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緊縛ダークエルフ  作者: クルクルパー
第四章 僕らの緊縛(アンアンチェイン)
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4-5

●4-5


 そんな事をやっていると。


 しゃんしゃんしゃん……。何か、軽やかな鈴の音のようなものが聞こえてきた。


 わっしょい、わっしょい……。続いて、賑やかな声も。


 せいや、せいや。しゃっせ、しゃっせ、いらっしゃっせ。


 それも、めいめいが思い思いの掛け声をかけている。カオティック。


「なんだろう? こんな季節に神輿(みこし)?」


「だが神意は感じんぞ?」と水漬女(みづめ)様。


 そいや、そいや。狭い道を強引に両端の竹を押し曲げながら、やはり神輿がやってきた。


 凄い人数だ。担ぎ手だけでも五十人ぐらいはいるんじゃないのか。皆男だ。


 神輿の後ろにも、ぞろぞろと人並みが続いている。こちらは男も女も混ざっている。


 呆気に取られている僕らの前で、神輿は止まった。漆と黄金でぎらぎらと輝く見事な神輿。そしてその上に座しているのは、


「お待たせしたかしら?」


 生徒会長、緑堂(りょくどう)サリナさんだった。


「え、会長……?」


 上から、柔らかな笑顔を向けてくる会長。制服姿のままだ。


 そして彼女の座す神輿を担いでいる人達も、皆学校指定の制服姿。紺色のブレザーに白いワイシャツ、そしてチェックのネクタイ。もちろんズボンも学校指定の物だ。つまり、僕の学校の生徒達だ。


「あ、たもっちゃん!? それに皆も……!」


 担ぎ手の中に、見知った顔を発見する。


 たもっちゃんなんてネジリ鉢巻を巻いている。制服姿なのに。薄い色のサングラスの向こうで、目が爛々と光っていた。


「佐藤君に鈴木君、そして鈴木君、高橋君、佐藤氏と、佐藤ちゃんまで……」


 彼らも僕を見て、満ち足りたような、誇らしげな笑みを浮かべた。歯がきらっと光る。


 神輿の後から付いてきた連中も、皆うちの高校生だ。担ぎ手と合わせて総勢で、二百人、いや三百人は優に超すだろうか。いやいや、きっともっと多い。とにかく凄い人数だ。


 神輿の担ぎ手ではない連中は、手に手にバットや竹刀、ゴルフのドライバー、バールのような物、ノートパソコン、工具箱などを持っている。なんか物騒な品々だ。まるで兇器を手にしているようだ。


「涼しい場所ね。清々しいわ。恩田君、糖獄さん。隣にいらっしゃるのが川の神ですね?」


 神輿の上に座ったまま、会長が言う


「頭が高いぞ人間! わらわを見下ろすとは何事か!」


「これは失礼いたしました」


 会長が両手を広げると、すかさず何人かの男達、中でも選りすぐりの美少年数名が、会長の体を支え上げ、地面へと優しく下ろした。その間会長は彼らに一瞥もくれないのだ。まるで大物マジシャンとよく仕込んだ助手連中といった感じだ。


「川の神よ、この神輿はあなた様への献上品でございます。どうぞお納め下さい」


「なに? わらわに神輿を?」


 ぽかんとする水漬女様。それから、


「え、本当? 本当にもらっちゃっていいの? マジで!?」


 目をきらきらさせ、上から下から、神輿を眺め回す。


「ほほお……。ワオ!」


 いきなり振り向いて、僕の腕を殴ってきた。ぺちっと。


「あいた?」


「やった! やったぞ小僧! バンザーイ!」


「いたっ、痛いですって」


 そんなに痛くないけど。


「こんな粋な神輿が! これはわらわの祭りが開催されるというわけか!? それは嬉しいぞい! かつての栄光を取り戻すのじゃ! で、いつがいいかな? えっとえっと、今は四月になったばかりだから……、七月? 八月ぐらい?」


 わくわく感を全身から発散させている。


「いつでも。今すぐにでも」と会長。


「ええ!? しかし、やはり町内会とか、街の広報とかでしっかり働きかけてもらわんと、担ぎ手を集めるのも大変だし……。最近の男どもは軟弱じゃから、青年会に参加させるのも一苦労なんじゃないかな……」


「ご心配には及びません。さあ! あなた達!」


 会長が指をパチーン! と小気味良く鳴らした。


 すると、後ろに控えていた少年少女が、神輿の所までざざっとやってきた。その中には、やはりと言うか、今井さんもいた。


 今井さんはたもっちゃんの足元に膝をつき、たもっちゃんのズボンに手をかけ……。そして、なんと。そのズボンを、一気に引き下ろしたのだ!


