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第十話 ボブレットの策

 夕方にユウタと一緒に傭兵団と合流する。傭兵団は三十人からなる悪魔の傭兵団だった。

 ユウタが一人の悪魔を「こちらが、青髭傭兵団の団長のカイエンだ」と紹介する。


 悪魔は身長二・二mのがっしりとした悪魔だった。格好は顔と全身を覆う黒い金属の鎧を着た重装備だった。

 悪魔がヘルメットを外す。黒い肌をして、険しい目をしていた。白い髪は短く刈り上げており、小さな二本の角を額から生やしている。


「凄い装備だな。まさに戦闘に特化した鎧だ。そんじょそこらの剣や魔道銃なんか弾いてしまいそうだ。にしても、よくそんな重い鎧を着て動けるな。大海亀だって、びっくりだぜ」


「こっちが、今の俺の相棒のキルア。見掛けは軽薄で、口はお上品な俺と違って、かなり悪いが、仕事はできる。哲学にも、理解がある。無理解という理解だが」

「口は上品でないことは認めるが、ユウタに見かけがどうこう言われたくはないな」


 カイエンは表情を和らげて話す。

「ユウタが認めるなら、使い物にならないって状況はないだろう。期待している」

「実力は路地裏にあるのにいつも満席の料理屋のように期待してもらっていいぜ」


「ただ、もし、ユウタと同じ哲学者なら、自重してくれ。哲学者はユウタ一人でうんざり――もとい、充分だ」


「俺もユウタに理解はあるが、聞き手を混乱させるだけの哲学を人に説けるほど頭のよい悪魔じゃない。それで、作戦は、どうする? できるだけ簡単なのを頼む。パンケーキの作り方のように、な」


 ユウタが気を悪くした様子もなく、淡々と語る。

「キルアと水夫スケルトンに裏口の警備をさせる。そこを街に潜入しているゴブリン軍に襲わせて(おび)き出してカイエンの部隊で叩く。以上だ。トーストにバターを塗るように簡単だろう。おまけに、その上に、こってりジャムを塗りたくったくらい大甘の簡単な作戦だ」


 キルアはカイエンに注意を促す。

「俺が囮になる作戦はいい。だが、水夫スケルトンは強くはない。数がいてもそれほど保たない。だから、出るタイミングに気をつけてくれ。本当に裏口が開いたなら、洒落にならない。料理だって、出すタイミングを間違えると、せっかくのディナーにケチがつく展開もある」


「わかった、裏口は簡単には開かないが、気を付けよう。これが、偽物の裏口の鍵だ。首から、これ見よがしにぶら下げておいてくれ。ゴブリンが狙ってくるかもしれない」


 キルアは鍵を首からぶら下げて、軽い口調で尋ねる。

「どう、似合う? ケーキに一つだけ載っている特大の苺のように目立つ?」


 ユウタが素っ気なく応じる。

「ああ、似合っているよ。首を引きちぎってでも持っていきたくなるほどにな」

「首を引きちぎるなんて野蛮だね。テーブル・マナーが、なっちゃいない。そういう態度は嫌われるぜ」


 キルアは青髭傭兵団と一緒に、街の北にある裏口に移動した。

 裏口は石壁に嵌るように設置されており、扉自体は高さが二・五m、幅が一・五しかない。

 扉は頑丈な金属製だった。キルアは『水夫スケルトンの召喚』を使用して、十六体の水夫スケルトンを召喚する。


「よし、頭数は揃った。だが、さすがに水夫が守衛っての、おかしいだろう。それらしい格好が必要だな。今夜のパーティはドレス・コードがあるみたいだからな」

「大丈夫だ。準備してある」


 カイエンが穏やかな顔で合図を送ると、仲間が荷車を牽いてきた。荷車の中には安物の革鎧が入っていた。

「ユウタから事前に頼まれていた品だ。見てくれはいいが、質はブランド品の(まが)い物のように悪い。ただ、着る分には問題ないだろう。引っ張った程度では破れないから、水夫スケルトンに着せるのに使ってくれ」


 キルアは水夫スケルトンに指示を出す。

「了解。さあ、お前たち、お召し変えの時間だ。パーティ・ドレスに着替えるんだ」


 水夫スケルトンは素直に従った。キルアも革鎧を着て兵士に変装する。キルアは十六体の変装した水夫スケルトンと共に、裏口の前に陣取る。

(数は揃った。見てくれはそれなりにいい。美味い料理もある。食べ放題の店なら繁盛する。あとは、意地汚いゴブリンが皿を片手に餌に食いついてくれるのを待つだけだ)


