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私と5階のおじさま  作者: どんぐり山
14/24

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何とか退院手続きをこなし、直樹さんが護衛とともに車を取りに行ったので美穂は美香とともに病院の外で車が廻ってくるのを待っている。今日は土曜日、普通は出勤しているはずだが、一応今日は休むと連絡はしてある。まだ返答はないが。


「ねー、美香、あんまり直樹さんを困らせちゃ、だめよ」と一応くぎを刺しておくが、彼女はケロッとした素振りで、「でも直樹さんも私に甘えてもらえて嬉しい、って言ってたよ?」と首をかしげて美穂に答える。


美穂がため息をつく。何と言って良いかわからない。とにかく美香に先手を打たれ、もうこうなっては直樹さんが美香に妹のことを打ち明けるまで美穂も何も言えない。


『あ―!美香も本当に変な勘が働くんだから。直樹さんもすごいショックだったじゃない』と思いながらも、美香の言った通り彼にとって衝撃的なことだったが、不快な事ではなかったらしい。現にあの時の彼の心境は主に烈しい一驚、それと今までにもうこの世では会えないと思っていた妹に生き写しの美香にお兄ちゃんと呼ばれたうれしさ。


しかし美穂が最も恐れている問題はそこではない。彼も美香が妹ではないことは承知しているが、時がたつにつれて彼が美香と香音を重ねることによって無念さが彼を精神的に追い込み、いつしか彼の心の壁が壊れ、圧縮されている感情が明るみに出た時に彼がそれを受け止められるか?


美穂はその時が怖かった。


なぜ黒沢医師は美香にあんなことを言ったのだろうと思う美穂。意味があるとは思うが、今のところ、彼女には理解できなかった。『今悩んでも、どうしようもないか』と割り切る美穂。


丁度そこへ見慣れた車が二台、美穂たちの前で停車し前の一台から直樹さんが下りてくる。


「うわー、直樹さんいい車ね、でもどうして二台も?」と言いながら、頭を車中に突っ込んでうきうきしている美香。「でも、後ろの席ちょっと狭いねー、足伸ばせない?」


「こら、美香!何を言ってるの?」


「いえ、確かにそうですね」と笑いながら美香をかばう彼。


「直樹さん、車二台で行くの?もしそうだったら、私あの時に助けてもらった護衛さんたちと乗りたい!」


「ハハハ、いいですよ、どうぞ」と前の車を指さす直樹さん。


「ありがとう!それじゃ、直樹さんと美穂はー、後ろの車に乗ってね?だって、後ろ意外と狭いから」


「美香!なんか今日、貴方はわがまま言い放題ね!」


「いいですよ美穂さん。我々も乗りましょう」


「は、はい。あの、美香がいろいろとすみません。それでは失礼しますね」と言いながら、乗り込む美穂。彼がそのあとにつづき後ろの席に座る。


美穂たちの乗っている車が動き出す。「あの、どこへ向かっているのでしょうか?」またとんでもない所へ連れていかれるかと思い、戸惑っている美穂。


「いや、私がいつも言っている中華料理の店へ行こうかと思いまして。小さな店ですが、とても美味いので。それにちょうど今の時間帯だと、飲茶がいいでしょうね」


「あ、美味しそう、私も久しぶりです」と、うっかり喜んでしまう美穂。


「美香さんも言っていましたからね、美穂さんが美食家だと」


「え、もう美香ったら!」と恥じらっていいのか、怒っていいのかわからなくなる彼女。


「いいんですよ、美穂さん。美味いものを食べることは、人生を豊かにしてくれるものですから」


「は、はあ...本当にすみません直樹さん、せめて今日だけは私がお会計を...」


「いえ、それには及びません。あの店は私の行きつけなので。次の時にお願いします」彼は絶対に彼女たちに払わせない様子。


「本当にいつも直樹さんのお世話になってばかりで申し訳ない限りですわ」


「心配無用ですよ、美穂さん。ところで、美香さんのアパートを客観証拠の確保のため警察が現場化学検査班を送り込んだところ、皮膚片が発見されました。現在はPCRサイクル鑑定中です。それに指紋のトレースDNAテストも行われていますので。もしDNAデータバンクに記録されている人物で判定されれば、すぐにでも検挙それか逮捕令状ですね。」


「え?凄いもうそんなに」


「ええ、ですが犯人が捕まるまで、美香さんには用心してもらわないと」


「そうですね、私もどうしていいのか」


「まあ、ちょっと美香さんと話して、もしよければ私に考えがありますが...」


美穂が彼をジトっと見つめる「また、とんでもないことをお考えになって?」


彼が激しく首を左右に振る、「いえいえ!常識的な範囲での考慮ですので」


色々と会話をしているうちに中華料理店に到着。


三人組が車から降りて、店へと入る


「いらっしゃいませー!!」と言いながら、奥から出てくる50歳前後の女性。「あら。神海さん?いらっしゃいませ。それも女性の方二人もつれて?さあさあ、ここにお座りください」と言いながら、にまーっと笑顔になる。


