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第十四話 短い会談

 交渉は街の正門入口から三百mほど離れた場所にある会館で行われる。

 会館の警備はカイエン率いる青髭傭兵団が行う。交渉の場所は六十㎡の小さな部屋だった。


 部屋の調度品はすべて撤去され、部屋には長方形のテーブルと椅子が四脚だけ置かれている。

 人間側の代表は、ユウタとキルアが二人。

 ゴブリン軍からは黄色い肌をしたゴブリンと黒い肌をしたゴブリンが参加する。


 二人のゴブリンは礼装用なのか、皮の鎧を着ていなかった。代わりに、茶色の布に紫の染料で染めた布の服を着ていた。


 黒い肌をしたゴブリンはキルアを見ると、黄色い肌をしたゴブリンに耳打ちをした。

(何か、感じの悪い奴らだ。給仕が金のない客がきたと支配人に告げ口しているみたいで嫌な気分)


 黄色い肌のゴブリンが背筋を伸ばして口を開く。

「私の名はボボン、隣のはガガン。我々はルルウス王の使者です」

「俺の名はキルア。隣にいるのがユウタ。それでは会談を始めますか」


 ボボンが澄ました顔で追求してきた。

「会談を始める前に、ガガンが申告するに。キルア殿はボブレット王を暗殺した張本人だと申告がありました、本当ですかな? であるなら、会談の場に出てくるとは、なかなかの勇者だ。知恵者かどうか、わかりませんが」


「悪魔違いでしょう。彷徨える幽霊船長デーモンなんて、珍しい存在じゃない。そこら中にいますよ。もう、旅人相手の物売りのようにね。もし、見えないのなら街中を散策してみればいい。いたるところで見られるでしょう。ただし、街をゴブリンが歩ければ、ですけど」


 ボボンは、さばさばした顔で意見に固執しなかった。

「それなら、そういう結論でもいいでしょう。それで、ルルウス王の要求ですが、金貨二十万枚を要求します。要求が通った暁には悪魔王さまにも十万枚を進呈します」


(街の財産は山分けしようって話か。悪い話ではないが、馬鹿正直に信じる奴はいない。しかも、昨日の今日で大幅値下げだ。何か悪巧みを思いついたな)


「話は聞く分には悪い気がしない。だが、無理だ。ルルウス王が悪魔王様の取り分をきちんとよこす保証がない。ボブレット王の時もシャーロッテ様にゴブリン軍は嘘を吐いた。悪魔の世界は厳しい。二度も騙される悪魔はいない」


 ボボンは澄ました顔で冷静に語る。

「ボブレット王は死んだのです。死んだボブレット王のことを悪く言う気はありません。ですが、ルルウス王はボブレット王より賢明なお方です。それはもう、豚とゴブリンくらい違う。ルルウス王には多くのゴブリンが従いてくる」


(それで、ルルウスが死んだら、ほかのゴブリン王にほいほい従いていくんだろう。わかり易くて、いいね)


「わかりました。なら、悪魔側でも申し出も検討しましょう。結論を出すのに、十日ほどお待ちください」


 ボボンはキルアの返事に微笑んだ。

「色好い返事を、お待ちしておりますよ。ゴブリン皇帝は悪魔王様との良い関係を望んでおられる。まさに夜と月のような関係をね」


(夜に必ず月が出るとは限らねえ。夜の月は絶えず満ち欠けして、一定ではない。それを知っていて話していやがるな。何か、こっちを馬鹿にしてやいるようで、ボボンは気に入らないね)

 ボボンとガガンが退席した。


 ユウタが渋い顔で意見する。

「いいのか? 俺たちが受けた引き受けた仕事は、ゴブリンたちの要求を値切ることだ。このままでは四倍の額を請求することになるぞ。二十万枚なら、街の金貨を掻き集めればあるだろう。だが、欲深き者にとって、あると、払うは、別の問題だ」


「十日あれば、お姫様が到着する。面倒な政治はお姫様に任せるさ。最悪、お姫様の方針が『人間殺すべし!』なら状況は大きく変わる。お姫様がルルウス寄りなら、街を救うには悪魔王様を動かさなれればならない」


 ユウタが難しい顔で質問する。

「お姫様から街の財産をゴブリン軍と折半する指令が出たら、どうする? 戦わずして金が貰えたうえ、人間の街の包囲を解かせられるなら、ありえる判断だぞ」


「そんときは、そんとき。また何か良い手を考えるさ。お客の人数も予算もわからないでは、料理を用意するほうも困る」


 ユウタが部屋の石の床をすり抜けて部屋から出て行こうとする。

「ユウタはどこに行く? いつものお散歩か?」


「行儀が良い子供は好きだが、良すぎる子供は裏がある。人の哲学書を盗んで古本屋に持ち込むなんて馬鹿な子もいる。そんな、何か、笑えない悪戯を考えているかもしれない。ちょっと、ルルウスの動きを探ってくる」


 ユウタは床をすり抜けて部屋を出かけていった。

 キルアは扉から部屋の外に出る。すると、カイエンを伴った人間の男性が待っていた。


 男性の身長は百七十㎝、小太りで褐色の肌をしており、黒い瞳をしていた。髪は黒くて薄く、チョビ髭を生やしていた。ノーズルデスの市長のヘンドリックだった。


 ヘンドリックが不安な顔で尋ねる。

「ゴブリン軍の使者が着いたと思ったら、すぐに帰ってしまいましたが、何か怒らせるような発言をしたのですか」


「怒って出て行った訳ではないですよ。今のところはね。詳しくは夕食後にでも報告しますよ」

 ヘンドリックは、おどおどした態度で訊こうとする。

「あの、キルアさん――」

「それではまた、夕食後に市長舎にでも、お伺いしますよ」


(ユウタがルルウスの動きを探るなら、結果を待ってからでも遅くはない。俺もルルウスの動きは、気になる。きっと、馬鹿みたいな作戦を考えている気がしてならない)

 キルアはヘンドリックの声に耳を貸さずに、会館を後にした。


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