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第十六話 渋柿のような王(前編) 

 三日後、ヘンドリックから呼び出しがあった。

 市長舎に行くと、ヘンドリックが弱った顔で申し出る。

「ゴブリン軍からキルアさんに出頭要請がありました。真に心苦しいのですが、ゴブリン軍の陣地に出頭していただけないでしょうか」


(さすがにゴブリン王を二人も暗殺されて、ゴブリン軍も怒り心頭か。でも、ここまでは予想できる反応だ。ジャジャも馬鹿なら、ここで消えてもらおう)


 キルアは不機嫌さを隠すことなく口にした。

「市長は俺に死んでこいと命令しているのですか。だとしたら、がっかりだ。貴方の頭の中は西瓜(すいか)でも詰まっているんですか?」


 ヘンドリックは弱った顔のまま首を横に振る。

「死んで欲しいなんて思っていませんよ。ただ、ゴブリン王のジャジャがキルアさんと(じか)に話がしたいと言い出しました」


「なかなか、勇敢な申し出だ。もし、ですが、断ったらどうしますか」

「それで、その、交渉のテーブルに乗らないと大変な事態になるとも暗に脅されています」


 キルアは堂々たる態度をとって、ヘンドリックに強気で発言した。

「市長は何か勘違いをしておられる。俺ががっかりだと評したのは、俺がゴブリンを畏れていると思っている態度です。ゴブリンの一万や二万、怖れるに足りない。必要とあれば、完熟トマトでも()ぐように、ジャジャの首も取ってきましょう」


 ヘンドリックがほっとした顔でお願いした。

「キルアさんが勇ましい方で助かりました。では、明日のお昼にゴブリン軍の陣地に行ってください。お願いします。」


(ヘンドリックは頼りにならない。俺がちょっといい内容を口にしたら、もう肩の荷を下ろした気でいる。戦争が一向に終わる気配がないのにな。その場、その場で対応していると、いつかもっと危険な目に遭うぜ、西瓜頭さん)


 キルアは心中を隠して笑顔を心掛けて優しく声を掛ける。

「わかりました。ジャジャと会談して滞っている交渉に、筋道を着けましょう」


 キルアは宿屋に帰るが、ユウタは帰ってきていなかった。

(このタイミングでユウタが帰ってこないところを見ると、何かゴブリン軍に動きがあったな。さて、どんな動きがあったのやら)


 翌朝、準備を整えて門に行く。すると、ボボンとガガンが馬を準備して待っていた。ボボンとガガンが(かしこ)まった態度で申し出る。

「キルア殿ですね。ゴブリン王ジャジャからの命により迎えに来ました」


 馬は良くも悪くない馬だが、馬具は一通りついていた。

「馬でのお出迎えね。俺を縛って、こいつで運ぼうってわけか。だとしたら笑えない対応だな」


 ボボンが穏やかな顔で説明する。

「違いますよ。これは、ジャジャ王より、キルア殿が足を疲れさせないための措置(そち)です」

(何だ、客人待遇だから馬を用意したのか、これは予想外の反応だ。蜂の巣を突いたら、蜂蜜だけ出てきたみたいな対応だ)


「ゴブリン王が、俺に気を遣っているのか。意外だな。ゴブリン王にとって俺は栗の(いが)みたいに邪魔な存在だと思っていた。叩き割って、野に捨てて置けとでも思っているのかと思ったぜ」


 ボボンが自慢げに話を披露(ひろう)する。

「そんな気持ちは毛頭ないですよ。キルア殿は秋の栗の実のようなもの。越冬には欠かせない。つまり、それだけ、キルア殿が大事なのです」


(たとえが怪しいが、話も怪しいぜ。ルルウスの殺害を露骨に怒っていないのも、気に懸かる。それとも、油断させて背後から襲う気か。とはいえ、用意してくれた馬に乗らないのも、格好が悪いな。美学に反する)


 キルアが馬に乗ると、ガガンが手綱を引いて歩き出す。

 馬で行く傍ら、キルアはボボンに尋ねる。

「これから会いに行くジャジャ王ってどんな王様だ。鬼みたいに怖い王様か? それとも、今年の西瓜のように甘い王様か? 別にとって喰おうとは思っていない。どんな王様か知りたいだけだ」


 ボボンがやたら愛想よく、饒舌(じょうぜつ)に応じる

「どちらかといえば、渋柿のような王様でしょうか。簡単には喰えません。ただ、時間を掛けて丁寧に接すれば、干し柿のような幸福を(もたら)してくれる王様です。率直に言えば、気さくでユーモラスなゴブリンです」


(渋柿のような王様ね。だとしたら、厄介だ。硬軟を織り交ぜて対応を変えてくるゴブリンか。これは、調子に乗って、ゴブリン王を殺し過ぎたかもしれねえな)

「ユーモアのわかるゴブリン王ねえ。だとしたら、ゴブリン王らしくないゴブリン王だな。ルルウスと比べるどうなんだ。どっちが上か正直に聞きたい」


 ボボンがしきりにジャジャを褒める。

「あの、小賢(こざか)しいだけのルルウスとは格が違いますよ。ゴブリン王の中でもジャジャ王ほどの知恵者は、そういません」

「あれ? お宅、ルルウスの性格を賢明で多くのゴブリンが従いてくる、って評価していなかった?」


 ボボンは明るい顔で告げる。

「それは、死ぬ前までの評価です。死んだルルウスは性格に欠点があった。だから、亡くなったのです。それに、もういないルルウスに従いて行くゴブリンはいません」


(ゴブリンの世界ってのも厳しいね。死ねば用済みだ。でも、生きている時が絶頂期ってのも悪くはない生なのかもしれない。だらだら生きて、ずるずる生きるのも、惨めだ)


 キルアは正直にボボンを褒めた。

「乗り換えが早いというか、切り替え抜群というか、お宅ら、いい性格しているね。まるで、夏の胡瓜(きゅうり)売りの能書きみたいだ」


 ボボンが、にこにこしながら語る

「ゴブリンにおいては、今こそが大事。過去のことなどは、どうでもいいのです。特に、死んだゴブリン王に関してはね」


(ゴブリンの性格を見直さなきゃならないね。こうも、切り替えが早いんなら、本当にジャジャが切れ者だった場合は、街は危ういかもしれない)


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