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「まあ、美穂は余りにも男性に対しての直感が鋭すぎるからねー」と言われ、美穂はため息をついた。美香とは、小、中、高、大学まで同じ学校で、美穂が学年はひとつ上だったが、いつも一緒だった。学生時代はいつも美香が妹のように美穂について回り、美穂も美香を妹のように慕っていた。それ故に、美香は美穂によって来る男性たちを一人残らず振っている事も知っている。
美穂は告白してくる男子に対して容赦しなかった。中学時代だけでも十数人の男子が再起不能に陥ったと思う。
思えば、美穂は子供の時もかわいかった。成長するにつれて、可愛さは美しさに変化していく。
中学2年の時にメジャーな雑誌の専属モデルに、という話があったことも有名だった。無理もない、彼女は背も高く、夜中のような黒い髪を腰まで長く伸ばし、ブラジル人のモデルと比較しても劣らないスタイル、それに日本美人お手本のような美貌を重ねたようなハイスペック女子だった。
中学3年の、夏休みもすぐ近い放課後に二人で体育館裏の階段に腰かけて雑談を交わしているときに、「美穂、なんで誰とも付き合わないの?」と聞いた。
美穂は、何かだいぶ悩んでいるようだった。しばらくしてから、何か決意したように美香に話し始める。
「うーん、私さ、男子が何を考えているのか読めるみたいなの。第六感みたいに、大体何を思ってるかわかるのよね」と発言した。
美穂はおおきく息を吐き「それで、寄り添ってくる男子たち全員、みんなと言っていいほど厭らしいこと考えながら私のこと見てるのよね。」
「え?それじゃ彼氏なんか一生できないわよ?」と聞いてみると
「私、彼氏なんかいらないわ。だって、男子なんかと一緒にいても楽しくないし、精神的にも疲れるし、生理的に受け付けないし」と、バッサリと切り捨てる。
「もったいないわね、彼氏つくったら、意外と楽しいかもよ?」
「無理、絶対に無理。近くにいるだけで軽い拒絶反応で、吐き気おもよしそう。」
「うえ、何それ?マジで?!」
「そんな感じよ、私にとっては。それにね、小学校3年ぐらいからなのよ、男性が私のことをそう見るようになったのは。両親の親戚の叔父さんとか、担任の先生とか、近所のお父さんたちとか。本当に怖くて、辛かったわ。」
「え?ちょっと、なんか私も覚えているわ、美穂その頃よく私の家に来てたよね。いつも不安そうで、顔色もいつも悪かったような覚えがあるわ」
「そうなの、でもいろいろ頑張って今は男性の感情もだいぶ無視できるようになったし、それに美香と一緒に居られて、本当に救いになってくれたし、ありがとうね、美香。」美穂は、コテンと美香の肩にあたまを靠れる
この時美香は、改めて美穂にとって「男子は無理」と言っている重みが理解できた。
美穂は、どれ程怖くてつらい思いをしてきたのか、
一人で誰にも話せず、どんなに悲しかっただろうか。
彼女の手を握り「つらかったね、苦しかっただろうね、もっと早くに気付いて上げればよかったのに、ごめんね。これから、ずっと一緒にいて守ってあげるからね!」
「うん、ありがと。いいよ、美香がいてくれるだけで。私、幸せだわ」と少し涙ぐみながら声を絞り出す。
二人はしばらくそのまま、体育館のうらで寄り添っていた。




