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第二十七話 召喚の宝具(前編)

 砦の最上階にある見張り台に、キルアとユウタはいた。朝日に照らされた王都と、王都の前に布陣するゴブリン軍が見えた。ゴブリン軍の陣地からは、朝食の支度をする煮炊きの煙が上がっている。


 ユウタが目を開いて、両陣営を観察した結果を述べる。

「今日は煮炊きの煙が多いな。昼を越えるような、大きな戦闘があるかもしれない」

「どちらも、お盛んなことで。もっとも、この燃えるような光景を造った原因はお姫様だ。全ては、お姫様がこの砦を落とした事態に、起因するんだからな。全く持って、場を動かすのがお上手だ」


 ブッシュの砦の陥落後、ゴブリン軍は積極的に王都攻略に動いていた。

 王都カールザルツには二つの城壁があり。一つは街全体を囲う大きな第一城壁である。

 第一城壁はすでにゴブリン軍によって越えられ、門が開けられていた。


 街の北側には城を囲む第二城壁があり周辺には堀が巡らされている。第二城壁の高さは二十mと、第一城壁より十mは高い。第二城壁には門が三つある。ゴブリン軍は隊を二つに分けて南門と西門を攻めていた。


 伝令がキルアとユウタを見つけて、声を掛ける。

「キルア様、ユウタ様。シャーロッテ姫様が朝食にお呼びです」

「朝食にはちと早いが、ご馳走になりに行きますか。たまには朝日を浴びながら食事ってのもいいだろう」


 キルアとユウタは元会議室だったと思われる部屋に案内される。部屋は縦十m、横十mで、テーブルと椅子だけがある、殺風景な部屋だった。

テーブルの上にはパン、スープ、ハム、それに、干した無花果(いちじく)とバナナ・チップが用意されていた。


 シャーロッテが明るい顔で挨拶する。

「おはよう、キルア、ユウタ。大したものがないけど食べていって」


 キルアとユウタが席に着くと朝食会が始まる。

「場所が場所だけに、シーフードを喰いたいなんて贅沢は言いませんよ。それで、何か依頼したい仕事があるんだろう? 宿代も飯代も要求しなかったんだ。接待は今日のためだろう?」


 シャーロッテが明るい顔で説明する。

「察してくれると助かるわ。私が出している攻城部隊の話では、今日中に城は落ちるわ。そこで、キルアの幽霊船を空から飛ばし、一気に百名の精鋭と共に城内に雪崩込(なだれこ)んで、人間の国宝を奪いたいのよ」


「国宝のある場所は、わかっているのか? 城っていっても広いぜ。あんな馬鹿でかい建物中を目的地もわからず、歩けば十mごとに敵に遭遇して気が滅入る」

 ユウタが素っ気ない態度で答える。

「宝物庫の場所はわかっている。突入経路も計算済みだ。幽霊船なら一気に宝物庫の近くまで行ける。僕の計算に間違いない」


「つまり、俺がミスらなきゃ、夜にはここで祝勝会か? なら、問題ない。もっとも、宝物庫に先にゴブリン軍に入られたら、面倒だがな」

 シャーロッテが厳しい顔で告げる。

「そうなのよね。こればかりは、運が絡むのよ。ゴブリン軍に味方している手前、先に相手に奪われたら、回収に一手間を要するわ」


「それは、追い風が吹く展開を祈るしかないな」

 朝食を終えると、シャーロッテは二百名の精鋭を引き連れて、ブッシュの砦を出た。

 シャーロッテは城の東側にある、高さ十五mの屋根を持つ大聖堂に布陣する。


 飛べる悪魔百名を引き連れて、大聖堂の上空に待機していた。遠見の魔法に()けた斥候役の小柄な悪魔がシャーロッテに告げる。

「姫、西門のゴブリン軍の動きが慌ただしいですぜ。ゴブリン軍の登攀兵が次々と門を乗り越えています。直に西門は落ちます」


 シャーロッテが太陽の高さを確認し、険しい顔で告げる。

「今が午後二時だから。思ったより掛かったわね。西門から場内ゴブリン軍の兵士が流れ込めば、正面の南門も時間の問題ね。今日中にカールザルツは陥落ね。ここまでは問題なし、と」

「仰せの通りです」と大柄な副司令官の悪魔が畏まる。


 シャーロッテがキルアに指示を出す。

「キルア、幽霊船を出して。幽霊船で、目当ての宝物庫に突っ込むわ」

「了解、お姫様、それでは百名様ご案内。トレジャー・ハント・ツアーに向けて出発です」


 キルアは『幽霊化』のギフトを使い、まず体を幽霊状態にする。

「サモン。シップ」と魔法と唱えると、幽霊状態になった船が空中に出現する。

 キルアが百名の悪魔を乗客と認識する。『幽霊客船』のギフトが発動して、百名の悪魔も幽霊状態になる。


 幽霊状態になった百名の悪魔が次々と船に乗り込んだ。悪魔を乗せた幽霊船はキルアの『追い風』のギフトを受けて、前に進み出す。

(昼の幽霊船って、さまにならない。でも、安全に近づくのなら、これが一番だ)


 昼の陽に照らされた幽霊船が、すいすいと空を飛んで行く。

 東門に近づくと、魔道砲、魔法、矢が飛んで来る。だが、幽霊船は全ての攻撃を通り抜ける。

 そのまま、幽霊船は城の壁を突き抜けながら飛んで行く。数分で幽霊船がなにかにぶつかるように停まった。


 ユウタが澄ました顔で告げる。

特殊障壁(しょうへき)の壁にぶつかった。計算通りだ。この壁の向こうに宝物庫に続く通路がある。幽霊船を解除してくれ。俺の哲学的爆弾で壁を吹き飛ばす」

「幽霊船を解除するのはいい。でも、ここで解除すれば船は壊れる。俺はいい。だが、他の奴は、ここからは幽霊状態なしだ。危険になるぜ」


 シャーロッテが厳しい顔で告げる。

「ここで立ち往生して帰れなくなるような弱い悪魔は連れてきていません。だから、問題ないわ。キルア、幽霊船を解除して。ユウタは壁を爆破して」

(おお怖、これは本気だね。本当に、人間の持つお国宝が欲しいんだね。でも、そんなにいいものなのかね? 俺にはヴィンテージ・ワインとチーズのほうがいいね)


「わかりましたよ。お姫様。さっさとお宝を手にして、祝勝会に行きましょう。そんでもって、今日は御馳走だ」

 キルアは『幽霊化』のギフトを解除する。船は城に突き刺さる障害物として残った。ユウタが壁に爆弾をセットする。


 悪魔たちは船の中に入って衝撃から身を守る。バン! の音がする。

 船から出て辺りを確認すると、通路に穴が空いていた。



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