表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/29

第十九話 人間側の最初の犠牲者

 翌朝、ユウタが朝早くに部屋にやって来た。

「何だい、ユウタ。こんな朝早くに、まだ陽も昇りきっていないだろう。それとも、雌鳥(めんどり)に哲学の講義でもしようってのか? 最近の鶏は頭がいいって言うからな」


 ユウタはむすっとした顔で端的に告げる。

「今朝、朝早くに街を散歩していたら、街の広場で面白いものが見られた。キルアにも教えておいてやろうと思ってな」

「何だ、河童が輪になって踊ってでもいたか。それとも、妖精のお茶会にでも遭遇したか。だったら、妖精から俺の分のクッキーも貰ってきてくれよ」


 ユウタがあっさりした態度で告げる。

「ヘンドリックが首から上だけになって、街の広場に(さら)されていた」

(ヘンドリックは悪い奴ではないが、運がなかったな。だが、もし、シャーロッテの仕業なら、俺にも責任の一端は、あるか)

「まじか? やっちまったのかお姫様が? ちと、気が早過ぎるぜ」


 ユウタは難しい顔をして肩を竦める。

「手口から見てシャーロッテが(じか)に手を下してはいない。だが、警備された街の中での犯行だ。悪魔の可能性はある。となると、ヘンドリックがシャーロッテを怒らせて、配下の誰かが手を下したとも考えられる。俺の見立てでは五分五分だな」


「確率はどうだっていい。お姫様に嫌疑が懸かる展開が問題だ。現状ではゴブリン軍の仕業かもしれない。ゴブリン軍にしたら、お姫様に罪を着せて人間と悪魔を分断したいはずだ。人間に後ろ盾がないほうが従順になると、ジャジャなら考える」


 ユウタは澄ました顔で、当然のことのように発言する。

「キルアの指摘も当然に考慮した。その上での五分五分との判断だ」

「とりあえず、俺もヘンドリックの顔を拝んでおくか。準備する。少し待ってくれ」


(ヘンドリックの顔を拝んだところで、ヘンドリックが生き返るわけではない。だが、現場に行かねばわからない情報もある。早朝から面倒な事態になったぜ)


 キルアは着替えるとユウタに連れられて、街の広場に移動する。早朝のため、人間の姿はほとんどなかった。代わりに野良猫が悠々と歩いている。

「街だけが、相変わらず平和だな。見ろよ、野良猫が子供を連れてのお散歩だ」


「猫に人間やゴブリンの戦争は関係ない。もっとも、人間でも目を閉じて耳を塞いでいる猫以下の奴もいるがな」

「ここだけ見れば、戦争なんて、隣の庭で行なわれる餓鬼のスポーツのようだ」


 ユウタが穏やかな顔で意見する。

「随分と薄氷の上に成り立った平和だな。スポーツの起源を遡れば戦争に行き着くと唱えている哲学者もいるから、間違いではないが」


「戦争中なんだ誰かが死ぬ。普通は名もない兵士からばたばた死んでいく。だが、今回は事情が違う。名前のある偉い奴から死んでいく。人数も三人と、片手で数えられるくらいだ。現場の兵士はほっとしているだろうが、ここからがまずい」


 ユウタが真剣な顔で頷いて、見解を語る。

「そうだな。現状は、誰か一人のちょっとした意地や悪意の一押しで崩壊しかねない。その一押しをジャジャがするとは限らない。人間が愚行を断行するのなら、今度は人間側の邪魔者を間引かなければならない」


「悪魔でよかったよ。街のためって大義があるなら、ゴブリンにも人間にも肩入れしなくて済む。結果、大きな視野から重要な決断ができる」


 ユウタが思案しながら、おもむろに語る。

「悪魔王様もキルアと同じ意見で介入を決めたのかもな」

「よせよ。俺はお偉いさんとは違う。地べたを這いずるような悪魔だ」


 街の広場では、すでに二十人ばかりの人だかりができていた。

 広場中央の銅像の手の上にヘンドリックの首はあった。

 銅像は高さ四mで、馬に(またが)った騎兵のものだった。

「ヘンドリック、変わり果てた姿になっちまったな」


 現場には血痕が大量には見られなかった。ヘンドリックは別の場所で殺されて、首を切断されて像の上に曝されたと見てよかった。

 キルアたちがヘンドリックの首を眺めていると、通報を受けた街の衛兵が来た。


 これから、ごたごたすると思ったので、キルアとユウタは公園を後にする。

「現場を見たが大して収穫は、なし。あえて言えば、ヘンドリックはもう西瓜を食えなくなっちまったことぐらいか。あと、苦悶の表情でない点が唯一の救いだな」


 ユウタが真剣な顔で提案した。

「死亡推定時刻や殺害になった現場についての情報は必要か? 必要なら、調べてくるぞ」


「とりあえず、飯にしようや。ユウタが汗を流して泥塗(どろまみ)れにならなくても、衛兵さんがこまめに動いて調べてくれる。必要なら衛兵から情報を貰えばいい」

「他人任せはあまり好きじゃないが、飯を喰う時間くらいはある」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