055 モータグレーダに乗って
「おはようエリーゼ、今日はどこへいくの?」
「おはようミルフィ。今日は工事現場のコンクリートが固まるまで中に入れないから別のお仕事をするよ。あっ、ミルフィは一緒にいてくれればいいからね。」
コンクリート打設工事が終わってから散水車を呼び出して生コン車とポンプ車を丸洗いしたとき、散水車のステータスオプションに『パイロン』『立ち入り禁止表示バー』『折りたたみ式バリケード』が見つかったの。
それで工事現場の周囲をグルリと囲んで立ち入り禁止区域にしたわ。
「カラーコーンは便利だぞ。重ねれば嵩張らないし、次の工事に使えるな。」
「赤白のシマシマがかわいいな。」
「これは購入品だからなくならないです。また使いましょう。」
使い終わったらまゆげちゃんに積んどくだけだしね。
「という訳でコンクリートが固まるまでは仕事がねぇ。ただ何にもしないのも性に合わねぇから嬢ちゃんとミルフィちゃんには自由時間をやるよ。期間は3日。黒オヤジのダンナは次の工程の打ち合わせだ。せっかく嬢ちゃんが生コン車とポンプ車をリースしてるんだからもう1回生コン打設やっときてぇから。」
そっか、それならやりかけだった道作りの続きをしたいわ。
前回の山崩しのとき貯めたワーキングポイントがまだかなり残ってるわ。それにコンクリート打設やったら2,500万ものワーキングポイントをゲットしちゃったのよ。
それを使って新しい重機が欲しいの。道作りといえばやっぱり『モータグレーダ』よね。価格は2,500万wpだけど大丈夫、まだ1億ポイントあるから!
今日はコンクリート打設で疲れたから明日の朝早起きして道作りを再開しましょう。
「じ、じゃあエリーゼは今から新しい重機を手に入れるつもりなんだ。」
「そうよ。『モータグレーダ』っていう地面を平らにする重機なのよ!」
早起きしてミルフィといっしょにマールの門から外へ出た。今日は隊長さんがいなかったな。遅番かしら?
「ひええ、昨日の生コン車とポンプ車だけでもすごいし、まゆげちゃんだってすごいのにまだまだあるんだ。」
「あーミルフィには他の重機達を見せてなかったっけ?あとで見せてあげるわ。でもとりあえず……」
私はステータス画面から『12トンモータグレーダ』を選んだ。
2,500万wpもするけど問題なし。ポチッとな。
「カモン!モータグレーダ!道直しの旅に出るわよ!」
ゴゴゴゴゴゴ!
目の覚めるような真っ青の壁が反り立ち、中から現れたのはタイヤが6個も付いた黄色い縦長の重機。
後ろはホイールローダーみたいな感じだけど、前は前方にタイヤの付いたながーい桁が掛かっててホイールローダーとは明らかに違う。
アームというより首みたい。本体からながーい首が生えてるように見えるわ。
その桁の下に、これまた巨大なブレードと呼ばれる排土板が付いてる。これで地面の土を平行に削り取っていくのね。
排土板は左後ろに向かって斜めに付いてるから削れた土は左に流れていく。それを後から拾えばオッケーね。
後部ハッチと桁部に『VALVA』って書いてある。作った会社の名前のようね。よくわかんないけどなんか高級感があるわ。
「え、エリーゼ!ドラゴン!?いや、ベヒーモスだ!ベヒーモスが出た!逃げなきゃ!」
「ええええ……ミルフィもう慣れようよ。」
この子は初めから運転席がキャビン式になってる。道路を削りながら走り続けるから運転が快適になるように設計されてるんだろうな。
「名付けとカスタマイズはあとからにしましょ。とりあえず乗るわよミルフィ。」
「か、噛まない?」
「噛まないわよ重機なんだから。カバルの街まで行ってみましょ。ブルータス様はクローラーのせいで道を傷付けてしまってたけど、この子なら綺麗にならしてくれるはずよ。」
運転席の後ろにミルフィを押し込めてからエンジンを始動。
ギュギュギュ…ドルルン!
