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第十一話 悪魔に嘘を吐いたなら

 一夜が明ける。黒装束の六人の行方はわからなかった。

 キルアとユウタはお昼まで休むと、ユウタの部屋で相談をする。


「街への侵攻は防いだ。だが、嘘を吐いたボブレットを、許すわけにいかない。お姫様の名前まで出しておいたのに裏切った。給仕の小僧が貧しさに耐えかねて、釣り銭を誤魔化したのとは、訳が違う」


 ユウタは険しい顔で同意した。

「今回の件がお姫様に知れたら、名前の無断使用を許されても、ボブレットが無傷だと知られれば、責めを負わされる。それは避けたい」


「俺は考えた。どんな処罰がいいか、だ。お姫様ならどんな処罰を望むかも、検討した。それはもう、肉か魚かどちらかしか選べないコース料理で、両方とも魅力的な皿が並んだ時のように熟慮した」


 ユウタがむすっとした顔で尋ねる。

「哲学的に考えるまでもない単純な問題だな。聞くまでもないが、一応は訊こう。小さな思い違いが後で大きなずれを生んだら困る。それで、思考実験の結果は何と出た?」

「判決、死刑だ」


 ユウタが難しい顔をして確認してくる。

「死刑といっても色々あるぞ、どの死刑だ」

「生きたまま、あの世に連れて行って、海に投げ落とす」


 ユウタが澄ました顔で告げる。

「なかなか、温情のある死刑だな。弁護人も陪審員もおらず、法学的には問題ある判決かもしれんがな」

「お前はいつから法学者になった」


「そう慌てるな、俺は法学者ではない。哲学者だ。だから見解が違う。世界を覆う大いなる意志の存在世証明にも似た論文と同義に、死刑を支持する」

(判決は決まった、なら後は刑の執行だ。ゴブリンたちに教えてやらねばならない。お姫様の名前に傷を付けたらどうなるかおだ)


「よし、なら、決まりだ。晩飯前にボブレットを殺しに行こう。ボブレットは、料理屋で騒ぐ、躾のなっていない子供みたいものだ。いないほうが、飯は美味い」


 ユウタは軽い調子で提案する。

「ボブレットを始末するだけなら、俺一人でも、できるぞ」


「俺がお姫様の名前を出した。なら、俺が責任を取らなきゃならない。店の予約をキャンセルするのだって、予約者がやらなきゃ、店が困るだろう。今回のキャンセル料はボブレットに死の形で払ってもらう。それだけだ」


 ユウタはあっさりした態度で応じた。

「個人的な私怨のようにも聞こえるが、今回は目を(つむ)ろう。有名な哲学者も、目を瞑ることでしか進めない暗い道もある、と説いている」

「決まりだ。ボブレットを殺しに行くぜ」


 キルアは城壁をすり抜け、ユウタは地下から城壁を迂回して、街の外に出た。

 キルアはゴブリンの陣地に悠々と歩いて行く。

 二十人からなる灰色の肌のゴブリンに行く手を阻まれた。


「俺は悪魔王様の娘シャーロッテ様の遣いだ。シャーロッテ様は昨晩の奇襲にいたくお怒りだ。それはもう、事前に出すなと釘を刺しておいた嫌いな食材を皿一杯に盛り付けられたようにだ」


 ゴブリンの集団の中から、灰色のゴブリンより一回り体が大きい黒い肌のゴブリンが前に出る。

 黒い肌のゴブリンが、むっとした顔で告げる。

「我々の作戦行動に一々指図される覚えはない。我々は食べたいものは勝手に食べる」


「最初からやりたいようにやると公言していたのなら問題はなかった。だが、ゴブレット王は街の攻略をシャーロッテ様が来るまで待つと約束した。約束破りはいただけない。ディナーに遅れてくるのもマナー違反だが、お客がより早くに来て食事に手を着けるのもマナー違反だ」


「そんな話、俺たちは知らないぞ」

「だが、俺は直接ゴブレット王に会って聞いている。だから、直に抗議しに来た。抗議をも受け付けないとなると、問題だぞ。テーブルクロスを引き抜いての殴り合いだ」


 黒い肌のゴブリンは(いかめ)しい顔をする。

「わかった。とりあえず、取り次いでやる。武器を渡して、()いてこい」

「話のわかるゴブリンで助かる。ボブレット王もそうであるとなお嬉しい」


 黒い肌のゴブリンにサーベルを渡して、従いて行く。

 以前と同じ、天幕の中に連れて行かれた。

 天幕の外には四十人の灰色肌のゴブリンがいる。だが、以前と変わらず、だらけきっていた。

(完全に暗殺はないと踏んでいるな。お祭りの日にでる菓子のように甘いことだ)


 黒い肌のゴブリンが命令する。

「ここで待っていろ、静かに待つんだぞ。餌を待つ犬のようにだ」

「話を聞いていただけるのなら、テーブルに着いた紳士のようにお行儀良く待ちますよ」


 キルアを外で待たせる黒い肌のゴブリンは、天幕の中に入っていく。

 一分ほどで、黒い肌のゴブリンが出て来て、キルアに告げる。

「ボブレット様がお会いになってくださる。失礼のないようにな」

「約束は破られた。でも、礼は尽くすつもりですよ。悪魔式に」


 天幕の中に入る。今回は入口にいた二人のゴブリンが武器を隠し持ってないか、簡単にチェックしてきた。

(ボブレットは何をしたかは、よくわかっているようだな。だが、どういう未来が来るかまでは、知恵が回らなかったのは残念だ)


「おいおい、何をするんだよ。武器なら、さっき渡したぜ」

「念のためだ」と入口に立っていた黒い肌のゴブリンは険しい顔で不機嫌に告げる。


 ボブレットの横には左右に二人ずつ黒い肌のゴブリンがいる。

 椅子の後ろにはもう二人黒い肌のゴブリンがいた。合計で天幕の中の護衛が八人なのは変わりがなかった。


 ボブレットの前に進んだキルアは、親愛の表情を繕って声を掛ける。

「ボブレット王、お会いできて、光栄です」


 キルアは、そのまま近づいて握手しようとする。

 すぐにボブレットの横にいた護衛のゴブリン二人が前に出てきて、立ち塞がる。

「なに、そんな怖い顔をしないで。ちょいと握手して挨拶をしようとしただけさ」


 ボブレットが怖い顔で告げる。

「握手は不要だ。我々は、それほど仲がいいわけではない」

「わかりましたよ。これから話す内容も、あまりいいものじゃないですからね」


 ボブレットは傲慢に言い放つ。

「俺は忙しいのだ。用件を言え」

「そんじゃまあ、簡単に言います」


 キルアの体が幽霊化する。

「ケジメをつけて、死んでください」

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