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05 そこに、ガチャガチャがあるからだ

 馨はゲームが好きだ。


 馨と結婚するまでゲームとは無縁に生きてきた梨帆は、正直言ってゲームのことはほとんどわからない。


 ただ、毎日のようにYouTudeでゲームのまとめ情報を見たり、毎週決まった曜日にゲーム雑誌を買ってくる馨のことは、好きだった。


 馨と一緒になるまで、梨帆はゲームが何処に売られているのかも知らなかった。

 大きな家電量販店へ行った際に、ちらりと目にする程度。ゲームソフトばかりを売っているお店という存在自体、彼に連れて行かれて初めて知った。


 新作ソフトをチェックする馨の眼差しは真剣そのものだ。すでに来慣れてしまっているゲーム屋だが、特にお目当てもない梨帆は、中古ソフトの売り場をうろうろして、絵が綺麗なパッケージを探す。


 店内には男性が多く、その多くが梨帆を見るとぎょっとして、居心地悪そうに視線を下げる。特に学生はあからさまで、梨帆が棚の前に立っていると、目的を変えて違う方へ移動する。


 明らかに、ゲームソフトを物色しに来た客の邪魔になっていることに気付き、梨帆は場所を移動した。どこへ移動したって腫れ物のように扱われてしまうので、馨の近くにいることにした。


 馨は棚の前でソフトを手に取り、うーん、と悩ましげな表情を浮かべていた。ススス、と近づき、二の腕に頬を寄せてゲームソフトを覗き込む。馨の好きなシリーズのイラストが描かれていた。


「それ買うの?」

「うーん。悩んでる。二十六日にやりたい新作出るから、それまでの繋ぎにしようと思ってるんだけど……」

「したらいいやん」

「これやったの高校の時だから、まだ結構ストーリー覚えてるんだよねえ」


 と言いつつ、馨は手に取っていたソフトを買うことにしたらしい。いくつかソフトを見繕った馨は、梨帆にも「なにかいる?」と尋ねる。


「ゲームはいらない」

「じゃあ何が欲しい?」

「なんだと思う?」

「んー暑いし、ジュースかな?」


 ジュースの提案は中々よかっただったので、レジを終えた馨と共に、店外の自動販売機の前に立った。持ったままだった財布から馨が千円札を取り出し、投入口に差し込む。

 ジジジジジ……と蝉が鳴いていることで更に暑くなってしまったので、元々選ぼうとしていた甘いジュースではなく、塩分が入った水分補給用のジュースを買った。


「こっちじゃなくていいの?」

「馨くんが飲みたいなら、一口飲むの手伝ってあげてもいいけどね」


 梨帆の言い分を笑うと、馨は梨帆がいつも飲むジュースを買い、プルトップをあけた。


「好きなだけ飲んでいいよ」

「やったー」


 缶ジュースを受け取った梨帆は、先に選んでいたペットボトルを渡す。馨は何も言わずにペットボトルの蓋をあけると、もう一度しめて梨帆のバッグに突っ込んだ。


「梨帆さん、ちょっとこっち」


 出て来たばかりの店内にまた戻ろうとする馨に首を傾げつつ、梨帆は馨についていく。店の自動ドアをまたいですぐの場所で、馨はしゃがんだ。


「……私、ジュースに誘導されたね?」

「そんなことないよ」


 馨がしゃがんだのは、ガチャガチャの前だった。数え切れないほどにずらりと並べられたガチャガチャは、最近は大人向けの質のいい品が豊富らしい。これもまた、梨帆には興味がない文化だった。


「小銭作りたかったんでしょ」

「まさか。梨帆さんに喜んで欲しかっただけだよ」


 小銭入れを持ち歩かない馨は、先ほど自販機で崩したばかりの百円玉を入れて、ぐるぐると回した。梨帆が好きなサソリオキャラクターのカプセルトイのガチャガチャだ。全部で六種類あるらしい。


 回せればなんでもよかったらしい。特別興味もないくせに、回したくなるのがガチャガチャという魔物だと、馨に聞いたことがある。


 出て来たカプセルを開く。

 梨帆の好きなキャラクターに違いはないが、パッケージには写っていないタイプのデザインだった。


「本当は七種類入ってたの?」

「シークレットだねぇ」

「当たりってこと?」

「うん」


 はい、あげる。とカプセルトイを渡される。

 梨帆は鼻の上に皺を寄せた。


「悔しい……」

「え? 当たったから?」

「ときめいたから……」

「なにそれ。俺まで当たっちゃったじゃん」


 早く車戻ろう、と汗をかいた馨が笑って言う。暑がりの馨は一刻も早くクーラーの効いた場所へ行きたいのだろう。


 カサカサとビニール袋に入ったソフトが揺れて音を立てる。足早に二人で戻った車は、当然の如く、サウナのように暑かった。







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