第4話 昇格試験
数日後。俺はクエストをそつなくこなし、達成数は10を超えていた。そんな時だった。
「Dランクへの昇格試験、受けてみませんか?」
受付嬢から、ランク昇格の話を持ち掛けられた。
「分かった、受けよう」
俺は即答でその話を受けた。
ーーーーーギルド闘技場
その翌日。ギルドの所有する闘技場に来ていた。
「さて、試験を開始する」
「よろしく頼む」
試験官を務めるのは白髪で、右目に傷を負ったおっさんだ。
「暴走士は下手に暴れまわる可能性があるんでな。ギルドマスター自ら試験官を務めさせてもらうぜ。」
「まじか…」
ギルマス自らがお相手かよ…。
「くははっ。そんなに固くなるな。俺が相手とはいえ、たかだかDランクだ。そんなに厳しくはせん」
「本当かよ」
「ああ、本当だ。マジもマジだぞ。だが、見境なく暴れまわるんじゃあ認められんからな?」
「ああ、分かってるさ。安心してくれギルドマスター。見境なく暴れはせんさ」
「その話は受付嬢から聞いている。だが、それが本当かどうか俺も確かめたくてな。こうして、試験官を買って出たわけだ」
「なるほどな。じゃあ見せてやるよ、俺が暴走せずに戦えるのを」
「ああ、理性を持った暴走士を存分に見せてくれ」
と俺たちが盛り上がってたところに声が割り込んできた。
「あのー、そろそろ始めてもよろしいでしょうか?」
「「…」」
試験監督として呼ばれていた受付嬢の声だった。完全に失念していた。
「くははっ。すまないな、フィリア君。会話に没頭して、完全に忘れていた。準備はいいぞ、始めてくれ」
受付嬢の名前はフィリアというのか。っと試合に集中しなければ。
「ジードさんはどうですか」
「俺も問題ない。今すぐ始めたいぐらいだ」
「それじゃあ、始めますね。レディ…」
準備の合図とともに俺は腰を低くする。対してギルマスは仁王立ちのままだ。武器は…籠手か。余裕からか?それとも、これがスタイルか?
「ファイト!」
「はっ!」
「…」
開始とともに駆け出す。迷っていても仕方がない。先に攻撃を仕掛ける!
「ふんっ!」
袈裟斬りの要領で斬りかかる。だが、
「せいっ!」
ガインッ!!
「なっ…!?」
刃に籠手をまとった拳を当て、弾き飛ばした!?
「重い良い斬撃だ。どこで習った?」
「自己流だが」
「なるほど。それが本当なら戦闘センスは抜群だな。では、こちらから行くぞ!」
「…っ」
今度はあっちが迫ってくる。速い!
「おらあっ!」
「うおっ!?」
鋭いパンチが、すんででよけた俺の鼻の先を掠めていった。
「何が厳しくしねえだ!このっ!」
躱しながら斬撃を繰り出す。
「くははっ。まだまだ軽いほうだぞ?」
ギルマスはそう言いながら、軽い顔をして斬撃をよける。
「そうかよっ!」
畜生、こりゃキツいぞ…。正直、まともに当てられる気がしない。
…その後も幾度と攻撃を仕掛けては躱され、攻撃を仕掛けられては何とかしのぐのを繰り返していた。
(やばい、体力がもたなくなってきた…)
一つ一つの動作はそれほどでもなくとも、それが積み重なれば消耗も大きくなってくる。だというのに、目の前の男は息一つ切らしていなかった。
「そろそろ仕舞いにするか…」
「お?何かあんのか?」
「できれば出したくなったんだが…」
すう、と息を吸う。
「『オーバーパワー』!」
『オーバーパワー』。これは、暴走士を選んだ時に最初に得られるアクティブスキルで、筋肉の出せる力のリミッターを一時的に解除し、普段の数倍の力を出すスキルだ。
「行くぜ。ハァッ…!」
ギルマスとの差を一瞬で詰める。
「速っ…!?」
「吹っ飛べ…!」
渾身の力を込めて大剣を振るう。
「ぬうっ!?」
苦悶の声を漏らすと同時にギルマスが飛んでいき。
ドガァァァァァン…!
壁へと勢いよく叩きつけられた。
「はぁ、はぁっ…。くそっ…」
体に力が入らない。スキルの反動によるものだ。その時だった。
「いやあ~、危なかったぜ。とっさに防御した甲斐があったな」
吹き飛ばしたはずのギルマスが、あっけらかんとした顔でそこに立っていた。
「まじ、かよ…!」
「今のはよかったぞ、青年。いや、ジード。俺でなきゃヤバかったかもな。って、聞いてるか?」
やべ、意識が遠のいてきた。思っていた以上に体にきてたか…。
「こりゃまずいか?受……嬢。医務班を……」
俺の意識はそこで途切れた。