「何てことだ!?」と僕。


「クレイジイ!?」とヤミノ。


 ずぼっずぼっと、担ぎ手のズボンは一斉に脱がされていった。だが、彼らはパンツ姿になったのではなかった。上半身は学生服のまま、下半身には白いふんどしを締めていた。


「川の神よ、この世界での神の使途の正装、もちろんリサーチ済みです」


 自信ありげに言う会長。


 そうなの!? これって正装なの!?


 ふんどしは……、神輿の担ぎ手としては正しいのかもしれない(多分)。けど、ブレザーとの組み合わせはどうなのよ! 誰もブレザーを脱ごうとする奴はいないし!


「ほほお……。なかなか分かっておるではないか」


 水漬女(みづめ)様は顎に手をやり、なんだかご満悦!?


「この者達は、この神輿専属の担ぎ手です。訓練期間は短かったですが、情熱だけは負けません。喧嘩神輿でも相当の活躍を期待出来るかと。選りすぐりの猛者達です。男子高校生らしく、金と頭は無いけれど時間だけはたんまりあるタイプを揃えてあります。いつ何時でも、お呼びとあらば即参上です」


「なんとなんと! こやつらもわらわがもらって良いとな? イヤッホーイ!」


 水漬女(みづめ)様は喜びのあまり、その場で高速盆踊りのようなダンスを舞い始めた。


 それを横目に、僕とヤミノが顔を見合わす。どういう事だ?


「恩田君、糖獄さん。あなた達の仕事は終わりよ。もう用はないんだけど、どうします? あなた達も担ぎ手になりますか?」


「え、あの格好になれと……? いやあ……、無理でしょ」


 ヤミノがおののくが、問題はそこじゃない!


「会長、何を言っているんです? 終わりも何も、約束はどうしたんです。聖縛縄(ホーリー・ボンデージ)の……、繋がりを切ってくれるというのは……」


「約束? 約束ですって? あら、この子ったら」


 会長が口を押さえて笑う。


「自分の事は棚に上げて? 私はね、坊や、あなたのような男が大嫌いなのよ。平気で仲間を裏切るようなゲスがね。そのような者と約束など出来ようはずがありません」


「仲間を、裏切る……」


「承一は誰も裏切らんぞ! 何言ってんだこのアマ!」


 ヤミノが怒る。


「アンタはいつもそうだ! 自分は正しい相手は悪い、そうやって決め付けて、ぶっ潰そうとする! アンタが承一の何を知ってるってんだよ! 許さんぞ!」


 ヤミノの言葉の一つ一つに、僕の胸が裂けそうになる。


「糖獄さん、あなたも憐れな女ね。女はいつも裏切られるのよ。恩田君は私に、あなたとの『繋がり』だけを解いてくれるよう頼んできたの。しかしあなたの封印は決して解かないようにと、念を押されたわ。彼はね、あなたから解放されたいのよ」


「そんなわけがあるか! 手前、口から出まかせばかり言いやがって」


「嘘じゃないわ。そうでしょう、恩田君?」


 僕は、拳を握り締める。


「ヤミノ……。会長の言っているのは本当だ。僕は、お前の封印は解きたくない」


 爪が掌に食い込み、痺れる。


「……へ?」


 ヤミノが口を半開きにする。


「承一……? え?」


「分かった? 糖獄さん。いや、ヤミノ・トーゴ・クウ。あなたは裏切られたのよ。用がなくなったら簡単に捨てられる。それも、無力な状態のままに。あなたこの坊やを信じてたのね。惨めね。どんな気分? 何を思えばいいのか、何を感じていいか分からないでしょ? 地面が抜けたみたいでしょ?」


 会長が声を上げて笑った。口元を押さえもしない。口を開け白い歯を露わにして笑った。


「糖獄さん、分かるわ、あなたの気持ちが! あなたの悲惨に心から同情するわ! だって、私もそうだったんですもの!」


 え……。会長が、ヤミノと同じ……?


