15
今。美穂たちは自分たちのマンションへ移動中。
美香は仲良くなった二人の護衛と、そして美穂はまた直樹さんと同じ車に乗っている。
車に揺られながら「直樹さん。妹さんのことは、美香に話さない方がいいですよね」と一応直樹さんに確認する。
「そうですね、今は伏せておきましょう。美香さんには私が後々話しますので」
「美香ったら、本当に」
「いや、私も驚きました」
「あの、直樹さん、実は...」病院にいた際にあった黒沢医師との会話を直樹さんに説明する。
「ああ、そう言うことか。先生のやりそうなことだ」と、ため息をつく彼。
「ええ、ですから美香も遠慮なしに甘えているみたいですから。ご迷惑ならはっきりと言って下さいね」
「そうします」とうなずく彼。
『あー、だめだ。直樹さん、口ではそう言ってるけど、美香を絶対甘やかすわ!そう簡単に割り切れないのは分かるけど!』
「あの。お聞きしますが、黒沢先生は妹さんのことをご存じでしたの?」
「ええ、あの方には家族ぐるみでお世話になっていたので」
「それで、美香にあんなことを言うなんて」
「いいんですよ、先生も必要と思って言ったことでしょうから」
「直樹さんがお気になさらないんだったら良いのですが...」
「いいんですよ、美穂さん」と言いつつも、美穂には悲しさを隠せない彼だった。
マンションにつきロビーで一応彼と別れ、美穂と美香は一緒に部屋へと戻る。
部屋に入るなり、室内の冷えた空気がヒヤッと彼女たちを涼める。
美香が「はあ、疲れた」と言いながら、ソファに座り込む。
「そうね、美香も大変だったわね」
「うん、でもこれからは美穂と一緒だから安心かな?」
「そうだといいわね。この辺りは直樹さんの護衛さんたちもいるから、その点では安心ね」
「うん、美穂、私ちょっと休むね。まだ疲れているみたい」
「休む前にシャワーでも取ったら?さっぱりするわよ。必要なものは何でも使っていいからね」
「うん、ありがとう。そうするわ」
まだあの事件でストレスがまだ大分溜まっているんだろうなと思いながら、これから美香の日常生活にまつわる危険性をどう回避するか考える美穂。『直樹さんが殆どしてくれそうだけど、一応こちらも出来る事は、しておかないとね』
美香がシャワーを取っている間、美香の部屋に行きベッドに新しいシートと枕カバーを付け、キッチンで冷たい麦茶を用意する。
しばらくして、美香が浴室から出てきた。何とか寝間着は切れたようだが、髪の毛もまだ乾いていない。もう完全に電池切れのようだ。
「美香、こっちにおいで」と言いながらソファに美香を座らす。
「ううーもうダメ、美穂ー」と眠そうな声で訴える。
「うん、知ってるよ。はい、麦茶飲んで、今髪の毛乾かしてあげるからね」
「うん。サンキュー美穂」
美香が麦茶をちょびちょび飲んでいる間に、美穂がドライヤーで美香の髪の毛を乾かす。
「こら、美香。まだ寝ちゃだめよ、ほら、髪が乾いたから、ベッドに行こうね?」両手を美香の肩に置き、美香を部屋の方角へ押していく。やっと彼女をベッドの上に横たわらせると、即眠りにつく美香。軽い毛布を上にかけ、彼女の頭をそっとなでる。
『本当に良かった、彼女に何事もなくて』改めて安堵する美穂。美香が眠りについたのを確かめた後、部屋を出る。
美穂も一息つこうと思い、コーヒーを淹れながら甘いものを探していると、ドアからノックの音が聞こえる。「はーい、どなたですか?」
「あ、神海ですが」と直樹さんの声が聞こえる。
「あら、いらっしゃい、中へどうぞ」と彼を招き入れる「今ちょうどコーヒーを淹れているので、直樹さんもどうでしょう?」
「ああ、それではお願いできますか?」そう言いながら、彼もソファに座る
「はいどうぞ、熱いので気を付けてくださいね」彼の前にコーヒーカップを置く美穂。
「ありがとう、美穂さん。美香さんは?」美香が見当たらないので、落ち着かない様子だ。
「だいぶ疲れていたようで、今ちょっと横になっていますわ」
「ああ、まあそうでしょうね。昨日の今日ですから」
「ええ」
二人とも黙り込み、ただ砂糖を混ぜるためにスプーンがコーヒーカップに当たる音だけが部屋に響く。
「ところで、美香さんのことなんですが月曜日に出勤するつもりなんでしょうか?」
「そうね、明日は日曜日ですので、明日ゆっくり休めば美香も仕事に行きたいといい始めるんじゃないでしょうか?」
「うーん、私に考えがあるんですが、ちょっと聞いてくれますか?」
「ええ、もちろんですわ」
直樹さんが美穂に説明した後、美穂は何とも言えなかった。美香の安全を重視すると、最も無難なプランだった。
「もちろん、美穂さんにも同じ対応をするので」
「え?私はそんな。必要性がないですわ」
「いえ、美香さんも美穂さんも私にとっては大事な人たちなので」
『またそう言う事をすんなりと言っちゃダメでしょう!』
「あの。本当にいいのでしょうか?直樹さんのほうで、人事的にもだいぶ負担がかかるような」
「いや、心配ないですよ。お願いします。ここは私に頼ってください」と言われ、美穂としても、もはや断れない状態。
「ただ美香が今寝ているので、彼女にも話して、もしよければぜひお願いしますわ」
「承知しました」と笑顔で答える直樹さん。「はあ、これでやっと一安心できるかな?」と言いながらコーヒーを飲んでいる。
『本当にいいのかしら、甘えてしまって』と、戸惑いながらも彼に頼ることにした美穂だった。