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断食ダイエット  作者: 前歯隼三
6/6

最終回=目から鱗の新ダイエット!

ついに完結いたしました。

涙を服ハンカチをご用意してお読みください!

 ここから先の記憶はひどく曖昧だ、いや…ここからも何も。何もかもが曖昧な7日間だった。

 …それも違う…か、思えば…私の人生自体、全てがぬるま湯の中の白昼夢で何も考えず食べていたのだ。息を吸い、そして吐くように。あるいは心臓の鼓動が動き続けるのが当たり前のように、無意識に口を動かし続けていた。ただ…ただ…ただ…只、それの繰り返し、繰り返しだけの曖昧な人生であった。


“おめでとう、貴女の7日間は終わったのよ”


 どこか遠く、いつか聞いた人の声を聴いた。


 甘い…甘い香りが鼻を尽き、唇にポタリと…水ではない、トロミがかった甘い汁が注がれた…あぁ


(あぁ…幸せ…)


 ちゃぷちゃぷと、水の音が聞こえた。

 吸い込む息が酷く湿っぽい…プカリと、体が重力から解放されてゆく。

 ヒリヒリと尻と踵、そして背中が痛んだが、それを上回る心地よさに安らぎを感じた。


 ぷか…ぷか…ぷか…


 体が温かい水面に浮かぶ、肉体を包んでいた汚物が…汚れが取り除かれる。

 甘い香りで鼻が目覚める前は気が付かなったが、あぁ私は酷く酷く匂っていた。しかし…今は花の香に包まれている…


 ザプゥン

 わっしゃ わっしゃ

 ぷかぷか…ぷかぷか…


 身にまとう汚れを取り除かれて

 長年苦しんでいた自分の重さからも解放されて

 7日ぶりに取り込んだ糖分が、ついに血液から全身に巡る。


 ぱちり


「目覚めたようね…ターベル・ダイスキーさん。」

「せ…先生…」


 嘘の様だった、今…私は…酷い仕打ちを受けたばかりの私は、何故か喜びに震えている。

 

 先生に体を拭かれ、鏡の前に立つ…酷くやつれた顔のデブ女がそこにはいた。

 7日前にくらべれば、一回りも二回りも小さいデブ女がそこにはいた。


「目が覚めたのなら、おかゆを作って差し上げましょう。いままであなたが食べた料理の中で…一番おいしいおかゆですよ。」


 ベッドの上にクッションを積み上げられたクッションに背を預け、香が焚かれた部屋で先生を待つ。そして出されたのは…スプーン3杯ほどの白いおかゆ、梅干しの欠片が赤く彩るシンプルなおかゆだ。焚かれたお米の香で涎が出る、梅干しを見て涎が出る…しかし、匙へと手が伸びない。

 …極度の衰弱で、体が思うように動かないのだ。


「大丈夫よ、私が食べさせて差し上げるわ。」


 赤子の面倒を見るように、先生がおかゆを軽くよそい口元に運ぶ…そして、一口分を三度に分けて流し込んだ。


「あぁあぁ」


 舌先が熱に痺れる、いな…味に痺れた。おかゆが熱いのではない、おかゆに触れた舌先が、歓喜に震えて熱を生んでいるのだ。

 電流が流れる如く、その歓喜の震えが胸に脳にと伝播して…つぅっと、舌の中央の溝を汁がなぞり舌の付け根を越え喉を焼いた。


 ゴクリ


 舌先が、喉が、胃袋が…そして、全身が、脳が、胸が熱い…熱い熱い歓喜!


