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緊縛ダークエルフ  作者: クルクルパー
第四章 僕らの緊縛(アンアンチェイン)
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4-12

●4-12


「もうこうなったらアンタの魔力で一刻も早くアタシの聖縛縄(ホーリー・ボンデージ)を解きなさい! ほら、この首の痣! これを魔力で焼き消すのよ!」


 赤い縄が消え失せると、すぐさまヤミノは会長に詰め寄った。


「でも、お前は全然心を入れ替えてないじゃないか! 魔導兵器(マギノ・ギア)でこの世界を支配するとか言ってたじゃん! 駄目だよ! 会長、こいつの呪いは解かないで下さい!」


「承一!? ふざけんな! アタシはアタシの好きなようにやるんだ! ほれ、サリーナ! 早くしろや!」


「駄目だって! こいつ、むぎゅう」


「邪魔すんな! おら! おら!」


「あのー、私には魔力なんてありませんけど?」


 ヤミノと僕が揉み合っている横で、会長がぼそっと言った。


「へ?」


「私が魔法を使った事があって?」


「はあ? そう言えば……。まあ、実際に戦っていたのは聖騎士とか荒くれ傭兵どもだったけど……。だけどよ、アンタ、向こうの世界じゃ散々アタシから魔力を吸い取ってくれやがったじゃんかよ。あの魔力はどうしたんだよ」


「私は人から魔力を吸い込んでも、自分の中に留め置けるわけではありません。アース線と同じで、吸い取るそばから大地や空気中に放出、還元させていただけです。私は盗人じゃありませんので」


 そう言えば生徒会室でヤミノの魔力を会長が吸い取った時も、部屋中が揺れて壊れそうだった。あれは、床や壁に魔力を流していたって事か?


「なに~? 嘘だあ。だってアンタは聖女様だったわけじゃん。あんな物騒な軍団を率いてたし、何か奇跡とか起こしてたんじゃないのかよ。魔法の一つや二つ使えないとおかしいだろ!」


「異世界の事は知らないけど……。こっちの世界で会長が凄い人気者になったのは、あれは魔法を使ったからじゃないんですか?」


「そうよそうよ! 魅了(チャーム)の魔法でしょあれ絶対!」


「あれが魔法? とんでもありません。こちらの世界に渡ってきてすぐでしたが、入学式という儀式がある事を知りました。大人数、密室、壇上完備と、人心を纏めるための条件が揃っていたので、まずは会場の暖房を限界まで上げておきました。皆の判断力を下げる為です。お香も焚いて、ちょうど彼らの顔がぼんやりしてきた頃に、あなた方が乱入し、絶妙なパニック状態を作り上げて下さいました。その後私が壇上に立ち、一席ぶつと同時に、あらかじめ買収しておいた十人ほどの生徒に私を声高に褒めさせ、皆を煽り、まるで私を褒める競争の場を作り上げました。良い感じにヒートアップさせて、その頂点で生徒会長の交代選挙を行い……、まあ、そんな流れですね。元いた世界ではよくやってきた手です」


「えええ……。なんかそれって、年寄りを一箇所に集めて布団とか売りつける催眠商法みたいですよ……」


 それ、魔法じゃないよ。


「その後は間を置かずに勉強会を開いて……、各人の夢や希望を聞いてから、その甘さを指摘して、そこから徐々に締め上げて自分の人格を否定するまで持っていって……、それから私が『正解』足り得る事を提示してあげるのです。甘い考えを否定するのも、より良い考え方を授けるのも、全て私の真心からです。私は皆さんを正しく導きたかったので……。お陰で皆さん私にガチ惚れして下さって」


「それ完全に洗脳じゃないですか!」


「あとはまあ、マラソンで肉体を疲労させてから特選ビデオを見てもらったり、マル秘ドリンクを振る舞ってから私の講演を聞かせて、合間にちょくちょく電気ショックを与えたり……。お陰様でご好評いただきました」


「おおう……。真っ黒ですよ……。魔法より性質が悪いですって……」


「民衆とは愚かなものです」


 悲しそうに首を振る会長。


「ふざけんなよ! 期待させといて! 詐欺じゃないか!」とヤミノ。


「ええ、詐欺ですね。でもそれも終わりです。私を推していた皆も、目が覚めたでしょう。反動で私を憎むでしょうね」


「そうだろうなあ! アンタに騙されてたんだよ、あいつらは。アンタはどんな罰を受けるんだろうな! ちっくしょう、楽しみだぜ! こちとらアンタに振り回されてとんでもない目に合わされたんだ! アタシからのお仕置きも受けてもらうぜ! 緊縛抜きでな!」


