16-青春している???
日曜日の朝。
誰かが肩をゆすっている。「美穂、起きてー」
「うー、あと10分」頭からシートをかぶる。
「そっか、せっかく朝ごはん作ったのに」
「朝ごはん?誰がー?」とまだ完全に寝ぼけている
「美穂の可愛い同居人がよ」誰かがシートを払いのけ、彼女の頬をぷにぷにと押し始める。
『あ、そうか。美香』目を開けると、美香がベッド際に座り、また彼女の頬をつつこうとしていた。
「誰かさんがつつくから、起きたわよ」
「おー、可愛いランジェリーを着ているわねー」
「何を言ってるのよ、美香もいっぱいあるでしょ?かわいいの」
「朝ご飯が冷めちゃうから、早く来てね。」美香が部屋のカーテンを開けてから出ていく。
あ―!と背伸びをして、立ち上がる美穂。寝室のドアを開けると、微かにベーコンの香りがフワッと漂ってくる。
『え?確か冷蔵庫に何も入ってなかったけど?』と思いながらも、いい匂いに釣られてリビングルームへ。
リビングへのドアを開け「美香、どこでベーコンなんて...」と言ったところで、声が出なくなる。直樹さんが食卓に食器を出しているところだった。
「え!?」彼は美穂の姿を見るなり一瞬固まったが、すぐに後ろを向き「すみません!」と一言。
「きぁあああ!!!」と叫ぶと、即座にリビングルームから自分の部屋に駆け戻る美穂。
美香がお手洗いから戻ってくると、顔を赤くした直樹さんが台所で洗い物をしている。
「あれ?美穂まだ起きてこないのかな?」と、不思議そうに直樹さんに聞くと「いえ、起きてきたことは、来たのですが...」と言いながら、下を向いて美香と目を合わせられない様子。
「あ、いけない、直樹さんが来てたの行ってなかったわ」
彼の顔がなおさら赤くなる
『ウフフフ、これはちょっとお楽しみですねー』と思いながら「あの、ごめんなさいね。美穂にちゃんと言ってなかったから」と申し訳ない口調で言う
「いえ、あの謝らないでください」
「それで、もしかして彼女ランジェリー姿のまま出てきたとか、ないですよねー?」
彼にとって、もう限界であった。顔を両手で隠し「見えてしまっただけで!わざと見ようとしたんじゃないんです!」
「......それで、ご感想は?直樹さん」首をかしげる美香
「ええ、感想ですか?」とドン引きな感じの彼。
「そうですよ、直樹さん。女性のプライベートウェアを見てしまったんですから。せめて一言お願いしますね」
[そ、そんな。初めてだったので、急に言われても...」
「え?」
「は?」
ちょっと、今の発言、おかしくなかった?と思いながらも、彼に質問する「えっと、直樹さん、あの、ランジェリー姿の女性ぐらい、見たことありますよね」
「...いえ、あの、ありません」
「ほう。そうですか、なるほど。とにかく美穂が来たら必ず感想を伝えるように!わかりましたね?」
「え!彼女に直接ですか?」慌てふためき始める直樹さん。
「そうです。彼女のあのような姿を見た後何も言わないと、彼女も不安になりますよ?」
「それはちょっと...」
「はいはい、お皿を食卓に運びましょうね。美穂もそろそろ戻ってくるでしょう?」
二人で朝ご飯の支度を終えると、ちょうど美穂がリビングに戻ってきた。
「あ、美穂。座って座って、直樹さんも座ってくださいね」何もなかったのようにふるまっている美香
「美香!直樹さんがいらっしゃるなら、先に行ってよ!」ブラウスとスラックスに着替えてきた美穂が美香に文句を言う。
「あー。ごめんね、美穂。それより、直樹さんが言いたいことがあるって」
「え!美香さん、本当に今ですか?」彼がたじろぐ。
「はいはい、はっきり言いなさい」と美香が彼をせかす
『な、なんのことなの?』と混乱する美穂。
「その、見えてしまったのですが、すみませんでした!」と顔を赤くして謝る彼。
「あ、いえ、直樹さんのせいではないんですよ。もとはといえば美香が私に伝えていなかったから」
彼が何とか声を絞り出す「それと、その、とても美しかったです」
「は?」一瞬何のことかわからない美穂。
「その時のあなたの姿が...その...」そこで、もう完全に何も言えなくなる直樹さん。
彼が本心を伝えていることがわかるので、美穂も急激に顔が赤くなる
彼の隣に座り、必死に笑いをこらえている美香。
「美香!!!」と今度は大声で怒鳴り、彼女の頭をぱこん!と叩く。
「いた―!あははは、ごめんごめん」我慢できずに笑い始める美香。
「ごめんなさい、直樹さん。美香からまた変なことを吹き込まれたのでしょう」
彼は横に座っている美香をぎょっと見つめ「あの、美香さんが、あなたのランジェリー姿を見てしまったので、あなたに感想を述べるように...しないとあなたが不安になると言われたので」
「美香!直樹さんに何を言ってるの?」
まだ笑っている美香が「ごめんなさいね、直樹さん。でも、美穂いいスタイルしてるでしょ?」
「え!あの、はい...」と素直に答える彼。そして、彼の前で顔を真っ赤にしながらプルプル震えている美穂。
「はいはい、食べ始めましょう。直樹さんも美穂も、お腹が空いているでしょう?」
「あの、もしかして直樹さんが朝食の素材など...」と美穂が恐る恐る聞くと美香が「そうよ、持ってきてくれたの!」と自慢げに言う。
「何で美香が自慢してるのよ?」
「だって、私が直樹さんに頼んだから」
「美香、直樹さんに甘えすぎ!本当にすみません直樹さん。美香のわがままに付き合ってもらって」
「いえ、いいんですよ美香さんのためですから。それより、美香さんはこの月曜日に出勤する予定ですか?」
「え?はい。一応会社に行って上に事情を伝えないといけないので。それに、連絡先も今日から変わるので」
「ああ、そうでしたね。それで私に提案があるのですが...」と彼が説明する。
直樹さんが帰った後、彼女たちはベランダのベンチに座りゆったりとした時間を過ごしていた。ベランダから見える桜並木の深い緑が、彼女たちの心を涼める。
「本当に良かったのかしら?」美穂がまた直樹さんの提案を考え直す。
「いいんじゃない?直樹さんもそういってるし」美香はもう乗り気のようだ。
「うーん、用心するに越したことはないわね」
「それより、美穂さー。直樹さんが美穂の姿は美しいって、よかったね!」
「何言ってるのよ美香ったらもう!恥ずかしくて死にそうだったわよ!」
「ふーん、本当に?」
「当たり前でしょ!」美香にはそういっているが、正直言って心の中ではいやではなかった美穂だった。
「ねえ、美香。私が学生の時に男子をあんなに拒否しなかったら私も美香も、もっと普通に恋愛経験が体験できたと思う?」
「んー、そこは分からないけど。恋愛って、(いつ)ではなくて、(誰と)が肝心なんだよ。美穂は今まで、恋愛ができそうな人が美穂の前に現れなかっただけよ」
「...そうだよね」
美香が言ったことが心に響いた。『美香、貴女が私の親友でいてくれて私は幸せよ』と美香に感謝する。
「でもまあ、直樹さんは前途多難だよね!!」
「美香!本当に一言多いんだから!」と、がっかりする美穂だった。