第6話 一瞬の殺し合いと新しい仲間
「仲間、ですか」
「ああ。Bランクまではソロでもどうにかなるが、Aランクから上は無理だ。これだけは断言しておく。過去のSSSランクも今いるSSSランクもソロでは成り上がっていない。パーティを組んで、クエストにあたってきた」
それほどか・・・。
「まあ、今すぐパーティメンバーを募れってわけじゃない。だが、もしお前がAランク以上になった時にいなきゃ、きつい言い方になるが、死ぬことになる。死ななかったとしても、冒険者を続けることが厳しいほどの傷を負うことになる。それは覚えておけよ」
「・・・」
「ま、とりあえず考えとけ。じゃあな」
ギルマスはそう言うと、受付嬢を連れて医務室から出ていった。
ーーーーールド草原
あれから数日。体もすっかり良くなり、今はオーク討伐のクエストを受け、ルド草原のある少し大きい森まで来ていた。
「ここにオークが出現するっていう話だったが・・・」
国からはだいぶ離れているせいか、森の中はだいぶ鬱蒼としていて、国の近くの森とはだいぶ雰囲気が違っていた。
「一体どこにいるってんだ?・・・・・・ん?」
今何か聞こえたような・・・。
ーーーーーーォォォ・・・
「森の奥のほうか。行ってみるか」
声のする方向へまっすぐ向かうと、オークらしき姿と人影が見えた。
(オークと誰かが戦っている?)
近づいてみるとそこには・・・。
「右腕・・・」
「グオォォァァァア!?」
ドサッ!
オークの右腕を切り落とす少女と切り落とされた場所から大量の血を流すオークの姿があった。
(今出たらおそらく邪魔になる。それにほかの冒険者も少し気になるしな。少し様子を見るか)
「グラァァァ!」
オークは少しよろめいた後にすぐさま左腕で反撃をするが・・・。
「遅い・・・」
「ガァァァァアア!?」
その左腕すらも少女はたやすく刈り取ってしまう。
左腕も失ったオークは攻撃の勢いで跪いてしまい、そのもとへ少女は歩み寄る。そして、その首元に刃をあて・・・。
「弱い魔物≪ヒト≫・・・。さようなら」
切り裂いた。
すごいものを見たな・・・。瞬殺とは、強い冒険者もいるものだ。さて、俺もここから離れて・・・。
ガサッ!
「!?」
なんだ?少女がこっちを驚いた顔で凝視している?
「・・・・・・ひ、と・・・」
人?何なんだ?しかも、何かあの子、顔がにやけてきてないか・・・?
「強そうな、人・・・♪」
「!?」
何だ!?満面の、いや、狂気の笑みで殺気を放っている!こいつは・・・
「アハッ♪」
ヤバい!
「ぐっ!?」
いきなり斬撃をかましてきやがった!とっさに大剣を抜いて防御しなかったら危なかった!
「へえ・・・♪」
「お、らっ!」
大剣を振り回して、少女を弾き飛ばす。
「私の初撃を防ぐなんて、お兄さんが初めて♪」
「何なんだよお前!」
「私?私はただの強そうな人と斬りあうのが好きな冒険者だよ♪」
「何が、ただの、だよ!」
「お兄さんは?」
「俺はただの敵をねじ伏せるのが好きな戦闘狂の冒険者だよ」
俺はあえてこいつを真似た自己紹介をしてやる。
「戦闘狂か~♪いいね、お兄さん♪私と殺り合おうよ♪」
これは、逃げられないか・・・。仕方ないか。
「ああ、やってやるぜ!」
この瞬間から、俺と少女との殺し合いが始まった。
「ふんッ!」
「あははッ♪」
「うおっ!」
こちらの攻撃と同時に回避、そのまま死角に潜り込んで攻撃。こいつ、強い!
「うーん、今のでも当たらないのか~」
俺も認識を変えよう。こいつは、敵だ。
「じゃあ、こうしよ♪」
そう言うや否や、正面に突っ込んできた。
「ぶった斬る!」
俺は横なぎに大剣を振るう。馬鹿正直に無策で突っ込んでは来ないはずだ。何を考えてる?