……

…………


 2日目はなんと贅沢にも豆腐のスープ

 3日目には久々にサラダを噛み締めた。

 4日目には白米と味噌汁

 5日目にはそこに漬物を足して下さり

 6日目に焼き魚を食べた時は、感謝を表現するために川に飛び込んだ。

 7日目は卵焼と山菜

 8日目には存在を忘れていた豚肉を食べた。感動し絶叫し、詩をした為、歌を作った。

 9日目に豚を提供して下さった畜産農家さんのお手伝いをさせて頂き、豚たちに一匹一匹に感謝を伝えた。

 10日目に豚たちが出荷される事を聞かされ、ショックのあまり久々に空腹の夜を迎えた。

 11日目、豚たちのお墓を作りカツ丼を食べ

 12日目、私は断食教の洗礼を受けた。

 13日目、先生と共に洞窟で過ごし

 14日目、先生と共に街に出かけた。


 7キロ、8キロ、9キロ、10キロ…

 体重は着実に減り続け…先生と出会ってから1カ月目、久々に体重計に乗ってみた。


 108キロあった体重が…なんと70キロになっていた。


 ポロリ

 喜びではない、勿論…その感情もあったが、自分の中に浮かんだその喜びが情けなかった。

 体重など、回り続ける世界の中で…なんと下らない小さな事なのか、自分はそんな物を気にしていたのか…過去の自分は、なんと愚かで不幸だったのだろう。


 家に戻り、着れるようになった1年前の流行の服に袖を通す。

 そして久々に一人で町に出かける。


 漂うカレーの香、焼肉の香、ピザの匂い、焼き鳥の匂い、アルコールの匂い。

 頬張る人々、太った人々…まるで、あぁ…なんて…!!


「みんな…なんて不幸なのかしら…、私が…同じように…不幸だった私が…彼らを救ってあげなければ!」



  ◇  ◆  ◇  ◆



「…では、新しいダイエットを紹介します!」


 教室を見渡すと、肥満すぎて正座はおろか、胡坐もかけないデブ達が壁や柱に背を預けて、足を投げ出しこちらを見ている。


「皆さんは数々の挑戦をし、そして失敗を重ねてきたのでしょう…それは何故か!甘いからです!世間に溢れるダイエットは甘い!甘すぎる!皆さんが悪いのではありません…ダイエット方法が間違えていたのです!!」


 彼らを救うため、この講義は完璧に行わなければならない!

 大丈夫だ…正しい事を言うのだ!この講義の正しさは…私は、身で心で…魂で体験し知っているのだ!

 教鞭など握った事はない、少し声が上ずったような気がするが…大丈夫だ。そんな些細な事はどうでも良い!世界の大きさの前では…そんな小さな事は大丈夫なのだから…


「そ…そうだったんだ!」


 内心でどんなに“落ち着け”と言い聞かせても、やはり不安に指が震える…その震えを止めたのは、かつての自分と同じ目をした。体重100キロ越えのレディであった。

 目を輝かせるレディが過去の自分に、養豚場の豚に重なり…故に、胸の中が熱くなる!絶対に絶対!彼女を救って見せるのだ!!


「そこで今回皆さんに紹介するダイエットがこちら!“ダンジキ=ダイエット”…なんと成功率は100%!しかも効果は最速…一週間で結果が出ます!」


「す…すごふぃ!!」


 力強く、熱意をもって断言をする!迷いはない!

 感動に目を輝かせるレディ以外、他の全員が教室を出て行くが…あぁ、そんな些細な事は大丈夫だ!

 目の前の彼女を救う!その為には契約書のサインが必要であり…その為の、殺し文句は知っている!



「ぶっちゃけ、開始の翌日には体重減ります。そういう意味では効果が出るまで1日です。」


「すげふぇぇええええええ!」




 ターベル=ダイスキー(22歳)

 自称金髪美女の彼女は体重が108キロを超えるおデブであった。

 しかし、過酷なダイエットを経て…自称ではない、本物の美しい体と心を手に入れたのだ。

 

「ダイエットをして良かったと思っています、落ちたのは体重だけでなく…えーっとなんていうか…世界が違って見えるようになったんです。」


 インタビューにそう答えた彼女ははっと思いついて、頬を赤らめ…リテイクを取材班に要求した。


「落ちたのは体重だけでなく、“目から鱗”が落ちたんですよ…見える世界が変わるんですよ?ウフフ」


 目からの鱗の革新的ダイエット

 “断食ダイエット”は100%の成功と、アナタの幸せを保証します!

 さぁ~ダイエットを考えているそこのあなた!!

 断食教団は貴方の悩みを解決します!




 E N D

うおおお感動した!


読み切りで書こうと思ったのですが、無駄にじっくり書きたかったので連載の形を取らせて頂きました。楽しかった、完結して良かった。

わりと思い付きで短編から連載から色々書きまくっておりますので、他作品も見て貰えると嬉しい限り…では、またどこかで目に留まる作品を作ってゆきます、行くのだ…行くぞぉおおお!


ご拝読ありがとうございました!

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