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第二十四話 陰謀成功

 キルアは宿に戻って、ユウタを呼ぶ。

「一つ、頼まれてほしい。ユウタの地中移動の魔法でこっそりアーブンの家に行ってくれ。地中のユウタを尾行するのは、モグラでも無理だからな」


 ユウタは、さばさばした態度で答える。

「俺に密使をやれ、と? それで、運ぶのは何だ? 物か、それとも情報か。できればもっと知的なものを運びたいな」


「アーブンに伝言を頼む。明日、エルマが訪ねてくる。そん時に覚悟をきちんと聞かせてやってくれ。なお、大物ぶった態度や、不安気な態度は禁物だと釘を刺してくれ。尊大ぶった料理人と政治家には期待できない」


 ユウタは柔らかな表情で意見した。

「それだけで、いいのか? もっと詳細な指示を出したほうが良いぞ」

「なら、ユウタが会談のリハーサルに付き合ってくれ」


「それぐらいでなら構わないが、キルアはどうする?」

「俺はマークされているみたいだから、監視者の眼を惹きつけておく。尾行者は誰かわからないが、無駄足を踏ませてやったほうが親切だろう」


「わかった。なら、キルアの提案の通りにしよう」

 キルアはユウタとの話を済ませる。キルアはその日は夜遅くまで開いている店を探して飲み歩いた。


 明け方、ほろ酔い気分で帰ってきてぐっすり昼まで眠る。夕方前に起きて顔を洗う。

 そのまま、市長舎の前で待っていると、ユウタに護衛されたエルマがやってきた。


 ユウタはエルマと市長舎の入口で別れると、一人で市長舎に入っていった。

 キルアはユウタに声を掛ける。

「で、どうだったの首尾のほうは? エルマは市長舎に隣の家のドブが臭いと陳情に来たわけじゃないだろう」


 ユウタは、機嫌よく語る。

「エルマには三歩先ぐらいかもしれないが、先を見る聡明さがあった。エルマはアーブンと話し合って、立候補を取り下げると決めた」


「アーブン、中々の役者だな。もっとも、これぐらいの芸当がなければ政治家なんて、できないのかもしれんけどな」


 ユウタは晴れやかな顔で語る。

「俺もエルマとアーブンの話を床下で聞いた。だが、アーブンの態度は堂に入っていた。もしかすると、アーブンには政治家の素質があるのかもしれない」


「俺としては、どっちでもいい。ただ、街を守った報酬は欲しいね。タダで飯を食わせる料理人はいない。タダで働く悪魔も、いない」

「それに関しては問題ない。俺がアーブンとジャジャに内々に上手く行ったら報酬を貰う話をしておいた」


「抜け目ないね、哲学者さんは。本当に、そんなマメなところは頭が下がるよ。金の勘定ができる哲学者は良い哲学者だとは、よく言ったものだ」


 ユウタは考え込む顔をする。

「聞いた覚えのない格言だな」

(それは、そうだ。俺が今ここで作った言葉だ)


 市長舎の上にある鐘が鳴った。

 ユウタが鐘を見上げて、穏やかな顔で告げる。

「立候補者の届け出を締め切る鐘が鳴ったな。エルマの手続きが済んでいればこれで市長は決定だ」


 鐘の音が終わると、市長舎からエルマが穏やかな顔をしてでてきた。

「キルアさん。私は立候補を取り下げてきました」

「なら、これで、アーブンの市長就任が決まりですか」


 エルマが柔和な顔で語る。

「他に届け出を出した人はいませんでした。明日の公示で結果が確定します」

「そうか。なら、街は守られたな」

「ありがとうございました」とエルマは頭を下げる。


 ユウタは、そのままエルマを護衛して、家に送っていった。

 翌日、市長舎に出向くと、市の掲示板の前には、人だかりができていた。


 立候補者はアーブン一人だけのため、アーブンの市長就任が決まった。

 アーブンにお祝いでも、と家に出向く。

 市長就任を祝福する大勢の客がいて、会えるような状態ではなかった。お客は人間が半分と、その他の種族が半分だった。


(何だ、アーブン、人間にもそこそこ人気があるな。これなら市の運営も一年や二年で行き詰る結果にはならないだろう)


 夕方になると、一枚のビラを持ったユウタが機嫌の良い顔で帰ってきた。

 ユウタの渡したビラを見ると、アーブンの市長就任が書いてあった。また、アーブンがジャジャの家臣になったと、はっきりと書いてあった。


「堂々と書いてあるけど、市長ってゴブリン王の家臣って兼任ってできるの? もっとひっそり、密約的に子分になるのかと思ったよ」


 ユウタが冴えた顔で、滔々と語る。

「ノーズルデスは貿易で栄えた街だ。商会の頭首や銀行の頭取と兼任で市長ができるように兼職禁止の規定がない。それに、家臣になったのは市長ではなく、アーブン個人だ」

「同じだろう」


「法的には違うと、法律家のアーブンは判断していた。これは、ゴブリン軍では同じでも、ノーズルデスは意味のある違いだそうだ」


「いいか。要はジャジャが納得して軍を引く。お姫様の体面が守られて機嫌を損ねない。それでいて、ノーズルデスが自由に貿易できれば問題ない」


「そうだ。今回は、うまく収まった」

 市長舎の広い前庭の前で市長の就任祝いの祝宴が開かれる。

 祝宴にはジャジャはもちろん、シャーロッテも参加した。


 キルアとユウタも呼ばれたので参加した。

 参加者は三百人を超えたが、それほどトラブルもなかった。

 ジャジャは気さくな態度で人と接し、悪魔や人間とも和気藹々(わきあいあい)と話す。ジャジャの気取らず威張らずの態度に、誰もが胸を撫で下ろした。


 祝宴に参加したゴブリン軍の関係者は、料理を食べるマナーに品がない以外は、大人しかった。

(自分のところの王様の腰が低いのに、王様の家臣が王様以上に偉そうな態度は採れないよな。そこら辺は、ゴブリンでも常識か)


 パーティの中盤で、ゴブリン皇帝に対する貢ぎ物の提出と、ジャジャに対する兵糧と戦費の供出が発表される。

 額は大きかった。だが、呼ばれた街の資産家たちの顔を見ると「まあ、それくらいならいいか」の顔をしていた。


 対する受け取るジャジャは満足気に頷いていた。額としても問題なさそうだった。

 ジャジャが帰る前にキルアを見つけたので声を掛けてくる。ジャジャはすこぶるご機嫌だった。

「キルア殿。今回の街との折衝(せっしょう)、ご苦労であった」


「こちらも、ジャジャ様が賢こいお方で、大助かりでした」

「前の市長については、残念な結果になったな。だが、戦争に犠牲は付き物だ」


「真にその通りです。でも、これで、ノーズルデス包囲戦は終わりで、よろしいのですね?」

 ジャジャは明るい顔で頷く。

「そうだ。我が軍はここより兵を引き払い。人間の王都カールザルツを包囲している本隊と合流する。また、戦場で会うかもしれんな」


「その時は味方同士の状況を願いますよ」

 ジャジャは堂々たる態度で発言した。

「違いない。それでは、またどこかで」


 ジャジャは部下を引き連れて帰っていった。

 ジャジャが帰ると、引き上げ準備が始まり、一週間でゴブリン軍は街道から消えた。


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