父の現在
「波田さん、あの二人は何故、条件を飲み込んでまで、私に会いに来たのでしょうか?」
女性二人と別れた後、男性二人は個室のある居酒屋にハシゴしていた。
深志はグラスを片手に波田の見解を訊ねる。
波田が出した条件はゴシップを主にネタに生きる記者にとって痛手の筈だ。儲けられる話の可能性を一つ失くしてしまった。首相経験のある親を持ち、若くして政界入り、そして初当選の初入閣の人物がスキャンダルなら大きなネタになる。
「そうだね、僕も不思議だった。聞いてる感じ、落とし入れるネタを掴む、というよりただの興味本位な気がするよ」
波田はエイヒレの炙りを口に運びながら感想を述べる。
「確かに私も話してて、そんな感じがありました。ただそう感じると共に、私達がここまで徹底している事に関して違和感を感じている事は間違いないでしょう」
「僕もそう思う。と言うより、そりゃ誰でも違和感、何かあるとは思うだろうね」
波田は頷く。
「父の事は絶対に知られてはいけない。でなければ、私が議員になった意味がないんです。私が父の成し遂げられなかった事を成し遂げるんです」
深志は歯を食いしばり乍右手で固く拳を作る。
「そうだね。今後の知られる可能性を全て消して行こう」
波田は再び頷いた所で、話を変える。
「そういえば、公康はどうなんだい?」
「父は今、闘病中って事になっていますからね。家に籠って、本や映画にアニメ、ゲームを満喫してますよ」
苦笑しながら波田の問いに答える。
「あらら、前半想像通りだけど、後半は学生に戻っちゃったのかな」
波田は笑いながら、これは面白いと複数回手を叩く。
「まあ、思ったより楽しそうで良かったですよ」
深志の笑みを浮かべ、酒を楽しんだ。