158 貴族になんかなりたくないんですけど
貴族。
王様を頂点にして大公、公爵、侯爵、子爵、男爵、準男爵、騎士爵、士爵などの階位のある身分制度。
大公様とはまさに王様と同程度の権力を持つ凄い方で、だいたいは王様のお父様、いわゆる先王様がそう呼ばれるみたい。そりゃ確かに力を持ってるわよね。だって元王様でお父さんなんですもの。
公爵様とは『デューク』と呼ばれる方と『プリンス』と呼ばれる方がいらっしゃるの。どちらも大貴族様で基本的には王族とその親族様です。プリンスの公爵様は王族の方、デュークの公爵様は親族の方で使われます。王子様はプリンス、王子様とご結婚なされたお姫様のお父様はデュークとなられるようですね。
侯爵様は『マーキス』と呼ばれます。今回うちの領主様はこの侯爵様になられます。文句なしの上級貴族様で王族関係者でない貴族位としては最上位となります。
続くのは伯爵様、『アール』と呼ばれます。こちらも上級貴族です。うちの領主様にちょっかいを掛けていたあの金タワシは伯爵様でも広大な地方領を持つ辺境伯、『マルグレイブ』と呼ばれる人でした。辺境伯様はその広大な領地から侯爵様と同等に扱われますからあの金タワシと領主様は事実上同率となります。とはいえ領主様の領地は金タワシの領地より広大な上開発も進んでいて裕福ですから、真の事実上は領主様の方が上ですね。まさに『辺境侯爵様』って所ですか?
次が子爵、現在の領主様の地位ですね。『バイカウント』と呼ばれます。基本は下級貴族扱いでこの国では領民に対する貴族任命権がありません。王様は全ての任命権が、王族、公爵様は伯爵位以下、侯爵様は準男爵位以下、伯爵様は士爵位の任命権が与えられています。数量は限定されていますけどね。
ま、領主様は子爵なのにもかかわらず子爵どころの騒ぎじゃないほど広大な領地を持っていたから金タワシみたいなのにやっかまれたということです。
最後に男爵、『バロン』です。ここまでの貴族爵が公侯伯子男の五等爵ってやつですね。特徴は世襲貴族、永代貴族と呼ばれる一子相伝の権利を持つことです。自分の息子に自分の爵位を与えることができます。当然領地も受け継ぎます。国に献身することを義務付けられている貴族様の大きな権利のひとつです。
公爵、侯爵、伯爵様は自分の息子達に、自らの、または自分の持つ任命権に沿った爵位を与えることができますが、子爵様と男爵様は自分の爵位しか与えられないため基本的には長男以外は平民となります。
ですから、みなさん死に物狂いで叙爵を目指すわけですよ。なんにもしなければ最短3代後に子供が平民へとなり落ちぶれてしまうのですから。
あとは準男爵のバロネット、騎士爵のナイト、士爵と呼ばれる名誉貴族の方々がいます。この方々は政治や経済、戦争などで特に功績の高かった人達に送られる名誉で、才能豊かで国から見出された平民の方や騎士様、一部兵隊さんなどの軍人、そして上級貴族様の子供達がここにあたります。扱いは貴族ですが五等爵様と違い1代限りで貴族位を子に引き継げません。
私はここをぶっ飛ばして一気に男爵の爵位を与えられそうなのです。明らかな囲い込みの香りがしますね。
「……まあぶっちゃけて言えば国家公務員と地方公務員って事だな。嬢ちゃんは地方公務員になれそうだし領主のダンナは国家公務員へとなれたって訳だ。それも大都市の県知事クラスにな。」
「またミノルおじさんのよく分からない説明がでました。異世界ネタですか?」
私にはよく分からないですけど、これがよく分かる人もいるんでしょうね。
「エリーゼさん、これはめでたいことだぜ?アンタの力が認められたんだ。それも男爵位なら最低でも公爵以上の貴族から叙爵を受けた事になる。まぁ話を聞くに間違いなく王様直々の叙爵だろう。断れねぇよ。」
「だけどそれを受けたら嬢ちゃんはこの国に縛られる。国王のヤツは嬢ちゃんを手元に置きたがったからな、爵位を与えてこの地に縛りたかったんだろうよ。気持ちは分かるしかなりの譲歩は見えるが……いずれどうなるかは分からんな。」
「うーん、確かにエリーゼを貴族に叙してから王宮に転属させる手もあるな。領主様と違いエリーゼは地方の新興、それも独身貴族となり領地を持たないのだから王命ひとつでなんとでもなる、か。まあ親としてはちょっと看過したくないなぁ。」
ミノルおじさんと黒オヤジのおじさん、そしてお父さんまでもが頭を抱えてるわ。
私としては断るの一点張りなんですけどね。
「知らぬ存ぜぬで躱せるのは秋のエリーゼの誕生日までだ。エリーゼは15歳になる、もう大人だ。」
「おっ!嬢ちゃんもう大人になるのか、早えなぁ。」
「初めてあった時エリーゼさんはホントに幼い少女だったからな。早いもんだ。」
5年前の幼かった私に想いを馳せるくらいなら今後の私の対応について考えてください。
叙爵なんて断るのが1番なんだけど、相手は偉い人なんだからそれなりな理由がいるわ。
私の主張は自由に会社運営と活動展開をしていろんな人に幸せになってもらうことだけど、国の考えはきっと私の能力や建設会社ジューキの力が他国に利益をもたらさないこと……なんだと思う。
そこまではないかもしれないけど、この国に留まって行動することだけは確定なんだろうな。
「アイツら嬢ちゃんを道具の様にしか思ってねえようだな。これはまたいっちょ揉んでやるしかないか!?」
「いやいや、国からしたら貴重な才能を囲い込むのは当然だ。エリーゼも覚えているだろ?お隣のマリアちゃんが聖女認定されたらすぐに国へと召し抱えられた事を。うちや他の商人達の商品輸送の要だったあの一家が王都へ引っ越すのを国は容認してる。マールの流通が停滞する事より中央に才能を集める方が色んな意味で有効なのだ。」
国はちょっとした補填金を支払っただけで代わりの御者を手配した訳じゃないわ。私がまゆげちゃんで荷物を運べなかったらマールの街は品物不足で大変なことになってたかもしれない
「うーん、余計に国へ尽くすのがいやになってきました。いっそのこともう1回王様を叩いて止めさそうかしら?」
「エリーゼ、そんな事をしたら私の胃が……い、いや、お前の将来に関わってしまう。自重してくれ!」
「はーい……」
お父さんが食い気味で私を止めた。まあそうでしょうね、親としては娘が国と事を構えるのは大問題だもの。
うーん、だれか代わってくれないかなぁ?