表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緊縛ダークエルフ  作者: クルクルパー
第一章 やって来た厄介な方々
8/49

1-7

●1-7


 僕は急いでヤミノの縄を解いた。彼女の体を起こしてやる。


「おい、大丈夫か」


「はあ、はあ、ははっ。あはははは!」


 額に汗を浮かべたまま、顔をのけ反らすようにして笑うヤミノ。


「ヤミノ?」


「やはりお前は容易い頭よのう」


「あ、苦しんだ振りだったって事ね? そんな事だろうと思ったよ」


 分かってましたよ。嘘っぽかったもの。


「何が聖縛縄(ホーリー・ボンデージ)だ、バカらしい! こんな物は、こうだ!」


 彼女は縄の生えた二つの首輪をぐるぐる回してから、公園の反対側の茂みに向けて投げ捨てた。


「あ! 不法投棄!」


「うるせい! 説教なんか聞きたくない!」


 彼女は鼻息荒く立ち上がり、腰に手を当ててふんぞり返った。偉そうなポーズ。


「お前なあ!」


 僕は首輪を拾いに行ったが、探してもなぜか見つからなかった。あれ?


「土に還ったんじゃないの? バイオで分解する物質みたいなもんよ。気にすんない」


 とヤミノ。本当かよ。都合の良い解釈しやがって。


「それはそうと、お前どうするんだよ。警察に行かないとな? それとも役所かな。お前、こっちの世界には身寄りがないんだろ? 未成年だよな? なんと説明すればいいか迷うけど、移民として登録してもらったりすべきなんじゃないのかな」


 危険な奴だったら保護観察がつくだろうし……。


「へ?」


「へ、じゃなくてさ。これから困るだろ? 寝る所とか、食べ物。着る物なんかもさ」


 そうだよ、こいつはこの黒い水着みたいな物を身に着けているだけだもの。年頃の娘がこんな恰好で外をウロウロなんてしちゃいかんでしょ。こんな……、改めて見ると凄い恰好だよ!?


「身寄りがないだあ? 未成年だあ? 優しい言葉のつもりかあ? ああん?」


「いや、そんなつもりじゃないけど……」


 檻の付いた車を呼ぼうなんて考えてたくらいだし。


「アンタって奴ぁ、まったく。アタシは最凶の魔導衝撃士(マギノ・ストライカ)だぞ? それを、なんだ? 世話を焼こうってのか? あは! こりゃたまらん。あっはははは!」


 哄笑するヤミノ。なんか勢いのある笑い方で、呆気に取られてしまう。


「さっきからその魔導衝撃士(マギノ・ストライカ)って何なんだよ」


「あはは……。はあ。そうだなあ、アンタには挨拶代わりに味わってもらおうかなあ。アタシを自由にしてくれた礼に、昇天させてやらにゃあならんしなあ」


「どういう事?」


「己の間抜けさを嘆きながら逝きゃあいいって事だよ! 魔導兵器(マギノ・ギア)ガルウ・ファング!」


 突然。ヤミノの頭上数メートルに、数多くの、不規則な大きさの円柱や立方体が現れた。どこからか飛んできたのではない。ただ、出現したのだ。


 それら大小様々なブロックが、組み合わさっていく。


 そして、今。ヤミノの上に、全長十メートルは優に越す、一本の巨大な「剣」があった。


「嘘だろ……」


「嘘ではなーい。よく見てみい」


 確かに、それは剣だ。剣といっても刀身は滑らかではない。様々な部品(?)が組み合わさったままに、あらゆる箇所が凸凹としているが、それはどう見ても剣なのだ。


 いや、形が問題なのではない。こんな物が突然現れた、その事象こそが問題なのだ。


「魔法で……、作ったのか……?」


「作ったのではない。組み立てたのだ。血の出るような研究を通して書き上げた設計、それに沿うように、次元の壁の向こうからこの世ならざる物質を召喚し、これを組み上げる。これぞ魔導衝撃士(マギノ・ストライカ)の業なりよ! そして完成するのが魔導兵器(マギノ・ギア)!」


魔導兵器(マギノ・ギア)……。これが……」


 本当に、こいつは異世界の住人なんだ。


 いや、女神スラーヌの言う事を疑っていたわけではないし、こいつがダークエルフだって事も納得していたつもりだったけど、こうして嘘みたいな事を目の前で示されると、迫力が半端じゃなくて……。


 ファンタジー世界の人は「こういう事」が出来ちゃうんだな……。マジかよ……。


「そういう事。って、わけで」


 ヤミノが人差し指を僕へと向けた。彼女の動きに連動するように、空中の巨大な剣、魔導兵器(マギノ・ギア)ガルウ・ファングの切っ先が、僕の顔へと向いた。


 なんという、重量感……!


 巨大な金属の構造物が、その重量を一点に集中させる為の切っ先が、僕へと向けられている。僕を貫く為に。いや、貫通なんてする前に、圧殺されるだろう。


 ……え? 殺すのか、僕を。


「さらば、間抜けな人間の小僧」


「や、やめてくれ……」


 緊縛はとっくに解かれている。それなのに、体が動かない。逃げられない。竦んでしまっている。


「お人好しのガキが。ええと、なんだっけ、なんとか承一」


「恩田承一」


「そう、恩田承一。アタシの世話を焼こうなどと大それた事をぬかしおって。地獄で後悔するがいい」


 魔導兵器(マギノ・ギア)ガルウ・ファングが、まるで助走をつけるかのように、少し後ろに引いた。


「せーえーのー」


「やめろおおお! 神様あ!」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