初入閣
「やあ、久々じゃないか。深志君。当選おめでとう」
白髪がちらほらと見える60代そこそこの男性が声をかけてきた。
「今井総理、ご無沙汰しております。ありがとうございます。これも今井総理の力添えがあってこそです」
深志は今井に頭を下げる。
「いやいや、当選は君の力の結果だよ。それより頭をあげてよ。頭を下がるのはこちらの方だからね」
深志がえ、と何のことなのだろうかと思考を巡らせると今井は数秒置き、再び口を動かす。
「君に新しく創設しようと思ってるポストに就いて貰おうと思ってね。」
「ポスト……ですか?」
「嗚呼。深志君、今の時代は経済より福祉に力を入れないといけない力だと思うんだよね」
「福祉……福祉とは言えど、幅広い分野あると思いますが、どう言った分野で?」
「君はそんな小さな人間じゃないだろう?君の大学時代の卒論に書かれてたじゃないか?総合福祉計画」
今井はにやりと笑い、問いかける。
「よくご存知で、まさか今井総理に知って頂けているとは光栄です。」
「いやいや、ここの世界で知らない人は居ないと思うけどね。君のお父さんが皆に俺の息子は凄いだろうって自慢してたからね」
「父がそんなこと……大変お恥ずかしい限りでございます」
やれやれと溜息をついて。
「さて、本題に戻すけど。君にこの総合福祉計画を担当して貰う。深志真琴殿、今井国基より総合福祉計画担当大臣の任に就くことを命じる」
今井は穏やかな雰囲気から真面目な表情になり、語気を強めて告げた。
「この深志真琴、誠心誠意、全う致します」
深志は再び頭を下げた。
「総理、新人をいきなり大臣に任せて大丈夫なんですか?荷が重すぎやしませんか?それに周りもいい思いはしないでしょう」
中年太りの眼鏡をかけた男性が今井が深志に任に就かせることを必死に止める。
「寿さん、大丈夫ですよ。彼なら。それにこのポストを実行できるのは彼しかいないでしょう。何故なら発案者は彼なのですから」
「しかし、周りの人が……」
「周りの人がなんと言おうと私はこればかりは譲れません。福祉の活性化は必須事項、経済が安定しつつある今、最優先事項は福祉なんですよ。彼しかいないんです。他の方々はここまでしっかり計算された計画を作れますか?」
今井は手元にある書類を寿に手渡し、それ以上口を動かすなとばかり目で訴える。
「これを……あの深志真琴が……?」
寿は手渡された書類に目を通すと言葉を失う。
「はい、彼がこれを書いたんですよ。しかもまだ社会人にもなっていない大学生の時点でね」
「恐ろしい程の……天才……」
「寿官房長官、ご納得頂けましたか?」
「寿官房長官、深志議員の入閣は事実なんでしょうか?総理からなんと告げられたのでしょうか?」
寿が出口に向かおうとすると岡田が問いかけた。
寿は立ち止まり、答える。
「深志議員が、また誰が入閣かどうかは総理自身がお伝え致しますので私からコメント差し控えさせて頂きます」
「では、寿官房長官は深志議員の入閣についてどうお考えなのでしょうか?」
「私個人の意見どうのこうのは関係はございません。私は総理の人選を信じるのみでございます。」
寿はそう返すと少し間をあけ、続ける。
「ですが、初当選とは言え?深志議員の実力、ポテンシャルは間違いございません。入閣をすれば、必ず国民の為に尽力して頂ける方だと思います」
寿は失礼しますと一言告げて、外に出る。