5-出会い
タクシーで帰宅した美穂と美香。マンション前で降りた時には、夕暮れに近かった。
「あー美穂、見て見て!夕焼け見れるの久しぶりー!」
美穂は夕焼けを眺めながら、少しホッとする。
「うん、本当に綺麗ね、癒されるわ」
「そうねー、今日は大丈夫だった?美穂って人混みは苦手だし」
「うん、まあ何とかね」
美穂がそう言いながら二人は夕焼けを背にしマンションに向かう。
美穂がマンションの入り口を開けメインホールに足を踏み入れると同時に5階専用エレベーターの扉が開き、一人の男性が下りてきた。
年齢は45歳ぐらいで白髪がまばらに見える髪。身長180cmはあるだろうか?
第一印象としては、紳士という言葉がしっくりと当て嵌る感じの雰囲気を纏った男性だった。
彼は彼女たちが反対側のエレべーターべを待っているのに気付き、少しの間を置き、微笑みながらペコリと頭を下げる。
美穂が応ずる前に、美香がお辞儀を返し「初めましてー」とあいさつを交わす。
彼はすたすたと美穂たちの前に歩み、また丁重に頭を下げる。
「初めまして。私は今日から5階に引っ越してきました神海直樹と申します。よろしくお願いいたします」
「あー、ごめんなさい、ここに住んでいるのは私じゃなくてこちらの私の友人です。」
美香は、まだ何も言わない美穂の腕を肘でつつく。
「あっ、坂無美穂です。こちらこそよろしくお願いします。」
「私は有山美香です。いつも美穂と一緒です。よろしく!」とにっこりと笑う。
「こちらこそよろしく。坂無さんは何階にお住まいで?」
「私は4階の408号室です」
「そうですか、今はちょっと用事があるので失礼します。のちにご挨拶に伺いますので」
「あ、恐れ入ります、それではまた後程」
挨拶後、美穂がエレベーターのボタンを押し、マンションを出ていく彼の後姿を見つめていると黒っぽいスーツを着込んだ体格のいい男性が二人どこから現れ、両側に付き添い彼を同行し始めた
「え?何あれ??」とつい声に出してしまう美穂。
同時に美香もそれを目撃して「うそ―、どういう事??」と小声で呟く。
美香は、部屋に戻るまで「えー、あの人だれだろ?政治家?資産家?もしかしてやばい人?ねー、美穂どう思う?」等々、美穂に聞きよってくるが美穂は美香の新しい住人に対しての色々な憶測に返答しなかった。
部屋に戻り、美香がソファーに勢い良く座る。美穂はキッチンに直行。
「美香、緑茶でいい? 美味しい羊羹もあるわよ」とキッチンから声をかける。
「ウンいいよー、ありがとう」と返事が返ってくる。
美穂はお茶と羊羹をローテーブルに置き、隣に座る。
「美香、突然だけど、神海さんと初対面よね?」と、突然美香に尋ねる。
「えっと、会った覚えないなー。どうして?」
「神海さん、あなたを見た時に凄く複雑な心境だったのよ。悲しさ、切なさ、
それと微妙な喜び。私びっくりしちゃって、声が出なかったわ」
「え? 嘘。あの人とは絶対に初対面よ」
「そうなんだ。ちょっとそれにしてはすごい反応だったから一応聞いてみただけよ。」
「彼の知人の誰かと似ているのかな?」
「その可能性もあるわね、でも全く顔に出てなかったわね。それに…」
「それに...何?」
「ううん、何でもない! はい、どうぞ召し上がれ。」といい、お茶と羊羹を美香に渡す。
「美香、もう遅くなってきたし今夜はここで止まっていきなさいよ」
「うーん、そうね、それじゃお願いね。職場に必要なものはほとんどあそこに置いてあるし」
「そうよ、それに美香の服も客室に置き換えがあるから大丈夫よ」
美穂は頻繁に美穂のところへ遊びに来る。美穂も美香と一緒にいるのがうれしいので美香がいつでも泊まれるように一部屋を美香に譲ったのだ。
「それでね、美香。晩御飯のことなんだけど、何にする???」
「えー!まだお寿司もたれてるのにー」
『美穂は相変わらずだなー』、と思いながらも夕飯選びに付きあう彼女だった。