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私と5階のおじさま  作者: どんぐり山
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「うわあ、素敵!」


美香が浴衣姿美香の美穂を目にして出てきた言葉。

今夜の夏祭りのために数年前に買った浴衣を取り出し、美香に着付けを手伝ってもらい何とか様になった。

白い布地にパステル系の水仙モチーフ、確かにかわいいが、「ねえ、美香、本当に似合っている?」と心配げな美穂。

「何を言っているのよ?鏡を見てごらんよ、もう美穂ったら」といい、美穂をくるっと姿見に向かわせる。

『うん、帯を深い藍色の色でまとめているから、なんとかなるかしら?』と思う美穂。髪型も美香に手伝ってもらい、ゆるふわシニヨンにしてもらった。ちなみにヘアスタイルは美香とおそろいだ。

美香はというと、ラベンダー、ベビーブルー、ピンクがメインのアジサイ柄の浴衣に、赤い帯。淡い色合いが彼女の可愛さを引き立てている。

『美香の浴衣姿を目にして、直樹さん大丈夫かしら?』と少し気をもむ美穂。10年前に亡くなった妹の鏡写しの美香、その事実は、彼以外は美穂と東大病院の黒沢医師だけが知っている。彼が美香の浴衣姿を一目見て情動不安定にでも陥ったら…『もしもの時は、私がフォローするから。頑張るんだ、私!』


「美穂、何か不安そうだけど、大丈夫?」急に暗い表情を見せた美穂のことを心配そうにうかがっている美香。

「あ、ごめんね美香、うん大丈夫、ちょっと仕事のことでね…」と言いながら笑顔で紛らわす。

「そっか、美穂は大変だね。でも今夜だけは仕事のことも忘れて楽しもうよ、ね?」と美香が元気づけようとする。

「そうね、そろそろロビーで待ち合わせの時間だから、行きましょうか」


二人揃って玄関を出て、一階のロビーに向かう。

「本当に美穂とお祭りなんて、何年ぶりかしら?」

「ううん、もう3,4年ぐらいね。本当にあっという間ね。」

エレベーターがロビーにつく前に少し緊張する美穂。「美穂、また真剣な顔つきしている、だめだよ、仕事のことばっかじゃ」

「え?違うわよ。おいしい屋台があるかな~とか思っていたの」

「…かわいそうな直樹さん」

『美香の浴衣姿で、違う意味で可哀想な事にならないといいけど』と内心思っている美穂。

美香が嘆いていると、エレベーターのドアが開く。もう彼は護衛四人とともに二人のことを待っていたようだ。護衛たちと何か話し合っている模様。

「こんばんは、直樹さん!」と元気に挨拶をする美香。

はっとしたように彼が美穂たちのほうに振り向き、美香の浴衣姿が目に入ると、身構えていた美穂にぶつけられる複数の激しい感情の波。何とか平常心を保った後、「ああ、美穂さん、美香さん、こんばんは」と、にこやかに挨拶を返す。

『うん、何とか耐えられた…それより…』と美穂が思う。すらっとした背の高さに紳士的なオーラ、見事に浴衣が似合っている。それに護衛の皆も全員体格がいいので、それもそれで浴衣姿が様になっている。

「皆さんこんばんは、浴衣姿がよくお似合いですね」とつい言葉にしてしまう美穂。

「ああ、そ、そうかな?もうだいぶ前に2,3度、着ただけなのでね」彼がはにかんだような、照れたような表情で返答する。護衛の四人も「あ、ああ」、「どうも」、など答えながら、まんざらででもない反応。

美香はというと、さっそくアパートの事件の際に駆けつけてくれた護衛二人と楽しそうに会話を始める。


徒歩15分ほどの神社に向かう。護衛たちも含め、みな気楽に会話をしながら夕焼けに染まった道を歩いていく。神社に近づくにつれ、祭りに向かっていると思われる人数が増してくる。家族連れもいれば、若者たちのグループも。神社の途中に位置する商店街も町の人たちでにぎわっていた。


ただ、移動中にやけに視線を感じる。男性軍は浴衣が黒色なので、美穂と美香の浴衣姿がなおさら目立っているのだ、というか、彼女らが美人なゆえに周囲の男性たちの視線を奪う。ため息をつく美穂。彼女にとってはいつものことだが、彼や護衛たちと一緒にいることで確かにほっとしている彼女であった。


『直樹さんと同行でよかった。私も美香も下手に声をかけられることもないだろうし』と思い、後ろを見ると美香がいまだに二人の護衛たちとおしゃべりの真っ最中。

『うんうん、美香も嬉しそうで、何より』と、微笑む美穂。美香に今はただ、何の心配もなく楽しんでもらいたいというのが美穂の願いだった。

階段を上り、高台にある神社に到着。そこには、多数の屋台と盆踊りの広場。もうだいぶ人でにぎわっている様子だった。


「そういえば今夜は花火大会が観れるようですわね」と美穂が聞く

「ああ、そうでしたね、確か今夜でしたね」と彼が答える。

「ふふっ、花火観賞なんて、久しぶり!」と喜ぶ美香。

「そうなんですか?」

「ええ、私も美香も3,4年ぶりですわね」

「私も…そうですね…」とぽつりとつぶやく彼。「それでは、屋台を見て回りますか」と気を持ち直し、屋台へと足を向ける彼。


屋台を回りながらワイワイと楽しむ美穂たち。チラッと隣でたこ焼きを買っている美香を見て『うん、あの事件後どうなるかと心配だったけど、問題ないようね。それにしてもあの護衛さんたち、ちらちらと美香のことを目で追っているしね!まあ、美香の浴衣姿だからしょうがないけどやっぱり男は~』と内心ため息をつく美穂。


そんなことを思っているうちに花火が見える広場に着くと、ちょうど花火が夜空を彩り始める。

「すご~い」、「キレイ~!」美穂たちの声も周りからの歓声に溶け込む。


花火に照らされる彼の横顔を覗き込みながら『今のところ、直樹さんもここへ来たことを満喫しているようだし、よかったわ』とほっとしている美穂。すぐ隣に立っている彼を意識してか、彼女もなれない感情に戸惑っている。ただ今は、彼の隣にいるだけでいいと思えることだった。

その時に夜空一面を照らすほどの花火が同時に打ち上げらる。美穂がはっとし彼に視線を向けると、一筋の涙が彼の頬を伝わっていた。


声をかけたかったが、そこに踏み込めなかった。多分彼は、今は亡き家族のことを思っているのだろう。美穂は、咄嗟に彼の手を握った。その彼女の手が握り返され、二人とも無言で最後の花火が散りゆくまで手をつないでいた。


いろいろな事情で、数年間もの間、投稿できませんでした。申し訳ありません。

これから定期的に続けるつもりです。

本当にすみませんでした。

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