美人秘書
「そうですね。まだこれから固まっていく事ですから」
記者対応している深志。
それを外から見ている女性二人。
「なんか、深志さん疲れてそうですね」
村井は心配そうに深志を視線を向ける。
「そうだね、そりゃ初当選で大臣になっちゃって、しかも総理のお気に入り、何よりも深志元総理のご子息だもん。話題性抜群でしょ」
「そうですよね……大丈夫かな?」
「そんなに心配なら笑顔で労いの言葉と共に手作りのお弁当あげたら?きっと喜んで、疲れが飛んでくれるわよ」
岡田はにやついた顔で提案する。
「な、何言ってるんですか!岡田さん!」
「えー、だって、村井のその顔、恋する、お、と、め……だったよ」
「なーにが、恋する、お、と、め、ですよ。意味分かりません」
村井が自身に言われた時の岡田の真似をした後、顔を逸らす。
「ごめん、許して、村井……って、あれ、あれ。深志君の隣にいる人、美人さんよ」
岡田は深志の方を指差しては、村井の視線を深志のいる方向に向けるよう促す。
「……び、美人さんですね。とても距離が近いですし」
岡田に促され、深志の方向に視線を向けると一度動きを止めれば、頬をムスッと膨らませる。
「なーに、ヤキモチ?」
岡田が再びにやつく。
「ヤキモチじゃないです。もう許しませんよ。岡田さんでも」
ふん、と再度顔を逸らすと、深志とは逆の方向に歩を進める。
「ごめん、もうからかわないから許してって。それにあの人、唯の秘書さんぽいわよ」
岡田は慌てて、村井の後を追う。
「なんかさっきの記者対応してる時の後ろ、やけに賑やかだったわね。あの女性二人」
深澤は深志にお茶を出す。
「嗚呼……多分、岡田さんと村井さんかな」
深志はお茶を口に運びながら答える。
「あの二人と知り合いなの?」
「うん、まあね。波田さんからの紹介で」
「そ。仲良くなるのは良いけど、彼女達もライターなんだからまずい情報は流さないようにね」
「分かってるよ、そこは気をつけてる」
「それなら宜しい……そんなくだらない事で、貴方の議員人生終えて欲しくないもの」
「そう言ってくれるのは嬉しいね、素直に」
「どーも致しまして……ところで、明日の予定、一件あったじゃない?」
深澤は思い出したかのように話題を変える。
「うん、確か山本議員との会談だっけか?」
「そうそう。先程、山本議員の秘書さんから連絡あって、明日会談出来なくなったんだって」
「あ、そうなの?じゃあ、明日は何もないのか……だったら現地の下見に行くか」
深志は手元にあった奥多摩、峰集落に纏わる本を開く。
「あ、なら少し奥多摩を観光しない?ちょうど明後日も元々お休みだったし。日原鍾乳洞とか奥多摩湖とか小澤酒造とか」
深澤は両手を前に持って来ると併せて、各場所を頭の中に浮かばせる。
「それも良いかもな」
深志は深澤の提案を首を縦に振って、微笑みながら受諾した。