「お久しぶりだね、女将さん。こちらは、美穂さんとこちらが、美香さん。ご近所の方たちで、お世話になっているんだよ。それで、今日は飲茶を適当に頼むよ」


「はいはい、ちょっとお待ちを」と言い奥へ入っていく。しばらくして、お茶とおしぼりを持ってくる。


それからは小皿に乗った料理が出放題。さすがの美穂も12皿目を食べ終えた後「もうダメ、美味しいけど食べれない!美味しいけど!!」と負けを認める。


「いや、美穂、それ食べ過ぎ!」と笑いながら突っ込んでくる美香。


「だってー、美味しいんだもん!しょうがないんだもん!!」


「気に入っていただいて、良かった。私もここが好きでちょくちょく来るんです」


「海老餃子もおいしかったけど、海月がなんであんなにおいしいの??わからない!」美香がいまだに驚いている。


「ほんとうね、わたしも海月には、びっくりした」美穂もコリコリした感触が好きなようだった。


「まあ、また三人で来ましょう」直樹さんも満足そうだ。


「女将さん、お勘定お願いします」と言いながら、彼が支払いを済ませる。


店を出る前に女将さんに「で、どっちが本命なの?」と茶化され、「ど、どっちも本命じゃないですよ!」と直樹さんが焦って否定している声が聞こえる。


美香がくすっと笑い「美穂のせいで直樹さんまたからかわれてるねー」と美穂に振る。


「私のせいじゃないでしょ!」と言い返す美穂。


「あの、ごちそうさまでした直樹さん。ありがとうございます」と、美穂が言うと、美香も「ごちそうさま、直樹さん。美味しかったわ!」と美穂につづき笑顔で彼に感謝を伝える。


また車二台に乗り込み、マンションへと向かうところ、美穂のスマホが鳴る。


「はい、坂無ですが、はい、はいすみません、急な事態がおきまして、はい。これから駆け付けますので」


美穂がスマホを切った後大きなため息を放つ。直樹さんが心配そうに「どうされましたか?」と聞く。


「いえ、土曜日はいつも出勤しているんですが、美香のこともあり今日はちょっと休もうと思って...ですが今、会社まで出て来いと」


「今から?失礼ですが、どこの会社ですか?」


「ジャフリーモーガンですが」


無言で彼がスマホを取り出し、誰かと話始める。


「ああ、私だが、つい先ほど坂無美穂さんに連絡が入って、会社に出勤しろと。ええ、今は私のほうの面倒を見てくれているので、ちょっと今日は勘弁してやってくれないかね?ああ、そうだ。すまないね」


『え?誰と話していたの?』と思った3分後に、彼女のスマホが鳴る。見慣れない番号?と思いながらも受け取ると...


「ああ、坂無くん。こちら藤本だが」


「え?藤本副頭取でしょうか?」


「そうだ、この前の会議に出席していたが」


「はい、存じております。それでご用件は?」


「いや、総頭取から今しがた連絡があってね、今日は休みを取ったと聞いたが、神海直樹様とご一緒なのかね?」


「はい、そうですが」


「そうか、では私から皆には伝えておくから、安心して休日を過ごすように」


「は、はい。ありがとうございます。月曜日には必ず出勤しますので」


「いや、もし神海様が君を必要としているなら、彼に同行していただきたい。詳しいことは話せないが、彼はわが社にとって極めて重大なクライアントになるかもしれん。彼と一緒に行動しているのなら、いくらでもこちらは休んでも構わない」


「わ、わかりました。彼に付き添っていますので、ご心配なく」


「それでは、神海様のことを頼むぞ。それと今夜から毎晩、私に連絡をしてもらえるかな?」


「はい、承知しました」


「それでは、よろしく頼むぞ」と言って、副頭取が会話を切る。


暫く考えを整理した後、直樹さんに「あの、誰に連絡をしたのでしょう?」と恐る恐る聞く美穂。


「いや、あそこの会長や頭取とはいろいろとあってね。美穂さんが私と一緒にいると言ったら、直ぐに手を打ってくれた」


美穂が頭を抱える。また彼女が会社に戻り次第、大変なことになるのが目に見えている。


「あの、ありがたいのですが、また会社に戻ったときにすごいことになると思うわ」と直樹さんに一応伝える。


「あー、そうだったか。いや、すまない!」といいながら、笑い始める彼であった。

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