ご執心?
「んー……何を企んでるの。深志君に会いたいなんて」
波田は珈琲を口に運び、飲み込んだ後に村井と岡田の二人に突き刺さるかのように真っ直ぐと視線を送る。
「企むなんて、人聞きが悪いですよ。波田さん。私達はただ興味を持っただけです。あの若さで壮大な事をしている彼に」
波田の視線に負けじと、岡田も鋭い視線を波田に送る。
「そうか……一応、本人に聞いてみるよ。ただ紹介する条件が二つある」
波田は彼女らに2を表そうと指を二本立てる。
「条件を提示なさるなんて、余っ程、彼にご執心のようですね」
岡田は溜息をつく。
「悪いね、親友の倅だ。そりゃ、用心深くなる。親友の倅ではなくとも、プロの記者だよ?好敵手にそんな塩をそう簡単に送らないよ」
波田は手を左右に軽く振る。
「そうですね……とはいえ、あの名記者である波田さんに好敵手と仰って頂けて光栄です。」
岡田はありがとうございます、と頭を下げる。
「いやあ、僕は大したことない。そこら辺にポンコツおっさんライターだよ」
頭を上げて、と苦笑浮かべる波田。
「そんなことはありませんよ」
岡田は顔を上げて、やんわりと笑みを浮かべ彼の発言を否定する。
「とは言えだ、お世辞言われても僕は条件を飲まない限り、紹介は出来ないからね」
波田は再び視線が鋭くなる。
「お世辞ではありません。本音を言ったまでです。波田さん、私は円滑に話せるよう貴方にお願いしましたが、条件を飲まずとも、待ち伏せ、という方法があります」
岡田も視線を返す。
「記者らしいね。とはいえ、深志君は手強いぞ。気配をすぐ察して、通報するからね。彼は本当に父親に似ている」
一度、はは、と笑い、目を細める。
「それは大変ですね。前総理は危機管理を徹底されていましたからその血が継がれたのでしょうか?」
岡田もふふ、と笑い返す。
「それで、どうするの?」
波田は結論を促す。
「分かりました。まずその条件、というものを教えて頂けますか?」
岡田は首を縦に振り、答える。
「一つ目に、彼が会う意思がなければ、此処は引いてくれ。二つ目、今後、彼を陥れる事はしないでくれ」
波田は真剣な眼差しで、条件を提示する。
「分かりました。その条件を受け入れます」
岡田はこくりと頷く。
波田はその場で深志にアポイントを取り、後日は彼女らと共に深志と会うことになった。
「ふはーっ!なんですか、あれ、本当に波田さんですか?あんなの今までの波田さんとは思えませんよ」
帰り道に村井は岡田に話し掛ける。
「そうね、私も意外だったな。すんなり教えて貰えると思っていたけれど、あれほど、彼にご執心とは」
岡田は頷き、苦笑を浮かべる。
「本当ですよー。最愛の奥さんかって突っ込みたくなりましたもん。横で聞いていて」
むすっと村井は頬を膨らませる。
「まあ、良いじゃない。紹介して貰えるんだし」
岡田は村井の頭を撫で、宥める。
「ああ、岡田さんのなでなで最高……」
村井はにんまりと満面な笑みを浮かべる。
「じゃあ……もっとやってあげる」
岡田は子犬を撫でるように、先程より荒く撫でた。