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「わーん! ばかやろー!」
気を取り直した(?)ヤミノが、頭突きをかましてきた。
「わ、ちょっと、何するんだよ!」
「うるせえ! この! てめえ!」
ガルルッと歯を剥く。その尖った歯、怖いよ!
「アンタに任せてても埒が明かないのよ! 交代! もうね、こっちの体がもたないの!」
やたら切れているヤミノ。
「そうか? でも、僕でも外せなかったのに」
「いいから!」
うつ伏せになった僕の背に、ヤミノがのしかかる。ぐへっ。
「な、なにも乗っからなくたって……」
「動くな! 落ちる」
女の子の重さが、僕の上に。重いとかそういう不満じゃなくて、不満なんてなくて、ただただ、女の子の肉が乗っているという感触が、僕の神経を圧迫する……!
「ふぎっ、ふぎぎっ、なかなか切れん!」
ヤミノが僕の手首の縄を咥えている、らしい。彼女の熱い吐息が、僕の腕に、背中に当たる。
熱く湿った息……!? まずい、さっきからずっと高鳴っていた胸がさらに鼓動を早くし、うつ伏せで背中に乗られているものだから圧迫されて、心臓が痛い!
それにしても、こいつ縄を噛み切ろうとしているのか? いくらなんでも無茶だろ……。
ぶつっ。
「切れた!」
手が自由になる。
ほ、本当に切りやがった!? あの尖った歯は、伊達じゃないのか。恐ろしいんだけど!
僕は体を起こして、自由になった手で自分の縄を外した。
でも首輪は鍵がないと。なんて思いながらまさぐっていたら、首輪もガチャリと外れた。
「良かった! 鍵なんてなくても開くんじゃないか! あの女神様、脅かしやがって!」
「はぁはぁ、ふ~、アタシ頑張った。じゃ、こっちもやってよ。口じゃなくて手でね!」
「分かってるよ!」
二本の赤い縄がぶら下がった首輪を足元に落とし、改めて、緊縛されたヤミノに取り掛かる。ちゃんと手で、安全に……。くっ! 指が震える!
「おい、ちょっと! くすぐったいって! なんだよ、今度はソフトタッチかよ!」
「ご、ごめん」
落ち着け、落ち着け……。
「ったく、アンタにされた事、忘れないから! アタシは魔導衝撃士よ? 怖いのよ? アンタがこれまでに出会った連中とは比べ物にならないほど恐ろしい存在よ、アタシは。こっちの世界の文明がどれほどのもんか知らないけど、どんな兵器が相手だろうとアタシの召喚する魔導兵器で瞬く間に蒸発させてやるわ。アンタも、今のうちにアタシに媚を売っておいた方がいいわよ。見逃してやらんでもないから。そういう気まぐれさも強者の魅力なの。分かる?」
うわあ……。こいつ、相当なワルって言うか、ちょっと頭の気の毒な人だよ。何が怖いって、頭のネジの外れた人ほど怖いものはない。
どうしよう。異世界の女神様がわざわざこっちに捨てに来るくらいだから、やっぱりかなりの問題児なんだよな。
「ん? ちょ、アンタ、なに手を止めてんの? 自分だけ楽になってやめちゃうの? それずるくない?」
「いやさ、ヤミノって……、危険人物だよな?」
「へ?」
これって、縄を解かずにこのまま警察に引き渡した方がいいよね? それなりの施設に保護してもらった方が。その方が、この娘も落ち着くかもしれないし……。
父さんに連絡して、檻の付いた車を派遣してもらおうか。
「アンタ……」
「………………」
「え、マジ?」
「………………」
「……ふぐ! ああーー! ぐああ!」
突然、ヤミノがのた打ち回りだした!
「おい! どうしたんだよ!」
「縄が! 食い込んじゃって! ああ! 助けて! 後生ですからー! たまらーん!」
「痛いのか!」
「痛いとか痛くないとか、女に言わせないでよ!」
ヤミノは縛られたまま、くねくねと身悶える。
「お、おい」
「あふぅあふぅ」
変な息遣いをするヤミノ。これって……。
「お願いー! アンタの事も昇天させてあげるからっ」
ああ、もう、仕方ない!