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01 夏はもつ鍋。ちゃんぽん麺はさらなり。

「うちに帰ると妻が必ず、恋ダンスを練習している」


 月見里やまなし 梨帆りほ――旧姓、たに 梨帆は、後ろを振り返った。玄関から繋がるリビングのドアを、夫である月見里 かをるが開けている。

 仕事から帰宅したばかりの夫を見て、Tシャツに高校時代のハーフパンツというかなりマジよりのマジな格好をしていた梨帆は、首からぶら下げていたタオルで口元を覆う。


「そういう時は、見てない振りをするのが紳士ってもんよ」

「この間はポッキーダンスだったね」

 馨が腕をまくる。まだ手を洗っていなかったのだろう。陽気な音に釣られてリビングにやってくるとは、20代半ばも過ぎたというのに、中々可愛いところのある夫である。


「ガッキー可愛いから……ガッキーが可愛いのがいけない……」

 テレビで流していた動画を停止すると、梨帆は馨について行った。特に何をするわけでもないので、手を洗っている馨の背中に背で乗る。重そうな空気も出さずに、馨は手を洗い続ける。

 最近変えたばかりのハンドソープの香りが、梨帆はお気に入りだ。


「おかえりなさい」

「ただいま」


「ちなみに、帰ってきてたのはちゃんとわかっていました」

「そうだね」


「これはほんとです。女に二言はない」

「そうなんだ」


「でもさ、旦那さんが帰ってきてすぐにテレビ消したらさ『あ、こいつ今、ちょっとムフフなの見てたんだな』って思われるかなって思うじゃん?? だからつけてたの。しょうがないじゃん??」

「踊りまで続けてなきゃいけなかった?」

「車と私は急に止まれないからね……」

 そっか、と言いながら馨がリビングに戻るので、梨帆もついていく。


「まあ梨帆さん基本的に運動不足だし、いいと思うよ。ダンス」

「蒸し返しますなあ」

「蟹歩きステップも可愛かったし」

「下手って素直に言ってくださってけっこうですけど!」

 梨帆は冷蔵庫から鍋を取り出す。既に用意していた鍋を火にかけながら、冷蔵庫から麺のパックを二つ取りだし、馨を睨んだ。


「本日はもつ鍋です」

「はい。ちゃんぽん麺がいいです」

 うどん麺とちゃんぽん麺を持っていた梨帆に、すかさず馨が手を挙げる。


「では、わかりますね」

「とても可愛いガッキー梨帆ちゃんでした」

「私なんぞがガッキーに追い付くわけないでしょ!!」

「ガッキー可愛い! 梨帆も可愛い!」

「よし」

 梨帆はうどん玉を冷蔵庫に戻す。

 馨は嬉しそうにテーブルにつき、スマホをいじる。


「今日はなんかいた?」

「目新しいのはいなかったよ」

「ふーん」

 スマホを取り出し、最近馨がはまっているゲームアプリ、ニコモンGOの画面を覗き込む。梨帆はやっていないが、歩けば歩くほど恩恵が受けられるというゲームだ。

 田舎のため、家の周りに出現するモンスターは多くない。それでも偶に出てくるモンスターをタップしては、必死に捕まえるという行為を、梨帆がもつ鍋を温め直す間、馨はせっせこ行っていた。


 夕食を食べ始めても、スマホは横に置いたままだ。梨帆は別にそれを不満に思ったことはない。梨帆自身も見たい動画を見ながらご飯を食べたり、食べたいときに食べたい場所で、テーブル以外で食べる時もある。


 〆のちゃんぽん麺は、先に茹でる派だ。もつ鍋から少しスープを取り、別の小さなフライパンで麺を茹でて鍋に加えると、鍋のスープがどろどろにならない。


「あ、それ新しいモンスターじゃないの?」

「残念。これはもういる」

「そっかー」

 麺を啜りながら、二人で小さなスマホ画面を覗き込む。画面が大きなタブレットもあるのだが、持ち歩きに不便なことは言うまでも無い。


「明日の土曜日、ニコモン捕まえに行こっかー」

「別にそこまでせんでもいいよ」

「おっ、馨氏は既にデートプランを用意していると、そういうことですね……? ヤッタァ!」


 馨はズズズと麺を啜る。

 そして小さく頭を下げて「ニコモン捕まえについてきてください」と言った。




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