140 貴族ってやっぱり『貴様!』って言っちゃうんだ
「お、おはようございます。私はエリーゼと申します。あなたはどなたでしょうか?」
「だまれ下民。なぜ私がその方に名乗らねばならない?私の行く手を阻むでない、消えろ。」
あらら、消えろって言われちゃったから帰りましょう。
「エリーゼ様、帰ったら駄目ですよ!……あなたはゴドウィン閣下ですな?こちらに御座すは伝説の神鋼級冒険者エリーゼ様であります。お付の方々が到着次第国王陛下にあって頂くため私がお連れしました。」
「な、なに?神鋼級、だと?そんな訳あるか!平民から英雄が生まれる筈なかろう。」
この人やたら貴族だ平民だって差別的発言をするわね。
あっわかった!もしかしたらこの人が領主様の言っていた北の辺境伯様って方じゃないの?なにあのクルクルパーマ、かっこ悪さを通り越してちょっと面白いわ。
キッチンにある金属タワシみたい。金物屋さんに行ったら頑固な鍋を削り落とせますよって言う触れ込みで置いてある、彫金削りカスで作ってあるあのタワシ。
「か、金タワシ……」
「ぶふっ!!」
ミルフィが吹き出した。やっぱり!ミルフィもそう思ったのね!
「おい、なぜ笑った!」
「ぷくく、笑ってないでしゅ……」
ミルフィは慌てて言い訳したけどそりゃあなた笑ってるわ。言い訳できないって。
その態度を見て金タワシが怒り始めたわ。
「なぜ笑ってはならないのですか?」
私は金タワシに質問をぶつけてみたわ。さあ、交渉スキルちゃんがんばってね。
「この者は私の髪型を見て笑ったのだ!」
「ああ、ならあなたもその頭髪は笑えるものだっていう自覚はあったんですね?」
「なっ!なんだと!?私は常に流行の最先端を行っているのだ!凡人俗人には理解出来ないだろうがな!」
「まあ、理解できませんね。て言うか万人が理解できない趣向の持ち主のことを人は奇人と呼びますよ。ぜひその頭髪はお控えになった方がいいです。あと、その赤いコートは秋冬物でしょ?もう春ですよ。」
「き、貴様!」
出た!貴族様の『貴様』!これってもう着いてくる常套句なんでしょうね。
金タワシのやつは顔中の筋っていう筋がピキピキしちゃってる。
「皆の者!切れっ!高貴な私を愚弄したのだ!切れっ!!」
怒った金タワシは取り巻きに抜剣を指示、取り巻きは無言で剣を抜きました。
「あら?ここってお城じゃないのかな?大隊長のおじさん、王城の地籍って階段の上から?下から?」
普通に考えて王城での抜剣は許されないはず。王様に対しての反逆って思われてもおかしくないレベルだよね?
「お、おじさんだって?……はぁ、まあいいけど……この城の土地は階段の下からです。先日階段でコケたバカが城の中で怪我をした扱いになりましたから間違いないかと。」
大隊長のおじさんは『おじさん』って呼ばれたことをすっごく気にしてる様子。うーん、おじさんなんだから仕方がないわよね。
そう言いながらも金タワシが王城内で抜剣したことの言質をいただきました。
「ありがとうございます。」
高貴かなにかは知らないけれど王城で抜剣するなんてありえないわ。ぜひツッコミどころにさせてもらいましょ。
取り巻きの人達は無表情で私に向かって剣を突きつけてきてる。私は1番先頭にいた人の剣の先っぽを親指と人差し指でつまんでひねった。
「なっ!?」
簡単に剣を手放したその人は驚いた顔で私を見たわ。さっきまでのまるで地面に転がる石ころを見るような目とは明らかに違う、驚きと恥ずかしさとちょっとだけ恐れを感じてる表情。
「いちおう私は英雄扱いでここに来たんですけど。あなた達みたいな剣を手で掴んでるだけの素人が私達をどうこうできるわけないでしょ?」
そのままバチィーーン!とビンタを張り飛ばす!張られた取り巻きの人はそのまま階段の1番上まで吹っ飛んで行ったわ。
「お城で剣を抜いちゃうグズはいりません。後ろへお下がりください!」
ひょい、パチーン!ひょい、パチーン!!
次々に剣を抜き取られてからビンタで吹っ飛ばされていく人達。あっという間にみんないなくなっちゃって、あとは金タワシを残すのみ。
「な、何者なんだ?化け物か!?」
金タワシのお顔は真っ青。ようやくケンカを売る相手を間違えたことに気付いてくれたみたいね。
「化け物とは失礼しちゃうわ、私はちゃんとエリーゼですって名乗りましたよ。気に入らなければすぐ暴力に訴えるなんて、あなたはあの時の騎士様みたいな人ね。」
あの騎士達も自分の都合ばっかり叫んでは消えていった。貴族ってこんな人達ばっかりなのかな?
さすがの私も腹が立ち過ぎて笑いが出ちゃうわ。
「とりあえず王城内で抜剣した罪です。大人しくしてくださいね。」
バチィッ!バチーーン!!
往復ビンタでノックバック効果を相殺したから金タワシは吹っ飛ばされることなくその場に崩れ落ちました。
「うーん、ぼくの出番はなかったね。まあ想定通りだからいっか。」
「ごめんごめん、もう見ちゃいられなかったから。」
潰れてる金タワシをつまんで大隊長のおじさんの前へ放り投げる。
「ふう、あー笑った。あ、大隊長のおじさん、金タワシの処分はお任せしますね。それじゃみんなが来たから王様のところへ行ってきます。」
今ごろになってまゆげちゃんの中からゾロゾロと現れた大人達。もう!来るのが遅いですよ!
「なんじゃ?あれは北の辺境伯ではないか!もう解決しとったのか!くぅーっ儂もエリーゼちゃんの活躍をこの目に焼き付けたかったのに!」
「あなた!それよりエリーゼちゃんとミルフィちゃんは無事かどうかを確認するのが先ですよ!ふたりとも大丈夫だった?」
「奥様!そんなに抱きつくとあなたの乳でお2人が窒息してしまいます!ハウス!ハウース!」
「おっ?城は残ってるみてぇだな。そうだ!今からでも遅くねぇ、更地にしてウチで築城を請け負おうぜ!高ーくふっかけてやるからよ、ははは!」
みなさん相変わらずですねぇ。
「あ、あれ?エリーゼ様を陛下の前へお連れするのが私の任務だった筈では!?えーい皆の者、ゴドウィン卿他王城内で抜剣した狼藉者を引っ捕らえよ!!エリーゼ様、待ってくださーい!」
こんちわ!ぴ〜ろんです。
誤字報告修正頂いております。ありがとうございます。
次週はいよいよ王様と会見です。やっとここまできましたよ。今週末は連休なので今週の更新はここまでです。来週くらいからはペース戻したいけど……ちょっと難しいなぁ。
出来る限りがんばりますのでお見捨てなきようよろしくお願いします。
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