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014 悪い話と良い話

 ……エリーゼ、エリーゼ!しっかりしなさい!」


「嬢ちゃん!おい、起きろ!!」


 うーんあとごふん……はっ!


 私は飛び起きて、何かで頭をしこたま打ちました!いったーー!!


「いたい!痛い痛い!」


「嬢ちゃん…大丈夫か?」


 どうやら私は3つ程並べた椅子に寝かされていたようで、飛び起きた拍子に背もたれに付いてた出っ張りに頭をぶつけたみたい。


 な、なしてこんな出っ張り付きの椅子が!?


 どうやらその椅子は座面が柔らかくて枕替わりにされていたようね。一応気を失った私に配慮されていたみたい。


 頭を打った痛みで一気に目が覚めちゃった。お陰で大事なことを思い出したわ!


「あっ!あの2人は?どうなったの!?」


「安心しな、無事助かって救護所に連れて行かれたよ。意識も戻ってたみたいだしもう安心だ。」


「ほっ、良かったあ……」


 ミノルおじさんが教えてくれたわ。ホントによかったほっとしたよ…ん?ミノルおじさん?


「あれっ!?なんでミノルおじさんがここに?えっ?ここどこ!?」


「ここは冒険者ギルドだ。工房でミノルさんと話をしていたら凄くけたたましいラッパが聞こえたのだ。ミノルさんがお前のまゆげちゃんのクラクションとか言う物だと言うから慌てて追い掛けたらここに荷車が入って行ったと聞いてね、入って来たらお前がここに寝ていたんだよ。」


 お父さんもいたわ!どうやらミノルおじさんと2人で私を追いかけて来たみたいね。


「おい嬢ちゃん、良い話と悪い話がある。どちらが聞きたい?」


 ミノルおじさんがニヤッとしながら私に聞いてきたわ。


 うーん、良い話を後で聞いて気持ちよくお話を終えたいわ。言われる中身なんとなく分かってるし。


「わ、悪い方からお願いします。」


「了解だ。」


 おじさんは私の顔を見てから腕組みをして仁王立ちになった。


「嬢ちゃん、俺との約束は『左側通行』と『時速20キロで安全運転』だったよな!」


 や、やっぱり!絶対怒られると思った!


「はいそうです。」


「うん、殊勝なのはいい事だ。だがな、約束を破って道の真ん中を爆走したよな!もし、もしも誰かを跳ねてしまったりハンドル操作を誤ったりしたらどうするつもりだったんだ!」


 そう、分かってる。確かに急がないと駄目かも知れなかったし実際はクラクションを鳴らしながら中央を走ったおかげで事故は起こさなかったわ。


 でも、それはただの結果。私はお父さんともミノルおじさんとも安全運転を約束したんだから。


「ごめんなさい……」


「ごめんで済んだら衛兵は要らねぇなあ!」


 ミノルおじさんは凄い形相で私を睨む。


「話の途中に済まない、俺がエリーゼ嬢に依頼したのだ。衛兵が頼んだのだから……」


 私の傍に立っていた隊長さんが私を庇ってくれたわ。


「関係ねぇ!衛兵に頼まれたら約束破っていいのか?王様に言われたら悪い事していいのか?んなわきゃねぇよな!?」


「それはそうだが、余りにも横暴な話だ!彼女は人の生命を救う為に全力だったのだ!」


 あまりの強い剣幕を見兼ねた隊長さんが反論したわ。でも違うの隊長さん、ミノルおじさんが言ってることは大事なことなの……


 まゆげちゃんを運転してた時、一瞬頭の中をよぎったこと、それは車による事故。


「それでもし嬢ちゃんが人をはねたら仕方ないって笑ってやれるのか?頑張った結果新たな死人が出たけど仕方がないってアンタは言うのか?俺やコイツの父ちゃんがした約束ってのはそういう話だ!」


 おじさんは隊長さんに凄い形相で捲し立ててる。流石の隊長さんもぐっと口を噤んでしまったわ。


「俺もお前の父ちゃんもお前の事が可愛いんだよ、だからお前に辛い目にあって欲しくねぇから約束をしたんだ。よく理解しな!」


「は、はい!」


 お父さんも私を見つめてる。流石にミノルおじさん程は怒ってないわ。でも、凄く心配そうな顔。


「ごめんなさい、もうしません。」


 私は2人に謝ったわ。ほんとに!もうしないから!