「ほっと」
「なっ!?」
こいつ、大剣の上に乗りやがった!?
「甘いよ、お兄さん♪」
「がッ!?」
そのまま、俺の顔面を蹴り、飛び上がった。
「これで終わり!」
落下しながら、俺に刃を突き立ててくる。だが、
「このまま、追われるかぁッ!」
「ひゃあッ!?」
俺はその腕をつかみ、地面に叩きつけようとする。しかし、
「ほいっと!」
地面に叩きつける寸前に俺が手を離したその一瞬の隙をついて、信じられない体の動きで俺の後方へと飛んで行った。
「逃がすかぁッ!」
とっさに振り返り、『脚力強化』で一瞬のうちに距離を詰める。
「お兄さん、速すぎでしょ!?」
「くらえッ!」
この一瞬だけ『オーバーパワー』を左腕のみに使用し、少女へと拳を叩きつける。
「くうッ!?」
(右腕で防がれたか!だが、構わない!)
「吹っ飛べッ!」
「きゃあああッ!」
勢いのまま吹っ飛ばし、少女は数メル先の木に叩きつけられた。
「かはッ」
だが、
「ぐッ!」
左のわき腹から激痛が走る。見ると、血が流れていた。
(拳を受けると同時に斬ったのか!)
とっさの状況判断と対処の速度が速すぎる。これは脅威だな・・・。
「まだ、終わってないよ、お兄さん・・・」
「!?」
戻ってくるのが速すぎだろ!?
「早く、続きをしようよ・・・」
息も絶え絶えな様子の彼女を見ると、右腕が紫色に腫れ、だらりとぶら下がっていた。
「・・・ああ、分かった」
こいつはやる気だ。俺が隙を見せれば、俺が殺られる。
「じゃあーーー」
と、始めようとした時だった。
「グオァァァア!」
木々をなぎ倒して現れたのは、オークだった。
「邪魔をーーー」
「するなぁッ!」
「ガァッーーー」
俺たちの動きは早かった。俺が胴体を両断し、彼女が喉を掻き切って、オークは大声を上げる間もなく地に倒れた。
「・・・さて、オークが乱入してくるような場所だが、まだ続けるか?」
邪魔が入ったことで、熱が冷めてしまった。俺たちも痛手を負っている。だからこう提案した。すると、彼女はこう答えた。
「ううん、やめる」
「何だ、やけにあっさりだな」
「どうせ、続けたところでまた乱入される。それに、お兄さんと一緒のほうが楽しそう」
「ああ、そうーーーん?」
「どうしたの・・・?」
こいつ、やめるどころか・・・
「俺と一緒?」
「うん、パーティになるの・・・。」
「・・・。」
これは想定してなかった。思わず黙っちまった。つか、急にしゃべり方がおとなしくなったな。
「ってことで、よろしくね、お兄さん・・・。」
「ああ、よろしく・・・。」
急なもんだから俺もしゃべり方がおかしいな。
「お兄さん、名前は・・・?」
「ジードだ。お前は?」
「クロエ」
「クロエか。クロエは何の職業≪ジョブ≫なんだ?」
「暗殺者≪アサシン≫。ジードは・・・?」
短剣使い≪ダガーリスト≫の上位職、暗殺者≪アサシン≫か。強いわけだ。
「俺は暴走士≪バーサーカー≫だ」
「暴走士≪バーサーカー≫・・・!?ふふっ、やっぱり面白い人・・・♪」
すぐに受け入れてもらえたのは初めてだ。なんか、嬉しいものだ。
「さて、いったん帰るか」
「うん・・・」
こうして、俺の初めての仲間ができた。こいつなら、前世のようには・・・。
どうも、颶炎です。主人公の仲間を持つことに対するトラウマ意識へのアプローチ、これがこの話のテーマでした。そして、新キャラであり、初仲間であるクロエ。この子もなかなか個性的です。戦闘狂な主人公と殺し合いを好むクロエ。この二人がどんな話を織りなすのか、ぜひご期待ください。ではでは。
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