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第十三話 ゴブリン軍の要求

 六日目に煮込みが美味いと評判と料理屋で飯を喰う。

 宿に帰ると、ユウタが待っていた。


(のろまなゴブリン軍に動きがあったようだな。喪に服すにしては短かく、行動を起こすには遅すぎる。こういう中途半端で官僚的な敵は好きだね)


 ユウタが真剣な顔で誘う。

「ゲームが二ゲーム目に入った。俺の部屋で戦略を話そう」


(本当に、こういう時にマメなユウタがいてくれて助かる。きちんとした出汁(だし)がとれるアシスタントがいると、その先の調理が楽だ。アシスタントの給与は料理長より安いがな)


「ノーズルデスはなかなかいいぜ。料金は高目だが、探せば美味い料理屋がけっこうある。ユウタも働いてばかりいないで、今を楽しんだらどうだ。俺たちにあるのは、常に楽しい今だぜ」


 ユウタは眉を(しか)めて情報を語った。

「現在に囚われる態度は、キルアにあっても、俺にはない。俺は哲学のおかげでよりよい未来が見える。それに『心配事がない時に食べる飯は、粥のように消化がよい』と、ある哲学者も言っている」


「哲学のお告げなら致し方なしか。それで、ゴブリン軍に何か動きがあったか? 王様が死んだから葬式でもやろうっていうのか。だとしたら、猛毒のトリカブトとイヌサフランで仕立てた花輪の一つでも、贈ってやるか。暗殺者より、死んでくれてありがとう、ってな」


 ユウタが素っ気ない態度で教えてくれた。

「今日の昼にゴブリン軍からの使者が街に来た。ゴブリン軍はここに来て街を攻める態度を変えた。上が替わっての方針転換だ」


「それで、頭がかわって賢くなったのか。期待はしない」

「交渉の中身を聞くと次の頭も同じく悪い。ゴブリンはゴブリンだ。どうしようもない、まずさだ。これならまだ腐った河豚を(たら)だと誤魔化して売る魚売りのほうが利口だ。あと、ボブレット暗殺の件も議題に上がった」


(ボブレット暗殺の犯人の引渡し要求でもしてきたか。だとしたら、ゴブリンどもは頭が悪いらしい。とはいえ、人間のほうがもっと頭が悪いって展開もあるから、油断はできない。どっちが馬鹿かの勝負になれば、河豚とトリカブトと、どっちが効くか、ってくらいどっこいどっこいだ)


「ボブレットを暗殺したキルアとユウタの首でもよこせってか。でも、戦争中に敵の大将の首を取った悪魔を引き渡すようなら、終わりだな。哲学者が百人もいないと街に未来はないぜ」


 ユウタは冷静な顔で教えてくれた。

「この街には哲学が足りない状況は認める。だが、街の人間は、ボブレットより分別がある。馬鹿正直に何のことかわからないって、答えたそうだ」


(賞金を請求しておかなかったおかげで、厄介事が一つ避けられたな。もっとも、ゴブリンが認めたことで、あとから懸賞金を請求はしやすくなった。馬鹿の効用だな)


 キルアは一応、確認しておく。

「ユウタはボブレット暗殺の懸賞金を街に請求しなかったわけか。支払いどころか、請求書も回ってきていないなら、街はすっとぼけることができるわけだ。喰っていない料理の代金は払わない、って拒否しやすいからな」


 ユウタは軽蔑する顔でゴブリン軍を馬鹿にした。

「ゴブリン軍はボブレットが死んで、ルルウスが軍を仕切っている。ルルウスはボブレットを厄介に思っていた。暗殺されて清々しているそうだ。それは、もうボブレットが死んで宴会をしていたぞ。次に死ぬのがルルウスだとは、露にも思っていない」


(ゴブリンの世界も出世競争と無縁ではないわけか。世知辛いね。海の自由人たる俺には関係のない話だ)


「指揮官を暗殺されたので、犯人の引渡しを要請した。だが、本心ではボブレットの死を悼む気なんて、さらさらない。ここまでは、いい。だが、料理屋の舞台裏を覗いたらこれから料理にされる豚が満足そうな顔で水飲んでいるみたいだな」


 ユウタが(きび)しい表情でゴブリンの情報を語る。

「話を先に進めるぞ。街がボブレット暗殺を知らないと弁明した。すると、ルルウスは、あっさりと犯人引渡しの要求を引っ込めた。だが、ルルウスは別の要求を出してきた」


「ルルウスの行動を当ててやろうか? 金を要求してきたんだろう」


 ユウタがうんざりした顔で認めた。

「当たりだ。街に包囲を解いてほしければ、金貨百万枚を用意しろと要求してきた。ルルウスが百万の数を理解しているかどうか、不明だがな」


(馬鹿だね、ルルウスは。金貨が百万枚もあれば、どれだけ大勢の傭兵が雇えると思っているんだ。それだけの金があれば、ゴブリン軍を皆殺しにして、壁から首だけ吊るして、まだ余るぜ)


「たいそうな額を要求してきたものだな。ラーシャがいたら、さぞや喜ぶだろう。金貨が百万枚もあったら、どれだけの悪魔がレベル・アップできるのやら」


「金貨が百万枚もあれば、ゴブリン軍に打ち勝つだけの傭兵を雇えるのも事実だ。だが、ルルウスは欲に目が眩んで現状がよく見えないらしい。欲望は光を奪うとは、よくいったものだ。さて、ここから街の人間の動きだ」


 少し話が見えてきた。

「なるほど、それで街の連中は安く上がるほうを選びたいってわけ。金を払って助かるから金で解決したいと、これまたゴブリンと違う意味で見上げた根性だね」


 ユウタが複雑な表情で語る。

「信用のおけないゴブリンと交渉をしたくない。だが、悪魔王が中に入って交渉を纏めてくれるなら、払ってもいいそうだ。俺には理解し難い考えだがな」


「弱腰だね。ゴブリン相手に弱気は舐められるぜ。舐められた砂糖菓子みたいに、街中がべたべたになって溶け出すぜ。そうなりゃ、あとはグダグダだ。人間の矜持(きょうじ)ってないのかね」


 ユウタが不機嫌に語る。

「馬鹿にされても安く済ませたい。だから、お姫様の遣いである俺たちに中に入ってほしいと街の人間に頼まれた。それはもう、平身低頭だ」


「俺はいいぜ。ちゃんと報酬が発生するなら交渉の席に着いてやっても。ただし、纏まるかどうかは、サイコロの目しだいってところか。運が悪けりゃ即戦争だ」


「わかったなら、明日、ゴブリン軍の交渉人が来るから交渉を頼む。ただし、街から出せる金貨は五万枚が限度で、と教えられた」


(金ならあるだろう。命が懸かっているわりに人間は随分と渋いな。冥府に財産を持っていって商売ができるとでも思っているのかね)


「露天の果物だって、そこまで負けさせるのは無理だ。とすると、できる対応はお姫様が街に入るまでの時間稼ぎか。お姫様の動き次第で戦況は変わる。戦況が変われば、命の値段も変わる。もっとも、価格が跳ね上がることもあれば、ゴミに化ける未来もある」


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