143 セミナー講師と赤い壁
お久しぶりですぴ〜ろんです。久方ぶりの更新になります。マイカー書斎での執筆は高騰したガソリン代のため使用不可になりましたが、なんとか自宅に籠れる場所を作りましたからがんばれそうです。
ラストスパートです!がんばります!
「陛下、間違えていた事が分かったのならまた最初からやり直せばいいのです。皆でやり直しましょう。我々はまだまだやれますぞ!」
「そ、そうか、そうだな。あの時自ら奮い立ち前を歩き続けたノーマン卿がそう言うのならきっとそうだな。」
領主様の後押しでなんとかやる気を出した王様ですが、いかんせんのんびりさんが板についてて不安がいっぱいです。
私達の街では気にならなかったけど、どうやらいろんな場所で貴族様が威張り散らしたり権力を利用して我儘を通したりとみんなに迷惑を掛けてたらしいの。
実際問題として王様やその周りにいた人達はもう一度国民の信頼を取り戻すことができるのかな?
「やるしかないんじゃよ。儂等貴族が諦めてしまったら残された民草が路頭に迷ってしまうからの。次に何かしらの災厄が国を襲った時勇者様が必ず来て下さるなどという保障は無いのじゃ。」
「そうだな、やるしかあるまい。」
「陛下がお変わりになられるのであれば私供も精一杯お支えいたしますぞ!」
王様と領主様がガッチリと握手をしてる。その周りをバトラーさんや護衛の人達が取り囲み、なんだか暑苦しい空間が生まれました。
……ちょっともわっとしてる。
「よし、じゃあ俺もひと肌脱ぐとするかね。建国やら綱紀粛正やらのスペシャリストを講師に呼んでセミナーを開催してやるとしようか。」
「せ、セミナー?」
「おう、詳しい奴から話を聞いて参考にするんだよ。そうだな、ミルフィの嬢ちゃん、さっきエリーゼの嬢ちゃんが張り倒した奴らを回復させてくれや。アイツらにもセミナーを受けさす。」
「は、はい。」
そう言ってミノルおじさんは懐から手のひらくらいの大きさの四角い板のような物を取り出してポチポチとつつき始めたわ。
なんだろう?いやな予感しかしないわ。セミナー講師って言ってたけどそれってミノルおじさんの知り合いでしょ?ヤバいに決まってるじゃない!
「あーもしもしもしもし!?ああ俺だよ俺!…………おう、まあボチボチだぜ。あのよぉ、ちょっと頼まれてくれねぇかな…………いいじゃねえかそれくらい…………はぁ!?うるせぇな!あああれだよ、前にお前が街を赤い壁で覆ったろ?あそこの馬鹿共にいっちょお灸を据えて……じゃねえ、セミナー講師をやってくれや。…………ああ、…………ああそれそれ、『O・HA・NA・SHI』ってやつ…………ああわかったよ、それでいいから。あ、とりあえず20分後にここの王宮に集合な。動員は稼いどくからよろしく!じゃな!」
ヤバっ!なに?赤い壁で覆った!?ちょっと、ほんとに嫌な予感しかしないんですけど!
「嬢ちゃんとミルフィの嬢ちゃんは奥方様達と美味いものでも食いに行ってこいよ。ふたりがいれば護衛は問題ないし、馬鹿なオヤジ達に付き合って退屈することもねぇからな。」
「エリーゼ、ここはミノルさんの言う事を聞いとこうよ。その方が絶対良いって!」
どうやらミルフィもいやな予感しかしなかったらしいわね。
奥方様や侍女さんと合流した私とミルフィは言われた通り王都にある高級なレストランにやってきました。
ここで美味しいものを食べるわ!たーのしみーぃ!
「このお店はいつも予約でいっぱいな名店なのよ。たまたま空きがあったから良かったわぁ。」
「奥様、私も同席させて頂きありがとうございます。侍女にこんなに立派なお店で食事させるなんて奥様の器が大きい証拠です。伊達に大きいのはお胸だけじゃなかったんですね?」
「あははは……」
これは笑ってもいいやつなのかな?
