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「神海さんはこちらに座ってねー、今ちょっとテーブルの上を片付けるから」美香はソファーを指さす。
美穂が素早くソファー前のテーブルに置いてある食器をキッチンの流しへ移す。
「あの、手伝いましょうか?」神海さんは女性二人がバタバタしているので、自分が座っているのが申し訳なさそうだ。
「神海さんは座っていてくださいね、もうすぐに終わりですので。 美香、今テーブルを拭き終わったから、うな重持ってきてくれる?」
「はーい。あ、神海さん、私のおとなりでいいですか??」と返事をしながらうな重をテーブルに置き始める美香。
「え、もちろんですよ」と答える彼。
『だから、どうしてそんなに嬉しいのよ...それに美香ってば私が渡した神海さんの情報を使って何してるのよ!』...と思いながら小さいため息を漏らす。
「用意できましたよ、今お茶もってきますねー」美穂がキッチンへお茶を淹れようと向かう。
テーブルに戻ると、もう席について親しそうに会話を交わしている二人。更に美穂が神海さんの迎えに座ると...
「神海さん、どうぞ頂いて、美穂もこっちねー」と、特上のうな重を二人の前に置く。そして…
「はい、私はこれね」と並みのうな重を。
「え?有山さんのだけ小さいうな重ですか?」と戸惑う彼。
「ええ、私はこれでも多すぎるので」と言いつつ微笑む。
「はい、お茶をどうぞ」と美穂が湯吞み茶碗を両方に渡す。
「ありがとー、美穂」「あ、どうもすみません」
「それでは、いただきます。」と一礼する美穂。
「いただきまーす!」「では、いただきます」
「あ、うなぎ久しぶり、美味しい!」美穂が満足そうに言う
「んー、本当ねー」と頬張りながら美香もうれしそう。
「そうですね、わたしも鰻はひさしぶりです。美味しいですね、ですがちょっと量が多すぎて」
すると美香が首を傾げて「そうですかー?私はウナギ、もうちょっと食べれるかな―??」
「え?それでは私がまだ手を付けてないところをいかがですか?」
「いいんですかー?ちょっとうれしい、ありがとう」と答えた後、美穂にちらっと視線を移す。
美穂は二人のやり取りを見ながら、唖然としている。『何なの?この二人?え?それに、神海さんがうな重分けたら、私が一番食べたことになるじゃないのよ!』
「美香、私が少し上げるわ、神海さんからもらったら申し訳ないでしょう?」
「え?でも美穂は、注文するときこのぐらい軽く食べれるって…」
「え?私そんなこと言ってないし…!」
「あ、坂無さんご心配なさらずに、私もすぐ隣にいますので。美香さん、これぐらいでいいですか?」と自分の重箱から美香へと分ける。
「あー名前で呼んでくれるの?うれしい。うん、ありがと―。私も直樹さんって…呼んでいいかしら?」
『なんでそんなに神海さんに甘えているのよ!?』
「ええ、もちろんですよ。美穂さんも直樹と呼んでください、その方が堅苦しく無いので」
美穂は、なぜ自分の頬が熱くなるのが分からない。「え、ええ…そうさせてもらいますね、直樹さん」と、たどたどしく返事をする。
美香は、そんな美穂を見て、二マーっといったような笑顔を美穂に向ける。美穂は自分の顔が尚更赤くなるのを感じ、がたっと立ち上がり「ちょっと席を外しますわ」と言いお手洗いに直行。
「あ、美穂さん、だいじょうぶですか?」と彼の声が背後から聞こえるが、この状態では返事をすることもできない。
美穂が廊下に姿を消した後、「あの、美穂さん、大丈夫でしょうか?若干頬が赤かったような…」と美香に問う。
「え?大丈夫だと思いますよ、多分」
「そうですか、いえその、夏風邪とかは意外と危険なので...」と言い始める。
「んー、風邪ではないと思いますよ?直樹さん」お茶を飲みながら答える美香。
「そうなんですか?それでは昔からお体が弱かったとか」
ぶっ!っとお茶をふきそうになる美香。「いえいえ、美穂に限ってそれはないですよー」と笑いながら言う。
美穂は、というと...
お手洗いに入り次第、鏡をにらみ手を頬に充てる。『だからー!なんで赤面してるのよ!?』一人になったので、少し落ち着く美穂。『ああ、男性から下の名前で呼んでくださいなんて言われたの、初めてだったかったからよね。だからちょっと動揺しただけよ』と自分の気持ちを整えるため合理化した後、大きく息を吸いまた食卓に戻る美穂であった。