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155 王の回顧 後編

 ある日、彼は私を傍らに呼んで話し始めた。


「オレの師匠はヘンな人なんだ。初めてあった時なんかオレと師匠は対立してて、こっちはチンピラ向こうは最強で案の定ボコボコにされたんだ。でも、師匠は力より論を大事にする人でさ、そんなオレ達に色んなことを話し、オレ達の話を聞き、沢山の大切な物をオレ達にくれたんだ。この武器もこのコートも師匠自らが作ってくれた物だし、何を隠そうオレの妻は師匠の娘なんだぜ?」


 彼は顔をクシャクシャにしながら笑い、頭を掻いた。一体何の話なのか分からなかった。


 ただ、私の心はざわつきを覚えた。


「人は変われるんだ。あの人のお陰でオレは変わった。あの人の言葉を聞き行動し、期待と恩恵を素直に受け取ってきた結果、オレは神鋼級冒険者になれた。そしてこの力をみんなの為に使った時、オレは勇者の称号を手に入れたんだ……お前は変わっていけてるか?素直な気持ちで差し伸べられた手を握れているか?自分に掛けられた言葉の意味を理解し、受け入れる事が出来てるか?」


 首に掛かっていた虹色のペンダントを握り、彼は私の方を向いた。


「大事な話だ、心して聞け。オレの師匠は言った、お前達があの厄災の意味をしっかり理解しているか見て来いって。あの厄災を潜り抜けた子供達があの時と同じ過ちをしてないか見て来いって。」


 どういう事だ?何故あなたはそんな話を知ってるのだ?


「お前はお前を庇って死んで行った女性の心根を理解出来ているか?」


 な、何を言っている?やめろ!それ以上言わないで下さい!


 あなたは勇者、私だけの勇者であって下さい!


 しばしの沈黙の後、彼は静かに語った。


「分かっただろ?オレの師はあの『黄金の鬼』だよ。この国を救い滅ぼし、あの赤い壁を作った男さ。」


 またか……またあの鬼か……


 ああ、目の前が真っ暗になってきた。私の希望であるこの人がまさかあの黄金の鬼人の弟子だなんて……


「あの人の行動は確かに理解されにくい。だけど、あの人は意味の無い事はしないしいつも誰かの為に行動する、それは間違いないんだ。あの人がこの街の民を魔物から救い、支配者階級を滅ぼし、そしてお前を残したと言う意味を理解するんだ。大丈夫、お前なら出来るさ!」


 その後、彼等は居なくなってしまった。私の心にポッカリ穴が空いたようだ。


 彼は出て行く前に私に秘密を打ち明けた。彼の年齢はなんと200歳を超えているという事、彼の妻は彼の師が製作したゴーレムである事など。


 それが本当かどうかなど全く分からなかったが、何となく真実なのだろうと思えた。


 …………


 私はまた失ってしまった。


 ああ、私は力が欲しい!愛する人を守る力が!友を守る力が!勇者の様な力が!


 あの黄金の鬼の様な力が欲しい!!


 募る想い、それが私を突き動かした。


 私は次第に力を持つ者を探し求め、集める様になった。




 あれからかなりの月日が経った。


 私も歳を取ってしまった。力を求め続けた所、その動きに便乗するかの様に権力や富を求める者が現れ始める。


 その様な者達はちょっとした地位や利益を与えると踊り狂う。そして、力を持つ者の登用に奔走してくれるのだ。


 ふむ、都合がいいな。黙っていても人が集まるか。


 そう言えばバルドはグレース開拓村を大きく発展させ、更に幾つかの街や村を開拓した様だ。その功績によって男爵、子爵と順調に陞爵している。


 しかし、どうやらそれを良く思わない者も居る。


 彼は金を使わない、それを聞ききっと貯め込んでいるに違いないと考える者達に領地を荒らされ始めたようだ。


 彼も幾らか周囲にバラ撒けばこの様な面倒にはならないのに。


 力の無いものは強い者から搾取されてしまうのだ。以前の私の様に。


「陛下、ノーマン子爵からの先触れでございます。新年の挨拶をと言う事ではありますが、まず領地安定の為の嘆願が目的かと。」


 侍従がやって来てそう告げる。なんと言うタイミングだ。


「うむ、分かった。まあいずれこの件は触る必要があったでな。通せ。」


「畏まりましてございます。」


 侍従が退出すると同時に控えていた一団が私の前に出てくる。


「それでは陛下、我にお任せを。陛下に対し正当な税を納めぬ汚い田舎子爵からそれ相当の物を引き出して参りましょう!」


 ああ、こ奴はバルドの領地にちょっかいを掛けている隣地の伯爵だったな。


 バルドの奴も間が悪い。


「余り苛めるでないぞ、あれでも私の友なのだ。」


「なんと!それは余計に不忠者ではないですか!ここは私めがしっかりと陛下に対する忠義の心という物を示して参りましょうぞ!!」




「……あなたが欲しいのは英雄じゃなくてその虹色ペンダントなんじゃないですか?そんなにそのペンダントがいいなら差し上げます。私には必要ないですから。」


 ど、どうしてこうなった!?