「よーし、はっしーん!」
お腹に響くような咆号を上げ、モータグレーダは動き出したわ。
「まあまあ速いわね。時速20km出てるし。」
練習がてら街の外をグルリと1周してみよう。
「それじゃさっそく排土板を下げて地面を掻いてみるわね。」
レバーを下げて排土板を接地させると、グググググって振動が伝わってきたわ。
うふふ、順調順調。
「わあすごい!道が平らだよ!見て見てエリーゼ!」
後部ハッチの窓から後ろを見てるミルフィがうれしそうに声を上げてる。
「うふふ、すごいでしょ?排土板の向きを変えたら少しくらい深くも掘れちゃうのよ。道がでこぼこ過ぎる時はそうやって深く地面を削って平らにするの。」
マールの街の外周を回ってると防壁の上にいる兵隊さんがこっちを見て手を振ってくれたわ。
私達も手を振り返し、いよいよカバルまでの道の整備が始まる。
左側を時速20kmよりちょっと速いくらいの速度でモータグレーダを走らせたわ。
「ねぇエリーゼ、この街の人達はみんなあなたのことを知ってるようだけど、どうして?」
後ろの窓から外を見ていたミルフィが私に話しかけてきた。
「うーんみんなではないけど、工事現場に私の持ってる重機を並べてたらたくさん人が集まっちゃったことがあるのよ。そんなの工事の邪魔になるでしょ?だから空き地に使わない重機を並べて見学してもらったのよ。たぶんあれでいろんな人達が私のことを知ったと思うわ。」
あの時は結局お祭りになって、色んな人に挨拶をされちゃった。
「エリーゼはスキルに恵まれたんだね。」
「いいえ、私最初は『落ちこぼれスキル持ち』って言われてたの。」
「うそだぁ、こんなすごい重機を使えるエリーゼが落ちこぼれなわけないでしょ。」
ミルフィが疑いの眼差しで私を見てる。
「ほんとよ。だって『重機』だよ?春の鑑定会に集まった人達のみんなが重機ってなんのことだかわからなかったんだから。私だってわからなかったもの。まず重機がなにかわからないからなにをすればいいかも当然わからないでしょ?だから調べることもできないの。ただステータスの技能欄に『重機』って書いてあっただけだったの。」
あの時はつらかった。いちばんつらかったのは、私を励ましてくれたお父さんとお母さんがすごく残念そうに話をしていたのを聞いた時。
「自分はなにもできないと思ってしまって涙が止まらなかったわ。両親の期待に答えられないって思うと胸が張り裂けそうだった。」
ミルフィが後ろからヘッドレストごと私を抱きしめてくれたわ。
「エリーゼ……ごめんね。」
「えへへ、だいじょうぶよミルフィ。ありがとね。」
「ううん、ぼくはエリーゼはみんなから愛されて順調にやってきたとばかり思ってたんだ。ぼくは最初みんなから期待されてとっても幸せだった。自分が誇らしかった。でもその期待に答えることができなかった。みんなから距離を取られ陰口を言われ、とっても辛かったんだ。」
ミルフィの腕に力が入ってる。ちょっと震えてるわ。
「ぼくは……エリーゼに嫉妬してたんだ。ぼくを強くしてくれた人なのに、心のどこかで自分とは違う人だって思ってたんだよ。でもそうじゃない、エリーゼはぼくと同じ……いやぼくより辛い境遇から這い上がってきたんだね。」
私はミルフィの腕を撫でた。
そっか、ミルフィが遠慮がちだったりなかなか私の重機に慣れないのはわだかまりがあったからだったのね。
「私はミノルおじさんに救われたの。あの人が川土手で泣いてた私に声をかけてくれたから私は重機達と出会えたの。モジャおじさんが私を褒めてくれて隊長さんが私を信用してくれたから私はがんばれた。ギルドマスターさんが心意気の大事さを教えてくれたから私はここまで来たわ。まだ11歳だけどね、えへへ。」
そよ風の輝きのみなさんや黒オヤジのおじさん、街の人達が私を大事にしてくれた。他の街や村で出会った人達も私に親切にしてくれた。
ミルフィのお父さんもそのひとり。私を認めて娘さんを送り込んでくれた人だもの。
「ミルフィ、どっちがつらかったとか関係ないわ。ミルフィのお父さんはあなたを応援してくれたでしょ?私のお父さんとお母さんも私を励ましてくれた。お兄ちゃんはちょっとキモイけど以前と同じように私をかわいがってくれてる。私達は家族から応援されてるんだよ。そこはふたりとも同じなの。」
「うん、そうだね。父さんだけはぼくを応援し続けてくれたんだ。」
「ならお互いがんばらなきゃ。私達はお友達だけどライバルなのよ。どっちが家族をより安心させてあげられるか勝負ね。」
「あはは、そんな素敵な勝負なら負けたくないや。エリーゼ、ぼくとお友達になってくれてありがとう!」
ヘッドレストの横からミルフィの顔が出てきて私とミルフィの頬と頬が触れ合ったわ。
ああ、ミルフィはお父さんが言ってた心の通じあった真の友なのかもしれないわね。
ミルフィと私がそんなお話をしている間にもモータグレーダは順調に道をならし続け、私達は無事カバルの街に到着したわ。
こんちわ!ぴ~ろんです。
今週はここまで。短くてすいません。早くお腹の具合を治してまた元気にやっていきたいと思います。
『モータグレーダ』は本来『モーターグレーダー』と後ろに伸ばし棒がいるそうです。モーター=動力、グレーダー=地均し、と言う意味だそうですが、伸ばし棒が多いったらないので後ろの棒を取っちゃいました。
行の3割取っちゃうんだもの。なんか嫌でした。
すいませんがご了承ください。
それではまた来週お会いしましょう。ご感想や評価をお待ちしてます。




