045 ギルドカードの秘密
「いやぁ、えがった!」
ギルドマスターのお姉さんを乗せて元砕石山まで行ってきました。
最初は緊張の面持ちで助手席に乗ってたお姉さんは砕石山まで数分で到着した事実を認めることができなかったみたいで、山がないのを理由に嘘だって言い張ったの。
まゆげちゃんのエンジン音を聞いておうちの中から出てきた砕石のおじさんに事情を説明したら、お姉さんを色々説得してくれたおかげでそこは渋々納得してくれた。
でも、そのあと先日お父さんとこのまゆげちゃんに乗ってグリース市まで一日で行って帰ってきた話も信じてくれなかったわ。
実際に会った雑貨屋さんの娘さんが尋ねてきたんだから本当に行ってきたのは事実だし、私そんなに長くマールを離れたことはないのになぁ。
仕方がないから平地になった元砕石山でちょっとスピードを出して駆け回ってみたのよ。
まゆげちゃんの速さを体感してもらおうと思ったの。
グーンとスピードを出して急ハンドルを切り、アクセル全開にしてからハンドルを反対に切ったらまゆげちゃんは面白いように真横に滑って曲がっていく。
すごいでこぼこ道も四輪駆動だからお構い無しだし、もうもうと土煙を撒き散らしながら走り回るまゆげちゃんの中で揉みくちゃになってるお姉さん。
とうとう吹っ切れてしまったみたいで、奇声を発しながら大喜びし始めちゃったからちょっと怖くなって冒険者ギルドまで帰ってきました。
今ここです。
「どうだ?少しはエリーゼ嬢の重機スキルの凄さを体感出来たか?」
「そりゃあもう!ぐわーっと進んでぎゃぎゃぎゃって曲がってさ、ばいんばいん跳ねながらびしっといってたわ!素晴らしいスキルでした!」
「いるよなぁ、説明が下手過ぎて擬音だのみの奴。」
「うちのギルマスがなんかすまない。」
商業ギルドのギルドマスターさんはビシッとしてるから職員さんや会員さんも一目置いてるみたいだけど、どうやら冒険者ギルドのギルドマスターお姉さんは残念な人だったようね。
素敵な人だと思ってたのに。ガッカリ。
「エリーゼの嬢ちゃん、こう見えてもうちのギルマスは元白金等級のスカウトだったんだぞ。」
「スカウトってなんですか?」
「斥候や情報収集を得意とする探索者だ。投げナイフなんか百発百中なんだぞ。」
投げナイフとかできるんだ!すごー!!
「おい、とりあえず貴様の家にいるエリーゼ嬢の客人を連れて来い!」
「ふん、私はこれでも冒険者ギルドのギルドマスターよ?私がここから離れる訳にはいかないじゃない。」
「おいおい今の今まで嬢ちゃんとまゆげに乗って出掛けていた人物の発言とは思えないな。どの口が言ったんだ?」
「この口ですよ!」
「その口が悪いんだな?顎ごと砕いてやろうか?」
「すぐに行ってきます!!」
お姉さんは逃げ出した!!
「ふう、やっと消えたか。とりあえずもうひとつの問題を話し合おう。あ奴が居たら話にならんからな。」
ギルドマスターさんがため息混じりにそう言ったわ。え?もうひとつの問題ってなに?
「ああ、エリーゼがギルドカードを溶かしてしまった問題ですね。」
あ、そういえばそうだった。お父さんよく覚えてたわねぇ。
「そうだ。エリーゼ嬢が冒険者ギルドに登録するにせよしないにせよ、カードが溶けるなど前代未聞だからな。」
そうか、ギルドカードに私の情報を入れないと冒険者になれないんだったわ。
「みなさん、私は自分のハンマーに魔力を流すのと同じようにカードに魔力を流しました。やっぱり魔力は流すんじゃなくて付与するのが正しいんじゃないでしょうか?」
私の精神力を流すことはきっと間違えたやり方だったのよ。
ならやっぱり血が必要なのかな?
「代わりに血を掛けてみたらいいのかな?うう、痛いのはやだなぁ。」
「エリーゼ、血が必要なのではなくその人の情報が必要なのだ。だから魔力や液体の様な吸収出来る物質なら構わないんだよ。だからギルドカードを舐めて唾液を付着させればいいんだ。」
え?そうなの?ていうかどうしてお父さんはそんなこと知ってるの?