 キルアに裏口の警備を任せると、傭兵団は姿を消した。ユウタも地面の下へと潜る。

 暇な時間が過ぎて、夜になる。途中で食事をして休憩を摂るが、動きはすぐになかった。

(なんだか、暇すぎて眠くなりそうだぜ、本物の兵隊さんって、ご苦労なことだな。こんな暇な仕事を毎日、毎日やっているんだからな)


 夜も深けてきたころ、地面から軽く裾を引っ張られた。ユウタからの合図だった。

 それとなく、周囲を見渡しても変化はない。だが、よく注意して気を配ると、いくつかの気配が、こちらを窺っているのに気が付いた。


 水夫スケルトンを見る。水夫スケルトンはまるで気が付いていなかった。

 キルアは注意を促すために「妙な静けさだな」と呟く。


「妙な静けさ」は船乗りの間では、嵐の前を示す符丁。

 水夫スケルトンはキルアが言わんとする言葉を理解したように、全員が頷く。


 ひゅっ、ひゅっ、と音がして、水夫スケルトンの四体が倒れた。

 キルアにも攻撃が飛んできた。キルアは攻撃が予想できたので攻撃を避けた。壁に細い金属の矢が当たる。


 矢は次々と飛んでくる。矢は水夫スケルトンの頭を射抜いて行く。

「敵襲だ」と叫んだ時には、水夫スケルトンは残り二体になっていた。水夫スケルトンがキルアも庇うように立つ。だが、すぐに飛んできた矢によって破壊された。


 暗闇から黒装束の存在が飛び出してきた。短刀をキルアに向けて振り下ろす。

 キルアはサーベルを抜いて防御する。黒装束の存在がもう二人、加勢してきた。三対一になる。キルアも腕が立つほうだが、黒装束もなかなかやる。三対一では苦戦した。


 黒装束の存在はまだ三人おり、三人はキルアに目をくれず、扉に向かう。

(まずいな。あいつらなら、本物の鍵がなくても扉を開けちまうかもしれない)


 邪魔をしに行きたい。だが、目の前の三人の黒装束を相手にするだけで手一杯だった。

 キルアは幽霊化の能力を使用した。

 急に攻撃をすり抜けるようになる。黒装束は一瞬、怯んだ。


 キルアは『ソウル・ガン』を出す。扉で作業をしている黒装束の敵に目掛けて、二発を撃った。

 危険を察知したのか、扉の前から黒装束が離れる。


 黒装束の敵の五人がキルアを囲む。残り一人が扉の解除作業をしようとした。だが、黒装束は扉の前から飛びのく。


 見れば、地面からユウタの鋼鉄化した腕が突き出ていた。

(地中からのユウタの攻撃を(かわ)すとは、やるね。他の五人もそうだが、なかなかの()(だれ)だね。これは、ただのゴブリンじゃないな)


 バラバラと音がする。カイエンが率いる三十人の青髭傭兵団が現れた。三十人の傭兵団が、六人の黒装束の敵を囲む。


 キルアが警告を発した

「大人しく投降しろ。お宅らが遣い手でも、この戦力差を引っくり返すのは、難しいぜ。そう、一つのケーキを均等に七等分するよりも、な」


 黒装束の一人が、短剣を捨てる。一人が武器を捨てると、残り五人も武器を地面に捨てた。

 傭兵団のメンバーが武器を取り上げようとして近づこうとした時に、事件は起こった。


 地面に捨てられた武器が、突如として強烈な光を放った。時間にして五秒。だが、光が止んだ時には黒装束の一団は一人残らず消えていた。


 カイエンが忌々しそうに叫ぶ。

「くそ、逃げられた。これは、ギフトの一種だ」

「ギフト持ちのゴブリンか。悪魔から派生したゴブリンの可能性があるな。これは、ちと厄介だな。牛の尻尾みたいに美味しく食べるには、一手間いるぞ」


 辺りを捜索するにも、黒装束は腕が立つ。人数を分散させれば、各個撃破される恐れがあった。それに、捜索に没頭して、手薄になった裏口を開けられれば、本末転倒になる。


「ボブレットを湯で海老みたいに真っ赤にさせたがったが、生茹でになっちまった。生茹では、好きじゃない。海老は生か、しっかり火を通す派だ」


 ユウタは水夫スケルトンを破壊した矢を拾い上げ、確認する。

「そうだな。だが、最悪の事態は避けられた。また一つ、答えを出すための値が得られた。街を救う解答に向けて、俺たちは進んでいる」


「でも、これで、金貨二十枚を請求できなくなっちまったな。最悪、二枚とか値切られるぜ」

「値切られるのは、しかたない。これは前哨戦だ。本番は、これからだ」


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