同じ所で作られた専用の機械で押し出して麺状にしたものを茹でて作ります。オムライスはフワッとした食感を出すためクリームパスタと同じく卵の中にクリームを混ぜ込んで焼き上げていますよ。卵はコカトリスを養殖して生産したもので、コーヒーの産地と同じ遠いランスという国から転送魔法にて取り寄せております。」
「フンフン。」
「うんうん。」
店員の美人さんがニッコリしながら説明してるけど、ふたりともあんまり聞いてない。食べたくて食べたくて仕方がないって感じね。
ていうか店員さんの説明ちょいちょい爆弾発言が挟まってるんですけど!
「そんな凝視しなくても横取りなんかしないわよ。なんなら先に食べちゃいなさい。」
「えええ、サブマスさんはともかくエリーゼちゃんを差し置いて先に食べるのはちょっと……」
「うーん、そうよね。でも温かいうちに食べたいわ。」
やれやれ。
「お姉さん達、先に食べちゃってください。もしかしたら美味し過ぎておかわりしたくなるかもしれませんよ。」
「そっそうね!いただくわ!」
「い、いただきます!」
私の助け舟を聞くやいなや即食べ始めたふたり。サブマスさんが『ごめんなさいね』と言いながら私に手を合わせて謝ってる。
「お、美味しいっ!このパスタっていう麺はやっぱりプリップリね!その麺に絡みついてるクリームソースは濃厚でさ、甘さの中にちょっとだけ効いてる胡椒がアクセントで味を締めてるの!そこに蕩けるような柔らかい鶏肉、そして噎せ返るようなクリームの香りの中にほんのり存在するキノコの香りがまた食欲をそそるわ!幾らでも食べれちゃう!足りない、こんなものじゃ足りないわ!」
「うそぉ!これが卵!?しっかりとしたぷるんぷるんの見た目なのにスプーンで掬って口に運ぶとすぐに消えちゃうわ!もういないのよ!破裂するほどの芳醇な卵の甘味を残して消え去るのよ!これ絶対卵じゃない!雲ね!雲ってどうやって取るのかしら?色の付け方も知りたいわ!それに中に入ってる赤く色付いてるプチプチした粒も甘くて美味しいわ。これってヤバい食べ物じゃないわよね?」
えええ、ふたりともそんなに暑苦しいキャラだったっけ?めっちゃしゃべるじゃん。
そんな解説を聞いてたサブマスさんの口がぽかんと開いてる。
「そ、そんなに美味しいの?気になるなぁ。」
サブマスさん、よだれよだれ!
「お待たせ致しました。特製BLTサンドイッチです。生産者が自信を持って提供しますレタスとトマトはやはり遠いランスという国から転送魔法によって送られてきた採れたての物です。ベーコンも厳選された高魔素な森で討伐されたオーク肉のロースを魔素たっぷりの黒樫を使用して燻製にした特注品ですよ。」
また聞き捨てならない言葉が!転送魔法て!ホントかなぁ?
「説明を聞くと食べることを躊躇ってしまうわね。でも、いただきます……はわわ!」
店員さんの説明を聞いてからサンドイッチにかぶりついたサブマスさんから変な声が出てる!
「うんまっ!!このサンドイッチっていう食べ物、ただのパンに具材を挟んだだけの軽食だと思ってたけど全然違うわ!まずこのパン、何この柔らかさ!物凄く芳ばしい香りがするからしっかりした固さかと思いきやめっちゃフワッフワなの!でも中のお野菜はサックサクでなんとも言えない不思議食感を醸してるわ!サクサクトマトって何よ!しゃっきりレタスは勝利よね!?ふわさくコントラスト?もふしゃきハーモニー?本当に不思議が止まらないわ!そしてジューシーなのにビチャビチャにならないトマトとレタスから爆発する容赦ない甘みとその中に包まれているワイルドな旨味たっぷりのベーコンから迸る優しい塩味!さらにベーコンからふんわりと匂う森林の香り……これ本当に燻製なの?森がはいってるんじゃない?」
サブマスさん壊れちゃった!めっちゃ喋りながら食べてるわ。すっごい説明してる!
「サンドイッチに入っているソースは先程と同じ卵の黄身から作ったマヨネーズと言う当店オリジナルソースです。ソースでありながら万能調味料なんですよ。」
笑顔で説明してる店員さん。お姉さん方、ちゃんと話を聞いてあげましょうよ。
「お嬢様、お待たせ致しました、カレーライスです。」
店員さんは笑いながら私の前に真っ白な深皿を置いたわ。
よーしきたきた……って、え?なにこれ?真っ白じゃん……あっ!よく見るとお皿の中には白いツブツブが入ってる!
店員さんは手に持っていたトレイに乗った銀色の食器を持ち上げ、私の前に置かれたその白いツブツブの入った深皿の中に銀色の食器の中身を垂らした。
トローリ、キラキラッ、ふぁあっ!