「流石は元冒険者だな、よく知っておられる。昔はよく女性の冒険者はカードの角を舐めていたものだ。ギルド登録時はみな駆け出しだから魔力を操作出来ない者が多いのだよ。」
ギルドマスターさんがうんうんと頷きながら答えたわ。
「た、確かに!俺達は指先をナイフで切って血を付着させたぞ。今でこそ少しは魔力を動かせるが当時は出来る訳なかったもんな。」
「ええ、指先とは言え結構痛かったよな。買ったばかりのポーションをみんなで回して指先に塗ったもんだよ。」
「私もです。それにカードの角を舐めるなんてちょっと可愛くて……そっちの方がいいじゃないの。」
「血を塗るのが契約みたいでカッコイイからやったんだよ。確かに女にはきついかもしれん。血の契約がカッコイイとか男の考えだもんな。今考えるとバカバカしいんだが。」
冒険者のおじさん達も苦労してたんだなぁ。
「おいおい問題はそこじゃねえよ、カードが溶ける問題だろ?これにはもうすでに答えがあるんだがよ……ちょっと信じられない様な話なんだが聞いてみるか?」
ミノルおじさんが腕組みしながら顎を押さえてる。お決まりのポーズ。
それを聞いたみんなも興味津々でミノルおじさんの方を見てるわ。
「じゃ話すぞ。これは俺の友人の話なんだがよ、こいつがとんでもないチート野郎でさ、ギルド登録時やっぱりカードが溶けたらしい。そいつには弟子がいてよ、当時は赤金やら緑銀等級だったんだが、ヤツに鍛えに鍛えられた後ギルドカードを更新したらやっぱりカードが溶けてしまったんだ。」
「ま、まさか!?ミノル氏、それは本当の事か?ギルドカードは神代の時代に作られたと言われる<アーティファクト>だぞ!?」
ギルドマスターさんがたまらずミノルおじさんに質問してしまったわ。
「まあ信じられねぇわな。ちなみにそのカード、そいつの嫁が完璧に解析したらしい。嫁さんが言うにはステータスの、『体力』『知力』『敏捷』『器用』の合計が40を超えれば黒鉄、80なら青銅、120で緑銀、160で赤金、200で白金になり、300超えると溶けてしまうんだ。どうやらこのカードはかなりお粗末な魔導具ってのがその嫁さんの見解だ。」
「な、なんだと!?ギルドカードにそんな秘密があったのか!?」
「信じられないわ……」
私にはよく分からないけど、よく分かることもあるわ。だって私のステータス値は合計したら800だもの。
そりゃ、溶ける!
「私は現役時代緑銀等級だった。確かに当時のステータスは47、28、32、38で145だな。今の話に符合する。」
まさかのお父さんは緑銀等級の冒険者だった!?
「私の合計は192だ、今は少し落ちてしまったが。ふふふ、私もエリーゼ嬢と一緒に訓練してみるかな?」
ギルドマスターさんはバリバリの赤金等級!一緒に訓練するのは歓迎しますよ。
「確かウォールさんのレベルは17だったよな!俺は26なのにアンタの数値とさほど変わらないぜ……アンタスーパールーキーだっただろ。」
「ははは、妻と出会って商売に目覚めたのだよ。結婚はいいぞ、娘は可愛いしな。」
ステータス値の話はここにいるみんなの琴線に触れてしまったらしく、なかなか盛り上がってるわ。
若干名結婚の話も盛り上がってる気がするけどね。
「ま、積もる話はまた後だ。そんな訳でステータス値が滅茶苦茶高い嬢ちゃんはギルドカードが対応出来ずに溶けちまった、俺の持つ情報からの考察は以上だな。信じるか信じないかはあなた次第ってやつだ。」
歩きながらそう話したミノルおじさんは後ろにあった椅子にどっかりと腰を降ろす。
「うむ、理にかなっているしそれ以上の情報もない。信じるしかないだろう。」
「確かに。」
「と言うかかなり優秀な情報です!」
「流石はミノルさんだな、物知りだ。」
「よせって、なんも出ねえぞ。」
「「「ははははは」」」
みんなは笑いながらミノルおじさんをバシバシ叩いてる。あはは、おじさん困ってるわね。
「なら次に問題なのは、何故エリーゼ嬢のステータスがそんなに高いのか、だな。」
ギルドマスターさんの言葉にみんなが私を見た。
ええええ。
そんなに見つめられるとちょっと恥ずかしいわ。




