涙の重さ痩せて行くのだ
「おはようターベルさん」
この非日常の状況で聞く、日常の挨拶…それは逆に酷く恐ろしく冷たく聞こえた。
目の前のこの女は昨日と変わらぬ優しい笑顔で、自らが閉じ込めた私に平常の挨拶をして来たのだ。
恐ろしい…この人は見た目と中身が違う、違うんだ…
小舟に乗って水面を見下ろしても、海の深さが解らないように…この人とは目を合わせ会話をしても、きっと真意は解らない…それが恐ろしい、人ではない…人の形をした何かなのだ…
「うぅうぅ…トイレに…トイレに行かせて!」
しかし、そんな恐怖などどうでも良いほど…今は緊急事態である。
腹も減り、体力は低下しているが…今はそれよりも排泄がやばい。
「ふふふ、ではあなたにこれをあげましょう。」
「え?」
シャベルを渡された。why?
「穴を掘ってそこにしなさい。」
「ええええええええええええええええええ!!?」
屈辱だ、屈辱すぎて何を言っているか解らない…しかし、やるしかない!
「うおおおおおおおおお!!」
ガキン!ガキン!ガキン!
「アハハハハハ!無駄ですわよ!アハハハハハハ!」
「あああああああああああ!!!」
シャベルで石柱を叩きまくったが駄目だった、柱の根本…土部分をいくらか堀ったが柱は地中まで続いている…ぐぅうぁああ!動いたら腹がぁああああ!
「あらあら!こーんな外から見えるところでするんですかぁあ?ターベルさんはそういう性癖の方なんですかぁあああ!?」
「ぐぅぉおおおおおおおお!」
腹が痛すぎて言葉を返す時間が無い、せ…せめて洞窟の一番奥に穴を…穴をぉおおお!
プシャァアアアア
駄目だった。石柱前の穴から出る時こけて漏らした。
「ふごおおおおおおおおおおおおおん!」
「あははははははははははははははは!」
泣きながら、次回の為に洞窟の一番奥にトイレを作り…そして汚れた衣服とシャベルを回収された。
殺す…ここから出たら殺す…
「いひひひ…ふーぅうう!ふぅううう!…さて、準備は終わりました。」
「は?」
爆笑していた講師がピタリと笑いを止めて、真面目な顔にもどりそう告げた。
「じゅ…準備!?」
否な予感がする…一体、一体何をしようというのか…
「えぇ、ではここから一週間の説明をしますわ」
「一週間!?」
ダンジキダイエットの講座で、確かそんな数字を聞いた気がする…あ、一週間で効果が出るとか…巣言えばこれダイエットだった、えぇええええええ!?
「辞退します!」
「出来ません。」
無慈悲だった。
「断食ダイエットは決まった日数をこなす事に意味があるのです、逆にそれ以外意味はありません…辛いのは必然、逃げたいのも必然…なのでそれは出来ないと契約書の方に書いてあったはずですが?」
「ぐぅうう!?」
難しい漢字が多いし長い文章だから読まずにサインをしてしまった…腹の音みたいな変事しか出来ない…。
「逃げられないようにこの施設=飢乾山牢獄をしようし、そして衣服を奪ったのです。」
「ろう…ごく?…そして衣服?」
駄目だ、理解が出来ない…何を言っているんだこの女は…糖分だ、脳を回すのに糖分が足りない…理解が出来ない情報の波に、糖分不足の脳が震える。
「衣服をうばってなんの意味が…」
「命を絶たないようにです。衣服で首を絞めたり…そんな自殺を防止するための処置なんですよ。」
…
……
…………
「うぉおおおおおおおおおおお!ここから出せぇええええええええええええ!」
「あははははははは!愚かぁあ!暴れればそれだけ早く長く苦しむだけですよぉおおおお!?」
痛いのは嫌なので力士の張りてのような感じで石柱を押す、昨夜駄目だった勝手口にも再突撃…しかし、どちらも人力では無理だった。
「ぐぅうう!」
グゥウウウウ
腹の音みたいな唸り声と、腹の音が重なり一人ハモリ…駄目だ、うぅ…本当に成すすべがない…ナスが食べたい。天ぷらで。天ぷらそばで…
「ぐぅうううう」
グゥウウウウ
「あはははははは!一週間の予定ですよ?断食断食断食断食断食断食断食…それが断食ダイエットォオオ!?断食って判りますぅう?ご飯を食べないって事ですよぉおおおおお!?」
「あああああああああああああああああああああ!」
後悔した、契約書にサインをした事を…内容を読み飛ばしてしまった事を…そして、小さいときに漢字の勉強を怠けた事を!怠惰な自分を!愚かな自分を!
「己の選んだ道で後悔をするな!逃げられないんだよぉお己の業からぁあ!過ちからはぁああ!“食を断ちつつ己の罪を嚙み締めろ”それが本日の予定ですよぉおおおおお!!」
レッツゴートゥー ダイエット
一晩を明かし、トイレを作り…体重は0.8キロ減った。
「あああああああああああ!」
今も涙の重さだけ、ダイスキーの体重は減り続けている。
ダイエットとは辛い物なのだ。