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第二十五話 お姫様は狩がしたいようです

 ゴブリン軍が消えて街の物流は改善された。おかげで、品物が増えて街の料理屋でも注文が受けられなかった料理が復活した。

 キルアはのんびりとした時間を過ごす。そろそろ退屈を覚えた頃に、機嫌の良い顔したシャーロッテがやってくる。

「こんにちは、キルア。暇でしょう。ちょっと遊びに行かない?」


(たまにはシャーロッテの相手もするのもいいだろう。わんこの頭を撫でるように、気晴らしにはちょうどいい。こっちは、ちょっと猛獣ぽいけどな)

「こっちも、暇にしていたところですよ、お姫様。どこに行きます? 再開したダンスホール? それとも、お芝居の見学? 違法賭博場? 闘鶏なんてのは、趣味に合わないでしょう」


「やだ、何を言っているのよ。そんな、子供じみた遊びは卒業しました。遊びといえば、目下、私の流行は狩りなのよ。壮大なフィールドで行う狩。まさに、豪華な遊びよ」


 嫌な予感がしたので、確認する。

(というと、対象は人間か。せっかく平和になったのに、ぶち壊すのは勘弁を願いたいぜ)

「ひょっとして、人間狩りですか? 人間を野に放して弓で射る。動きが鈍くて頭の悪い人間なんて、狩っても面白くないと思うぜ。狩るなら、もっと強くて頭のいい獲物が面白い」


 シャーロッテは表情を曇らせて意見する。

「そんじょそこらの人間を狩っても楽しくないわよ。狩るなら、山賊とか海賊とか兵士とかを束にして狩るのよ。武器を持った人間の集団のほうが、断然に楽しいわ。特に敗戦が決まってバラバラになるところを狙うのが楽しいのよ」

(一人や二人の血では満足できないのか、でも、ここいらに山賊なんて、いたか?)


「そうでございましたね。ある意味、素晴らしい発想です。でも、ここら辺の人間は友好的に接すると決めたんだろう? そんな中で、人間狩りなんてして、大丈夫なのか?」


 シャーロッテは胸を張って答える。

「だから、本陣を狩りに適した場所であるカールザルツ近郊に移動します。戦争中の場所なら、何人の人間が消えようが、死のうが、あまり関係ないでしょう。むしろ、死んでも、自然死同然よ」


「カールザルツは人間とゴブリン軍がぶつかる一番ホットな場所だ。悪魔王様は人間に味方しないって決めたのか? 決めてなかったら問題だぜ。人間は怒らせてもいいが、悪魔王様を怒らせたら、まずいだろう」


 シャーロッテは、さばさばした態度で語る。

「お父様は勝手にやれとしか思っていないわよ。書状を出して確認したけど、好きなようにやりなさいと、だけ返事があったわ。いいでしょう。理解のある父親で」

(好きなようには、本当に好きなようにか、疑わしいぜ。偉い悪魔でも後から平然と、事情が変わったとか、言い出すからな。事後の修正方向は碌な事態にならない)


「結論が定まっていない状況はいただけないね。まさに両軍がぶつからんとしているところに、ゴブリン軍の味方をすると決めずに陣を張る。ここで、悪魔王様が掌を返せば、両方から攻撃を受けるぜ」


 シャーロッテは瞳をきらきらさせて、せがんだ。

「だから、そこで私たちが人間を攻撃して、ゴブリン軍に使者を送れば、攻城側に入れるわ。どうせやるなら、守りの戦いより、攻めの戦いがしたいわ」

(お姫様の部隊は、二千くらいだったな。敵兵力の一割に満たない部隊で戦場に駆け回って、膠着(こうちゃく)状態の戦況を動かすつもりか)


「お姫様の要望は狩りではなく、人間やゴブリンの間では戦争と呼ばれる、別物ですな。で、その戦争でお姫様はどれくらい人間を狩るつもりですか、何千? 何万? それとも絶滅するまで?」


シャーロッテはそこで思わせぶりな顔をする。

「実は人間の王都には凄く欲しい宝があるのよ。狩りは狩りでも、これはトレジャー・ハントになるのかしら?」

(金銀財宝、香料、香辛料、世界にある、おおよそ物が手に入る環境にいるお姫様が欲しがる物があるなんて、珍しいな)

 

 キルアはシャーロッテの言葉に興味を持った。

「人間の首以外で欲しがる物があるなんて、珍しいな。何を狙っているんだ。美術品? 宝飾品? それとも、人間の国王の首? 国王の首は剥製にして柱から吊すのか。そうして、お休みの度に挨拶する、とか?」


 シャーロッテが、にこにこしながら尋ねる。

召喚(しょうかん)の宝具って知っている?」


 聞いた覚えはあった。メジャーなお宝だった。

「あの、人間を別の世界から呼び出すって魔道具だろう。人間の国王が持っているって話だ。だけど、俺は嘘くさい与太話だと思うね。人間って生き物は、すぐに自分の行動に箔を付けたがる」


「そうかしら? 私は浪漫があっていいと思うけど。それに、人間の持つ国宝なんて、こんな時じゃないと、手に入らないわ。だから、一つくらい欲しいと思ったわけよ」

(シャーロッテが欲しがる魔道具か。俺には関係ないか。人間なんて船と違って呼び出せても、面白くも何ともない)


「俺はそんなわけのわからない宝より金銀財宝だな。そんでもってレベル・アップだ」

 シャーロッテは大きく構えて、堂々と発言した。

「もちろん、私が目当ての物を手に入れたらお礼はするわよ」


「わかった。ユウタと相談して返事をするよ」

「色よい返事を期待しているわ」

 シャーロッテは気分よく帰って行った。


 ユウタを待つと、足取りも軽く帰ってきた。

「お帰り、ユウタ。どうした? 何か機嫌よさそうだな。道端で人にお前は馬鹿だって説教する哲学者にでも遭遇したか?」


 ユウタが気の良い顔で答える。

「そんな、哲学者がいるなら会ってみたいものだな。上手くいけば、何を知り、何を知らないかが、わかる。そうすれば、哲学的素養も高まるってものだよ。だが、機嫌の良い理由は違う。レアな魔法が安く買えた。使い時は限られるが、威力は充分だ」


「あまり強すぎる魔法は、考えものだと思うけどね。哲学に武力って、必要なのか?」

 ユウタが知的な顔で説く。

「武器は必要になってから慌てて揃えてはいけない。(あらかじ)め持っておけって、兵法家の格言もあるだろう。兵法も哲学に通じる学問だ」


「兵法の講義はまたでいい。次の目的地だが。カールザルツなんて、どうだ? 今、一番のお熱い場所。お姫様に誘われた。よく働ければ恩賞も出る、とよ」

 ユウタは考える仕草をしてから答を出す。

「儲けるには悪くない選択肢だな。カールザルツ攻城戦は膠着状態だ。だが、いずれ戦況は動く。勝敗が決してから動いていたら、儲けも少ない」


「そこで、お姫様からの提案だ。戦況を動かしてゴブリン軍にカールザルツを落とさせる。そんで、国王の秘蔵のお宝を頂くそうだ。やるか?」


 ユウタは協力的だった。

「いいだろう。どっちが勝つかわからないと思っている今だからこそ、儲かりもする。人間の王都を陥落に協力する」

「決まりだな。次の目的地は、カールザルツだな」


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