137 王都バルバロッサ
「はわわわぁ、んー寝ちゃった…… あれ?」
目を覚ますとたくさんの人の気配がしてたから辺りを見渡すと、まゆげちゃんのフロントガラス越しに大勢の人だかりができているのが見えたわ。
一定の距離は保てているみたいだけど。なんじゃこりゃ?
「ミルフィ、ミルフィ、起きて!ちょっと大変かも!」
「んああぁ……はれ、エリーゼおはよう……」
「おはようミルフィ、どうやらお寝坊が過ぎたみたい!ちょっと見てくるから起きてちょうだい!」
どうしてこんな人だかりができてるのよ?王都までまだ少し距離があるはずだしわざわざ街道から外れた木陰に駐車したのに!
私は慌てて運転席のドアを開けて外へ出たわ。
「おおっ!出てきたぞ!」
「可愛い女の子だ!何者だ!?」
「知らね。寝てた事だけは分かる。」
私の登場にザワついた人達。その数ざっと4、50人はいる!
え?え?ええええ!?想像以上に人が多いわ!なんでこんなに人がいるのよ!それに私が寝てたの見られてる!?
「おおエリーゼちゃん、おはよう。よく寝てたみてぇだな、うはは。」
「お、おはようございます。」
私に声を掛けてきたのは護衛の人。もしかしてこの人にも寝顔を見られてた?
「ああそりゃまあここで寝てたら皆バッチリ見るわな。可愛らしかったからいいんじゃねえか?そうそう、うちのお館様達は中でメシ食ってるからエリーゼちゃんも一緒にどうだい?」
ひいいいい寝顔見られた!どうしよう、口とか開いてたんじゃない?涎とか垂れてたら最悪だわ!
顔をぺたぺたゴシゴシしてたら護衛の人に笑われちゃった。
「なんでこんなに人だかりができてるんですか?」
「さあ?メイド長が朝メシの準備をしてたら人影が見えたってんでウチの隊長を起こしたんだよ。そのままあれよあれよと人が増えてきたから俺達に出番が来たって訳さ!」
「おら!うちの子爵様の荷車だ!近付くんじゃねえぞ?」
「こちらの姫様は強えからな?挽肉になりたくなけりゃ離れて離れて!」
護衛さん、ガラ悪ぅ。私そんなことしませんからね!
どうやら護衛の人達はまゆげちゃんに周りの人達がこれ以上近付かないようガードしてくれてるみたい。
「おーい、とりあえず先触れ出してきたぞ!王宮から返事があるまで待機だから!」
1人の護衛の人が野次馬を掻き分けて帰ってきました。
「よーし、旅自体は超楽チンだったんだからせめてここの守備は気合い入れてけよ!」
「「「「うーい!」」」」
帰ってきた護衛さんの話によると、どうやらまゆげちゃんを見た通行人が王都まで行って噂を広め、それを聞きつけた野次馬の人達が詰め掛けて来ているらしい。
うーんもっともっと街から離れたところに駐車しとけばよかったかなぁ。
「エリーゼ!外に出たら危ないよ!こっちに来なって!」
目を覚ましたミルフィは一瞬で状況を判断したらしく、助手席の窓を開けて私を呼んでる。
とりあえず車内に戻るか。
車内に戻って食堂に行くとみなさん朝ごはんを食べてました。
「おおおエリーゼちゃん、ミルフィさん、昨晩はお疲れじゃったの。随分大立ち回りがあったそうじゃないか。」
領主様が私とミルフィを出迎えてくださいました。
「すいません、起こさないよう気を付けたんですけどお気付きになられたのですね。」
「いいや全然。朝起きてミノル殿から聞いたんじゃよ。いやー寝室のベッドが快適じゃったし、この室内に流れている…びぃじぃえむ?じゃったか?このうっすらとした音が心地好うての、あのバトラーですら起きんじゃった!」
「面目ございません!」
バトラーさんがギリギリと歯軋りしながら頭をさげてる。
「め、滅相もないですバトラーさん!バス旅行の道中の安全確保は私達ジューキの責任ですから。」
「ありゃ?なら俺も加勢した方が良かったかな?」
ミノルおじさんがニヤつきながら私を見てる。そんなこと言いながらどうせ私がピンチになったら出てきてたんでしょ?
「いいえ〜、ミノルおじさんは頭脳労働の方でがんばってもらってますからね。」
「お、言うねぇ。ま、とりあえずメシ食っちまえ!奥方様がアンタらとお喋りしたくてウズウズしてるからな。」
「可愛いあなた達にケガでもあったら……むぐぐ!」
「奥様ステイ!主に乳!」
奥方様は今にも立ち上がってこっちに飛び付いてきそう。侍女さんが背後から羽交い締めにして止めてるけどね。
うわぁ、侍女ってそんなパワープレイが許されるの?
それに奥方様落ち着いてください、朝からおムネが激しく暴れておいでですよ。
そっと自分の胸を触ってみた。隣でミルフィが全く同じ動きをしてるのが見えた。
領主様はガッハッハと大笑いしてました。
「お館様!王宮から返事が帰ってきましたぜ!このまままゆげちゃんで王城まで入る許可が出ました!」
「よーしでかした!それじゃエリーゼちゃん、王都入りじゃ!」
食事を済ませて奥方様とスキンシップをしていたら護衛さんから連絡がありました。
「了解しました。それじゃ出発しまーす。」
運転席へ戻りまゆげちゃんのエンジンをかける。ルルルルルって元気なお返事が帰ってきたわ。
「まゆげちゃん、ここからは私が運転するね。」
『了解しましたマスター。コントロールはそちらへ、哨戒はこちらで行いシスターミルフィのモニターへ転送、バックアップはマイスターの端末へ送ります』
よろしくまゆげちゃん。
私は拡声器のマイクを取り出した。
『あーあー、王都のみなさまおはようございます。私はこの車を運転しているエリーゼと申します。王様のご許可を得て王城まで進みますのでどうか前を空けてください。ご協力お願いします。』
そうアナウンスすると前の人だかりが分かれた。護衛の人達がキビキビとした動きで乗車口へと走っていく。
『ドアが閉まります!』
プシュー
『発車します!ご協力感謝いたします!』
徐行運転で街道まで進み、そこから王都の入口の門まで通常運転。
そのまま走ること3分、巨大で真っ赤な壁が見えてきたわ。
「うわわあっ!!すごいっ!これが王都の城堡なの!?」
グレース市を取り囲んだ防壁を見た時の衝撃以上の興奮が私を包む。
赤い!とにかく赤い!
巨大パノラマなその赤い城堡は左右どちらも視界から消えてしまっているほどに広いわ。
「うむ、これが巨大城塞都市『王都バルバロッサ』じゃ!城壁の高さは10メートルあり、人口30万人のこの都市をグルリと取り囲んでおるのじゃ!」
王都バルバロッサ……この城堡城塁を本当に人間の手だけで作ったの?どうやったらこんな赤い壁ができあがるの?
私達は重機を使ってマールに要塞を建造したわ。でも、この要塞はそんな特別な力で作られたものじゃなく全て人の手によって作られた物。
昔の人はすごかったんだなぁ……しみじみと感じてしまいました。