「女神スラーヌは私をこの地へと送り届けて下さいました。でもその前に、女神の下へ私はどうやってたどり着いたのか」


「それは……、自ら身を捧げたと、会長が自分で言っていました」


 自ら生贄になったのだと。


「恩田君は素直な子ねえ。私が自分で自分を殺したって? そんな事があるわけないでしょう!」


 会長の激昂に、竹林がザアと鳴った。顔つきが、変わっていた。


「私は殺されたのです! 投げ捨てられたのです! 私が心から信頼していた……、聖騎士達によって!」


「なにそれ……。聖騎士ってアンタが飼ってた木偶の坊じゃない。アンタの言う事なら何でもはいはい聞いて、金魚のフンみたいにぞろぞろついて回っていた。なんでそんな奴らがアンタを殺すのよ」


「確かに彼らは私の言う事を聞いていました。でも、私の事など考えてはいなかった。そして私も、彼らの本心など知りようもなかった。ヤミノ・トーゴ・クウ、聖騎士の団をいくつも打ち倒したあなたを、彼らは心底恐れていました。そんなあなたに対抗出来るのが、相手の魔力を吸い取り無効化出来る、私のような聖女でした」


 魔力を抜かれれば、いくら最凶の魔導衝撃士(マギノ・ストライカ)であっても魔導兵器(マギノ・ギア)を召喚出来ない……。


「私は聖女として聖騎士をまとめ上げ、戦いの中であなたの魔力を無効化し、ついにあなたを『神の大口』へ落とす事に成功しました。これで、人間側の勝利へ近づく事になったと、私も、彼らも思いました。それはつまり、道具としての私の役割が終了したという事です。そう、彼らははじめから、私の事など道具としてしか見ていなかったのです!」


 会長がこんな声を出すなんて。


「騎士団の幹部達は私を邪魔者と見做しました。団の中でも、末端の兵ほど私に心酔しておりましたので、私が残っていては権力が握れないと危惧したのでしょう。私は捕えられ、『神の大口』へ叩き落とされました。彼らの心変わりでも、魔が差したのでもないのです。私達ははじめから……、心が繋がってなどいなかったのですから」


 会長の顔が歪む。怒りと、憎しみに。絶望と、怨念に。


「ですから……、この世界の貴き神よ!」


 会長は水漬女(みづめ)様に向き直る。


「私を、私の故郷へと飛ばしていただきたいのです。私を裏切り、捨てた者どもの所へ、戻していただきたいのです。私と、彼ら、私の新しき同志達を」


 それって今会長に付き従っている、ここにいる皆って事か。


「飛んでどうする」


 水漬女(みづめ)様が問う。


「それなりの、報いを」


 復讐するって事か……? そしてここに連れてきた人達は、会長の復讐を手助けする為の、兵隊なのか。会長は学校で自分の兵隊を集めていたんだ。


「私は正義の者です。不義を許すわけにはいかないのです。断罪してこその正義なのです。川の神よ、あなたも水の流れを司るならば、私の想いを分かってくれるはずです。川が清いのは、常に穢れを押し流し続けているからです。見逃すわけにはいかないのです」


 水漬女(みづめ)様は首を傾け、頬に手をやった。考えているようだ。それから、「ふむ」と一言呟き、川面に足を踏み出した。川は流れている。その水面の上を、歩いて行く。人には出来ない歩法。


 川の中ほどで、水漬女(みづめ)様が振り向く。そして言った。


「来るがよい。そなたと、そなたの群れを連れて」


 それから水漬女(みづめ)様は、飛沫一つ立てずに、すうと川の中へと沈んで行った。




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