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第十八話 あの西瓜頭をどうにかしろ

 ノーズルデスに帰って、代官を置く措置が可能かヘンドリックに訊く。

 ヘンドリックはとんでもないといった顔で首を横に振った。

「街にゴブリンの代官を置くなんて無理です。それでは、街がゴブリン軍に支配されたも同然です」


「ジャジャの要請を聞けば街の人間の命は助かる。財産は目減りするでしょうが、財産も残る。何が問題なのです? 俺の頭でもわかるように教えてほしいものですね」

「自由がなくなる。たとえ、財産が残っても自由や尊厳がなくなれば、街は死んだも同然です」


 キルアはヘンドリックの頭の固さに少々嫌気が差した。

「同然と実際に死ぬでは大きな隔たりがある。そう、頭を切り落として、西瓜を載せたのと、西瓜のような頭だと指摘されるぐらいの違いがある」


 ヘンドリックが険しい顔で拒絶した。

「何と評価されようと駄目です。第一、街の運営を預かる議員たちが、納得(なっとく)しない」

「では、議員たちが納得すれば代官を置いてもいいと? もっとも、蓋を開けてみれば議場が西瓜畑だったとなったら目も当てられない。俺は農夫じゃありませんからね」


「何と説得されようと私は反対だ。ゴブリンを代官に置くなんて(もっ)ての外だ」

(ゴブリン軍の態度が柔らかくなったと思ったら、市長が(へそ)を曲げた。まったく、街を救うおうとしている悪魔の身にもなってほしいものだぜ)


 ヘンドリックと妥協点を見出せそうになかったので、市長舎を後にする。

 さて、どうしたものかと宿屋で考えていると、ユウタが戻ってきた。


 ユウタがしれっとした顔で尋ねる。

「どうだった? ヘンドリックはゴブリンの代官を置く措置に賛成したか?」


「駄目だね。死んだゴブリン王もわからず屋だったが、ヘンドリックも大概だ。物事の大局が見えていない。今が街を救うチャンスだとわかっていない。これは助かるチャンスを棒に振るかもしれないぞ」


 ユウタが考え込む顔をして、意見を述べる。

「残念だが、近視眼的な発想しかできない司令官を持った軍には未来がない。まして、哲学の素養のない者が為政者を兼ねるなら、街は惨劇に見舞われて当然か」


「さて、どうやって西瓜頭を説得するかだ。議員を一人一人、順繰りに説得していたらジャジャが痺れを切らせて攻めてくる危険性がある。そうなったら、手遅れだ。街中が悪餓鬼どもの西瓜割に遭ったみたく、かち割られた頭が転がるぞ」


 ユウタが素っ気ない態度で水を向ける。

「内部から変われないのなら、外圧を利用する手もある。三日ほど待てば、超大型台風のように恐ろしい圧力を持った存在が、やってくる」

「そうか。もう、そんな時季か。お姫様が到着するのか」


(シャーロッテは薬でもあるが、劇薬でもある。処方を間違えると、街は滅んで一銭も儲からない。だが、こればかりはサイコロロを振るのと一緒で、やってみなきゃわからない)


「あまり、他人の手を借りて解決するって手法は好きじゃない。それに、お姫様は街の維持には犬の欠伸(あくび)ほどの興味を示さない可能性もある」

「なら、ヘンドリックには消えてもらおう。人間側も頭を替えれば物事は進むかもしれない」


 ヘンドリックを排除する決断は、最後の手段にしたかった。

「ヘンドリックは悪魔の傭兵団の雇い主だ。悪魔に理解もある。主に商売的に、だがな。戦争に犠牲は付き物だが、ヘンドリックの暗殺はもう切るカードがなくなった時の最後の手段だ」


 ユウタは素っ気なく促した。

「なら、三日だけ待って、事態を動くのを待ったほうがいい」

「あまり、気が進まないがそうするか」


 三日後の早朝、沖合に八隻からなる艦隊が現れた。艦隊の出現を街は歓迎した。

 その日の夕方には、キルアのいる宿の部屋をシャーロッテが訪ねて来た。


 シャーロッテは屈託のない笑顔で挨拶する。

「こんにちは、キルア。元気にしていた? 先にノーズルデスに向かうなら、一言いってくれればいいのに。もう、水臭いな」


「先に入って、シャーロッテが来るまで街が陥落しないように、あれこれ工作をしていたんだよ。シャーロッテだって、せっかく殺人艦隊を引き連れてやってきたのに、街が瓦礫(がれき)と死体の山ならいい気はしないだろう」


 シャーロッテは柔らかい表情で小首を傾げる。

「どうだろう、死ぬのが人間たちだけなら、あまり気にしないかな。でも、私のいないところで勝敗が決しているのは面白くないわね」


「だろう。だから、俺が気を遣って、ゴブリン軍の進行をユウタと一緒に、口八丁手八丁で、食い止めていたんだよ、ありがたく思って感謝してくれよ」


 シャーロッテがにこにこした顔で付け加える。

「暗殺って手段を使って、でしょ。別に非難しているわけじゃないわ。褒めているのよ」

「何だ、知っていたのか。そうだよ。俺とユウタでゴブリン王を一人ずつ殺した」


 シャーロッテが微笑む。

「いいね。いいわよ。戦争で敵の首を上げるなんて、実に戦争らしくていいわ。しかも、指揮官クラスなんて凄くいいわ。血の臭いが微かに漂って、何か、戦争している感じがする」


 キルアは正直に問題を告げた。

「だが、ここで、問題が起きた。三人目のゴブリン王のジャジャはなかなか先見の明があるやつだった。渋い柿を歌っていたが、干し柿のように甘い利益を惜しげもなく目の前に拡げてきた」


 シャーロッテは、いささか感心した。

「それは、ゴブリン王にしては珍しいわね」

「街の包囲を解いてもいいと、歩み寄ってきた。だが、条件がある。街に代官を置く措置だ。俺は優勢なゴブリン軍にしては酷く控えめな要求に思える。お花畑で舞う少女のようだ」


 シャーロッテは腕組みして見解を述べる。

「ゴブリン軍が優勢なんだから、代官を置くぐらいは、譲歩をしてもいいでしょう。何が問題なの?」


「そしたら、今度は人間側の市長の西瓜頭のヘンドリックが嫌だと言い出した。こっちは、芥子畑で踊る中年野郎だから手に負えない」


 シャーロッテが顔を歪めて、ヘンドリックを非難する。

「なにを今さら。それで戦争に負けたら、全てを失うわよ」

「それで、交渉は暗礁に乗り上げようとしている。片方がまともになったら、片方が馬鹿になりやがった」


 シャーロッテが腰に手をやり、威勢よく発言する

「いいわ。私が、話を付けてくる。お父様も、ノーズルデスが自由貿易都市としての機能を失わなければいいと仰っていたわ。別に統治者が人間である必要はないのよ」


(シャーロッテは簡単に考えているけど、あの手の西瓜頭は死ななきゃ治らない。だが、ここで悪魔王に梯子を外されれば街が終わる。街の終焉がわからないほどヘンドリックは馬鹿ではないだろう)


 すぐに殺したがるシャーロッテに、この手の交渉は難しいと感じていた。

 だが、シャーロッテが悪魔王の名代で派遣されているのなら、口を出すのも躊躇(ためら)われた。


(ヘンドリックには一度、泣きを見てもらう。そうすれば考え方も変わるだろう)

「そうか、それじゃあ、頼むわ。ヘンドリックにガツンと言ってやってくれ」


 シャーロッテは元気よい顔で、自信たっぷりに発言した。

「大船に乗ったつもりで、任せておいて」


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