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会長の連れてきた人の群れへ、水の「手」が襲い掛かってくる!
「助けてくれー!」
「うわー!」
狭い竹林の中の道に、神輿と数十人の若い衆がいるのだ。その後ろには二百人を遥かに越す男女がいるのだ。ぶつかり合ってばかりで逃げる事も出来ない。
「会長! 助けて!」
悲鳴、絶叫。阿鼻叫喚だった。
「ヤミノ! 逃げなきゃ! 何をしているんだ!」
だがヤミノは、川の方を向いて突っ立ったままだ。
「逃げるって、どこに」
僕を見ずに、そう言った。
「どこって、とにかくここにいたら一たまりもないよ!」
「どこに逃げたって同じなんだよ、アタシには……」
ヤミノは川へ向かって両手を広げた。彼女の視線の先には、水漬女様がいる。
「アタシも連れてってちょうだい」
「何を言うんだヤミノ!?」
お前は知っているじゃないか! 川に入ったら、体が朽ちるまで水漬女様の虜にされてしまうんだ!
「ただしアタシとこいつの繋がりを切って。こいつはこんな甘っちょろい顔をしているけど、家来にするには頑固過ぎるよ」
僕との、「繋がり」……?
水漬女様は頬に手をやり、少し考えてから、
「ふーん、オッケー」
気軽な声でそう言った。
ザバッと川から水の「手」が突き出され、僕らの方へ人差し指を伸ばした。
「神力ウォーター・ハイメガ・ビーム!」
巨大な人差し指の先から、強烈なビームのようなものが放たれた。前に浴びせかけられた水鉄砲のような神力ウォーター・ビームとは、迫力がまるで違う!
「わ! 危ない!」
だがそれが命中したのは、僕らの肉体ではない。僕とヤミノを繋ぐ、普段は見えない聖縛縄の縄が、神力ウォーター・ハイメガ・ビームとの干渉波でバチバチと光った。
そして。ブツリ、と。
魔力で作られた縄が、神力の刃で断ち切られた。僕とヤミノの「繋がり」が、切れた。
「良かった……。承一、これでアンタを道連れにしないですむよ……」
ヤミノが言った。
そのヤミノの体を、巨大な水の「手」が掴んだ。
「じゃあな……」
消え入りそうな、ヤミノの微笑み。それが、遠くへと、離れて行く……。
そして、川の中へ、消えた。
僕は、ヤミノと繋がったままでいたら彼女を助けられないと、そう思っていた。だから、あいつを助ける為に、繋がりを切ってもらおうとした。
それなのに。
現実に、繋がりが切れた今。僕の方が助かる事になってしまった。あいつを見送り、自分だけが生き残る事に……。
「そうはさせるかー!」
僕は走った。
既にヤミノは川の中だ。地上からはもう見えない。
だけど……。僕らにだけ見える、半透明な赤い縄が、切られたその先端が、まだ川岸に残っていた。するすると水の中へ吸い込まれていくそれへと、全力で飛びつく!
「取った!」
間一髪だ! そして。
「うおお!」
僕自身の体から伸びている、もう一方の縄の先端と、結びつける! 二本を一つに。切れた繋がりを、切れた心を、もう一度繋ぎ合わせる為に!
「そなた、何をやっておる? アホなのか?」
水漬女様の声を無視し、川から全速力で離れる。
水の「手」が襲い掛かってくる! ばしゃっと、真上から叩きつけられる。その衝撃に、意識が飛びそうになる。
だがその時には、僕の手は、川岸に立つ祠に届いていた。しっかりと掴まる。小さく、ぼろく、心許ない作りの祠だが、これこそが水漬女様が祀られている祠なのだ。おいそれと壊れる事はないはずだ。
波が僕に覆いかぶさってきた。僕は完全に水の中にいた。川へと引きずり込まれそうになる。祠にしがみ付いていた手が、緩む……。
「くっ!」
波の「手」とは別に、体の奥、芯が、強く引っ張られる。
祠にしがみ付きながら、後ろを振り返る。水の中で目を開く。
うっすらと、細い縄が、僕の体から伸びている。その縄の先にいるのは……、ヤミノだ!
ヤミノ、僕とお前はもう一度繋がったぞ! だから、僕は耐えねばならない! 負けるかーー!
ごぼごぼと泡を吹きながら、必死に祠にしがみ付く。
ヤミノ……、頑張れ……!
突然、体を包んでいた水が一気に引き、僕はどさっと地面の上に投げ出された。
げえげえと水を吐く。耐え切った、のか。
「しょ、承一ぃ~」
ヤミノが、かろうじて川縁にのびていた。
「ヤミノ、しっかりしろ!」
這うようにしてヤミノのそばに行く。
それから周りを見渡した。僕とヤミノしかいなかった。あれだけいた学生服を着た若い衆が、一人も残っていない。三百人はいたはずだ。それが全員、川に飲み込まれたのか。
でも、僕らはまだここにいる。