まっ!眩しい!!立ち上がることができないっ!それにこの香り!一体何が起こったの!?
黄金に輝くトロットロの液体が白いツブツブに掛けられた瞬間、私の脳が揺さぶられたのが分かったわ。
身体を貫くような何とも言えない香り!芳ばしくありスパイシーでありながら蜜のような芳醇な甘さも感じさせる素敵スメル。
その香りに脳が、身体が、精神が揺さぶられたの!
身体中の毛穴が開く感覚。汗が、よだれが、涙が止まらないわ!
「な、何これ!?クリームパスタ美味しかったけど……カレーライスの存在感に一気にかき消されちゃった!」
「オムライスにこの茶色い……いえ、この黄金色のソースを掛けたいいぃ!!」
「今日は軽食で済ませたかったのに……これは我慢できないわっ!」
みなさん口々に何か言ってる。落ち着いてっ!気持ちはわかるけど私まだ食べてないから!食べてからじゃないと全てが分からないわっ!
湧き出る唾をごくごく飲み込みながらスプーンでカレーライスを掬ってみた。
おおう、さらに香りが広がったわ!あのコーヒーにもあった芳醇な芳ばしさ……もうこれ以上我慢できないっ!
あーん、パクリ……
「ふわあああああっ!」
くっ、辛い!口の中にとんでもない刺激が!まるで濃い蜂蜜でできた炎が焼え盛っているみたいよ!
濃厚で辛い!でも美味しい!
お肉の旨味とお野菜の甘味、フルーツのような酸味、そして、加熱された香辛料の貫くような刺激的な香りと……その全てを包むような辛さ!
これは神々の食物だわ!
「はむっ……か、辛いっ!口から火が出そう!はむっ……ああ、辛い!汗が止まらないわ!はむっ……はぁ、はぁ、こんなに辛いのに手が止まらないってなんなのよ!カレーは辛くて美味しいわっ!」
はむっ、はむっ、はむっ、はっ!
「な、何が起こったのかしら!?」
カレーが……もうない……ですって?
「私、11歳の少女が結構な量の食事を丸呑みするところ初めて見たわ。」
「し、衝撃的でした!」
「これは『マール紳士同盟』には内緒にしなきゃならない案件ね。」
お姉様方がレイスでも見たような顔で私を見てる!
どうやら私はカレーライスをすごい速さで完食してしまったみたい。なんだか恥ずかしい!
「だ、だって、とっても美味しかったんですもの!」
「それは見れば分かるわよ。ねえ、どんな味だったの?」
「味の印象は、『辛い』です。でも、お肉や野菜の甘味や旨味はしっかり分かります。あと、フルーツでも入っているのか酸味がありますよ。とはいえ味のベースは食べたことない味です。多分これが香辛料の味だと思います。香りからくるイメージは損なってません。」
「それはやっぱり食べないと味は分からないってことね?」
「そ、そうですねぇ。辛くて美味い食べ物で、この『ライス』と抜群に相性が良いってことが伝えられるかな。」
カレーライスはライスがいい味を出してると思うわ。この白いツブツブが甘くてまろやかで、カレーをたっぷり染み込ませてるから食べやすくなってる。
「このライスは近年まで『ライスウィード』と呼ばれる雑草でした。成長し実った穂から採れた実は煮れば溶け焼けば焦げ、挽くとベチャベチャになり生はお腹を壊してしまう役に立たない植物でした。ある寒村で食料が無くなり死を待つばかりとなった村人の前に現れた1組の夫婦がこのライスウィードを『炊く』という加熱調理法で調理し、村人に振舞った所あまりの美味しさに爆発的に広まったとされています。」
ほら!やっぱりライスも大事だったんだわ!店員さん説明ありがとうございました。
「ううう……これは食べない訳にはいかないじゃない!」
「やっぱり食べちゃう?」
「す、すいません!このカレーライスを3つ!3つお願いします!」
「かしこまりました。少々お待ち下さい。」
サブマスさんったらみんなの確認もせずに3人分のカレーライスを注文してしまったわ。うふふ。
これはコーヒーはちょっとお預けになりそうね。
そう思って窓の外に目をやった時、窓越しにひとりの人影が視線に入ったわ。男の人のようね。だれだろう……
ん?あそこは確かまゆげちゃんを停めてるところよね。
その人影はまゆげちゃんのある方をじーっと見てる。
なんだろ、ちょっと不安だわ。
「私はおかわりいりません。みなさんが食べ終わったら一緒に飲み物をいただきますから……ちょっとまゆげちゃんを見てきます。」
私は幸せそうにスプーンを握りしめてる3人に声を掛けてから席を離れた。
ヤバい、カレー食べたくなりました!明日は健康診断という嫌がらせです。明日の夕方カレーが食べたいな。