「……そう、お城の皆様はもうあの時の事を忘れてしまっているのね。主人や私みたいな年寄りには忘れたくても忘れられない出来事だったのに……」
お城での出来事をお聞きになった奥方様はそう呟かれました。
領主様からお聞きした灰色ローブの男の人のお話。利用するだけ利用し、亡き者にしようとして彼の怒りを買って滅ぼされた当時の王侯貴族達のお話。
「大発生した魔物の集団から市民を守る為、たまたまこの街に訪れていた旅人だった彼は王都の周囲にあるあの赤い防壁を一晩にして作り上げたの。私はここで生まれ育ったからその時の事はよく覚えてるわ。」
「え?えええ!?あの城壁は一晩で作られたんですか!?」
あれだけの物を一日で!?嘘でしょ?だって、超突貫工事にもほどがあるうえ数十年経ってもビクともしてないハイクオリティ。
「エリーゼ達がマールに作った要塞だって数ヶ月で作られたのが信じられないのに、ここの防壁は1日で完成……やっぱりぼく信じられないよ。」
「ふふふ、魔物の襲来に怯えながら眠った翌朝、陽の光に照らされ紅く妖しく輝く防壁を見た時、ああ、私もう死んじゃった後なんだなって思ってしまいましたよ。」
奥方様はそう言いながら出されていたサラダを口に運んだわ。
「もふ、ほのおはなひはなんほもおひひひはひまひたお。」
一心不乱に料理を食べてる侍女さんのほっぺたはハムスターみたいになってる。
「あなたは侍女なのだからせめてお上品にして下さいね。口に食べ物を入れたままお喋りしないの!」
「は、はひ……」
豪華な料理にがっついてしまう気持ちはわかりますけどね。
「その後彼は単身街の外へ出て魔物を倒してまわったと聞いています。そんな彼の功を王や貴族達は妬み奪おうとしたの。そして彼の身柄を拘束しようとし、それが上手くいかなかったのを知ると市民の生命を盾にして従属をさせようとしたのよ。」
あとは領主様からお聞きしたとおり、彼の逆鱗に触れた王侯貴族達本人とその親兄弟、伴侶、成人していた長男次男まで皆殺しにされてしまったってわけです。
「それ以前になぜ大挙した魔物を単身で撃退出来ちゃう人物を従属出来るって思ったのかな?」
「さっきの貴族の人達見たでしょ?平民は歯向かうことがないものだって思っちゃってるからねぇ。仕方がないよ。」
「やれやれ、あの人達はエリーゼのしっぺだけだったから助かっちゃったね。まあ今頃どうなってるかは知らないけど。」
「私も知らなーい。」
ミノルおじさんが呼んだセミナー講師と灰色ローブの男性……もはや別人とは思えないもの!ミノルおじさんも講師の人が赤い壁を作ったって言ってたし。
気付かない振りだけは欠かさないけどね。世の中知らない方がいいことってたくさんあると思うの。
そう言いながら笑っている私達を奥方様は不思議そうな表情で見てるわ。
どうなさったのかしら?
「あの……奥方様?」
「あ、ああ……ごめんなさいね。余り食事が進んでない様だったから。お口に合わなかったかしら?」
どうやら奥方様は私達があまり料理を食べていないのを気になさっていらっしゃるのね。
「ああいえ、おいしいですよ。おいしいですけど……」
ここは王都でも人気のレストランらしいからすごく厳選された野菜やお肉を使ってるんだろうけど……
「やっぱり『ねこの尻尾』やさんには叶わないかな。」
「そうだねぇ……それも地元グレースにあるんだから。」
やっぱりあのレストランの拘りメニューに叶う外食は存在しないわよね?
ガガッ!!ガーッ!!
椅子を引きずる大きな音と共に立ち上がった奥方様と侍女さん。
「エリーゼさん!ミルフィさん!それもうちょっとkwsk!!」
「ええええ??」
瞬時にそのまま詰め掛けてくる2人!
「は、はやっ!!」
お、奥方様!お胸が当たっております!とてもふわふわでむぎゅむぎゅです。胸ツッコミ係のはずだった侍女さんのお胸もわりと大っきいことがただいま判明!ぷりんぷりんのぐいんぐいんです!
ああ、私の中で何かの数値が削り取られていくわ!