「ん!良し。じゃあ次は良い話だ。」


 私の謝罪の言葉に一言返し、一転良い話を始めようとするミノルおじさん。


 どうやら悪い話の方は終わったらしいわね。約束を破っちゃったんだからもうまゆげちゃんには乗ったら駄目だ!くらい言われるのかと思ったのに。


 言われても仕方ない、と思ったのに。


 ミノルおじさんの剣幕が収まったからか、周囲の空気が少し軽くなった気がした。


「嬢ちゃん……よくやった!クラクションを鳴らしながらの走行はいい機転だったし敢えて中央を走れば他の奴らも避けやすかっただろう。流石嬢ちゃんだな!それに、嬢ちゃんは人の生命を救った!これは事実だ!なぁウォール商会の旦那!」


「ああ、確かに心配はした。だが……お前は自慢の娘だ!」


 ミノルおじさんもお父さんもとびきりの笑顔で私を褒めてくれたの。


 お父さんが私の所に来て抱きしめてくれたわ。ミノルおじさんも私の頭をガシガシ撫でてる。


 突然褒められて、私は頭がぼーっとしてきちゃった。そして……突然涙が溢れてきた。


「お父さん!おじさん!ごめんなさい!もう約束は破りません!安全運転します!」


「そうだね、安全運転に心掛けよう。そうすればみんな幸せだ。」


「ああ、嬢ちゃんならそれを理解出来るって分かってるからな!大丈夫だ!でも今回はよくやった!嬢ちゃんの手柄だな!」


「うえええん!ごめーん!ごめんなさいいい!!」


 私、嬉しいのと悲しいの、安心と怖さが入り交じってしまっていっぱい泣いちゃったの。


「エリーゼ嬢、済まないな。君に辛い思いをさせてしまったよ。だが君が手助けをすると言ってくれたからあの2人が助かった!俺は君を尊敬するよ。」


 隊長さんもいっぱい褒めてくれたから、私涙が止まらなくなっちゃった!




 ひとしきり泣いて落ち着いた所にさっきまゆげちゃんの荷台に乗ってた大きな冒険者のおじさんがやって来たわ。


「嬢ちゃん、俺からも感謝を述べたいんだが……また泣いちまうかい?」


「泣くかも知れないわ。」


「うぐっ、で、でもお礼は言わせてくれ。あの怪我をした男は俺を庇って魔物に吹き飛ばされたんだ。もうひとりの女はあいつの彼女で逃げ出した俺達の殿で魔物の攻撃を防いでいたんだが、とうとうやられちまったんだよ。あいつらは俺達を守って怪我をしたんだ!助けてくれてありがとうな!」


 おじさんは私の前にしゃがんで頭を下げたわ。


 おじさんは下を向いてる。その床にポタッ、ポタポタと染みが出来たのを私は見た。


「おじさん、おじさんがまゆげちゃんの荷台の上から大きな声で叫んでくれたからみんな避けてくれたんです。私、おじさんが『死んじまう!』って言ったのを聞いて凄く恐ろしくなったの。私の行動が人の生命を左右していたんだって分かってしまったんです。」


 人が死ぬことなんて、今まで考えたことなんかなかったわ。おじさんのあの叫びで私は本当の意味で生命が儚く大切なことを知った気がしたの。


「ちょっと無茶しちゃったし、お父さん達との約束は破ってしまったけど、私、おじさんのお手伝いが出来て本当に良かったと思ってます!」


 私、今日はいっぱい勉強しちゃった!働くことの楽しさ、人が喜んでくれる嬉しさ、そして、人の生命の尊さ。


 めっちゃレベルが上がった気がするわ。まだレベル2だけどね。


 そう思いながら私は自分のステータスを確認してみてビックリした。


「あ、あれ?おかしいな、レベル12?なんで!?」

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