「会長に乱暴しないでくれえ!」


 ヤミノと会長の間に割って入ったのは、たもっちゃんだった。


「会長は俺達を助けようと、自分を犠牲にしても助けようとしてくれたんだ!」


 それって川に身を投げた時の事だよね。


「はあ? だってそれは自業自得だし、しかも勘違いだし……」


「お願い! 糖獄さん!」


 今井さんもズザーッと駆け込んできて、両手をついた。


「ちょ、ちょっとちょっと」


「何がなんだか分からないけど、何がなんだか本当にわけ分からないけど、とにかく、会長を怒らないであげて!」


「おいおい……」


「会長、やはりあなたは素晴らしい人です! 俺、いつまでもどこまでも付いていきます!」


「聞いちゃいねえ……」


「私も!」


「僕もです!」


「あたいも!」


「俺も! 俺も!」


 若い衆が先を争うように土下座してくる。これって洗脳がまだ解けてないのかな。それとも、洗脳とは別に、本当にそう思っているのか? 僕には分からない。


「皆さん……。こんな私に……」


 会長の目に、涙が溢れていた。黒い瞳に星が瞬いていた。綺麗な、それは宇宙だった。


「会長、あなたが皆を洗脳して兵隊にしようとした事、僕は許せないです。酷い事ですよ」


「ええ、本当に……」


「二度とやらないで下さい。復讐なんて、もういいじゃないですか。そんな暗い情念に突き動かされても仕方ないですよ。せっかくこっちに来たんだから。それに」


 皆を見渡す。たもっちゃんが似合わないほどに真面目な顔で、僕を見ている。会長だけに目を奪われているのではない。今井さんも、他の皆も。


「この人達も会長を頼りにしてるんですよ。かっこつけて下さい」


「恩田君……」


 会長が涙を拭った。


「分かったわ。この世界に来たとは、ここで生き直すという事なのね。新しい自分にならねばならないのね。その糸口を、私は既に感じたかもしれない。そう、新しい官能を……」


「え?」


「アレは、とても刺激的でした。聖女として禁欲生活を送っていた私には、想像を絶する感覚で……。思い出しただけでも……、こう、ゾクゾクしてきますわ……」


 それって、さっきの合体緊縛の事ー!?


「憎み合っている者同士も、肌と肌を密着させて否応無く縛られてしまえば、感じ合えるものですね……」


「感じ合ってないよこの変態女が!」


 ヤミノが会長に指を突きつける。顔を真っ赤にして。恥ずかしいよ、そりゃ。


 ……そう言う僕も水漬女(みづめ)様と一緒に縛られたわけで。つらい……。


「アンタ、聖女だなんだっつって向こうの脳みそ筋肉に担がれたり、こっちの世界のバカを手懐けたりしてたけど、本当は自分が誰かに飼われたいんじゃないの? このメス犬!」


「メス……犬……? 私が……? あふぅ」


「首輪つけられたり縄で縛られたり……、いじめられたいんじゃないの!?」


「私は、そんな一方的に蹂躙されるのは嫌いです。でも、一緒になら……」


 ゆらあ、と手を伸ばす会長。


「ひいっ」


 と、彼女の手を払うヤミノ。


「や、やだ、怖い……! アンタ、イカレてるって!」


「糖獄さあん。待ちなさあい」


「ひっ」


 後ずさるヤミノ。


「なんだなんだ? なんだか分からんが、会長、我々もお供します! そうだろ、皆!」


「イエア!」


 たもっちゃんや今井さん、それに校長先生、若い衆の皆が会長の後に続く。


「なんなんだよアンタら! ええい、こうなったら」


 ヤミノが僕の顔を見る。


「承一! も一度アタシにキスして!」


「え!」


「こいつらを魔導兵器(マギノ・ギア)で蹴散らすしかない! さ、この首をペロッチュルッてやってちょうだい!」


 ペロッチュルッて品がない言い方するな!


「駄目だ! お前を解放したら大変な事になる! それにお前まだ魔力が残ってるのか?」


「あ、そうだ。ほとんど出涸らし状態だよ。こいつら全部は相手に出来ねえ!」


「ほらあ、だから!」


 僕はヤミノの手を掴んだ。


「逃げるぞ!」


「わっとととっ」


 そのまま走る!


「待ちなさーい! 心のヘヴンをシェアしましょう!」


 会長が追ってくる!


「承一! ワン・フォア・オール! オール・フォア・ワンだぞ!」


「糖獄さんのナイスバディの秘密を解き明かさせて!」


「青春は止まっちゃくれないんです! だから若者は走りなさい! こちらは全力で追い立てますので!」


 たもっちゃんも今井さんも校長先生もその他もろもろも、さっきまで水の底にいたとは思えないパワーで走ってくる! あんなのに捕まったら大変だよ!


 って言うかなんで心のヘヴンを彼らと共有せんといかんのだよ! その前に心のヘヴンって何だよ!


「承一っ」


「なんだよ!」


「アンタに繋がっているのも悪くないかもなーって。へへ。アンタは迷惑だろうけどっ」


「ああ、迷惑だよ!」


 そう言いながら、僕は繋いだ手に力を入れた。


「僕はお前を助けるんだから! 面倒見るって言ったろ! 赤い縄なんてあってもなくても、僕らは繋がっちゃったんだから!」


 それは拘束の呪いなんかよりもずっと強力で厄介な、心と心の繋がり。


「……承一っ」


「なんだよ!」


「アタシ、なんか体の中が熱くてドキドキしてんだ。魔力なんて全然溜まってないのに」


「そうかよ。僕もだよ!」




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