 バルドの供の者に英雄が居たと言う報告を受け、ウキウキしながらその者の到着を待った。


 なんと、あの勇者と同じ虹色ペンダントを持つ神鋼級冒険者だと言うではないか!


 現れたのは年端のいかぬ少女であった。その出で立ちには驚いたが、先に出ていった口先だけの伯爵一団数十名を唯の平手打ちで黙らせたらしい。


 い、逸材だ!この者が私の傍に居れば、きっとあの鬼人にも勝てるに違いない!


 だが、少女は私にその珠玉ともいえる虹色ペンダントを投げ付けたのだ。


 その行為にいきり立った我が騎士団と貴族達だが、やはり唯の平手で黙らせていく。


 100名を越える将兵や貴族達が皆打ち倒され、後は私のみ。


 ああ少女よ、どうか私には平手ではなく死を与えてくれないか?そなたの様な可憐な少女に殺されれば、私の魂はかつて愛したあの人の元へ行けるだろう。


 そんな私を少女は優しい人だと言った。


 そして私を罰しなかった。


 一人の男が私の前に立ちこう言った。


「アンタは前の反省が生かされてねぇんだよ。とんでもねぇ目に遭ったのになんとなく余所事の話として受け止めた…………アンタは初めから間違ってたんだ。」


 そうか、私はあの時恐怖の余り正しく認識していなかったのか……


『忘れるな、お前達の立場を。人の上に立つという事には義務と責任が伴うのだ……』


 あの鬼人は最初からそう言っていたのだ。取り返しがつかない状態を全て灰塵とし、わざわざもう一度やり直せる状態にしてくれたのだ!


 そして、彼は私にその機会を与えて下さったのだ!王としての義務と責任を果たす機会を!!


 バルドが私の手を取り、もう一度やり直そうと語ってくれた。


 そうだ、やるしかあるまい。あの時私やこの国の為に敢えて残虐を起こし、民を守り、言葉を残し、勇者を差し向け何度も何度も私に手を差し伸べて下さったあの人に報いる為に!


 そうか、あの時のあの表情は私に対する憐れみ……いや違う!やはりあの表情は私に対する期待を込めた優しい表情だったに違いない!


 鬼人様、顔が怖過ぎて分かりませんでしたよ!




 先程の偉そうな男は何やら人を呼んだ様だ。その者から何か話を聞けるらしい。


 私達は謁見の間に集められ、床に座らされた。余りの狼藉に怒りを顕にした者が続出したが、男は途轍もない威圧を放ち騒ぐ者達を押さえて行く。


「ミノル?ここで良いのかい?」


「ああ、よく来たなヒロ!お前の教え方が悪かったからこいつらにきちんと伝わってなかったぞ?責任を取れ!」


「なんでぼくが責任を取らなきゃならないんだよ!それが嫌だから普段大人しくしてるんだから。」


 親しげな会話と共にひょっこり現れたのは灰色のローブを着た黒目黒髪の少年だった。


 だがその目を見た途端、私の身体は激しく震え始める!


「へ、陛下!?どうなされましたか?」


「陛下!」


「陛下!陛下を横にするのだ!」


 私の周りが騒がしくなると、その少年は私に気が付きこちらを見た。


「ん?あーもしかしてあの時の子供ですか?いやぁおじいちゃんになってたから気が付きませんでした、失礼。」


「あ、貴方様は…………!!!」


 激しい震え、発汗、そして……


「うあああ……はあああ……」


 あの時と同じ、魂の嗚咽。


「どうやら理解した様ですね。1から10まで全て伝えると案外人はそれを忘れてしまいます。ですからぼくは少しでもあなたに考え実践して正解を探して欲しかったんです……残念ながら余り芳しくなかった様ですね。」


 少年の身体から黒い光が放たれた。


「ぼくの伝え方が悪かったと反省していますよ。ですからみなさん、今から人が人の上に立つという行動に対する責任と義務、王侯貴族や騎士、兵士が領民の為になる事を第一に考える事が大事だという事をあなた方の身体に染み込ませます。死ぬより辛いですが我慢して下さいね、正解を確実に覚え込ませるのはかなりの負担を強いられるものですから……」



 そこには黄金に輝く鬼人が立っていた……





 私はこの国の第4王子として生まれた。そして統治者として……と言うより人として数奇な人生を歩んで来た、と思う。


 本当にそう思う!!


こんちわ!ぴ〜ろんです。


いかがでしたか?いちおうこれで空白は埋まったかなと思います。ミノルおじさんの話は1番最後に取っときましょうね。


いやー死んだ死んだいっぱい死にましたね。レーティングを15歳にしといて良かった。久し振りに女の子じゃないキャラをロールプレイ出来ました。楽しかったです。


次回からはエリーゼちゃんのお話に戻ります。


それではまた来週お会いしましょう!

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