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竹林の中を流れる小川。そのほとりにある祠。
僕とヤミノは会長よりも一足早くそこへ来ていた。
「相変わらずしょぼい祠だ」とヤミノ。
「お前、そういう事言うなよ! 夏祭りの時なんかは賑やかなんだぞ。お寺の方だけだけど……。でも、その時にはこちらの祠にも人が流れてくるんだよ。ガチャガチャのおみくじも補充されるんじゃないかな」
「寺からのおこぼれ頼みか……」
「ひどい言い草だな!」
まあ、平たく言えばそうなんだけど……。でも言えないよね、祠の前でそんな事。
さて、どうやって水漬女様を呼び出せばいいんだ?
この間はヤミノが自ら飛び込んだわけだけど、僕はあんな危険な真似はごめんだ。
「どうしたもんかな」
川面を覗く。水面に僕の姿が映る。
と思いきや、水の底から、幼い女の子がこちらをじっと見ている!?
「うわああ!?」
浴衣を着た幼い女の子が、すうっと浮き上がってきた。そのまま水から上がる。
「よく来たな人間と異人よ。この間はわらわを弄んでくれおって。どの面さげて来たのだ?」
「か、神様……」
「そうです。わらわがおこぼれ頼みの川の神です」
聞かれてたのか。
「それは言葉の綾でして」
「やかましいわい」
水漬女様はすっかりむくれている。口を尖らせて、幼女がへそを曲げている風にしか見えない。
「そなたらの言うように、わらわはパワーの弱いへっぽこ神じゃ。否定は出来ん。過去の栄光は時の彼方じゃ。だが、あの頃は良かったなどとは言わぬぞ。それは負け犬の言じゃ。わらわは待つ。いずれ力を取り戻せる事もあろう。そう信じなきゃ、やってられんもん。信じる者は救われる、そんな言葉があるとかないとか? わらわは積極的にそういう甘い言葉に縋るぞ。縋りつくしてやるのじゃ。そしてそれが叶わなかったら……、誰のせいにすればいいんじゃ!?」
うっうう、と泣き崩れる水漬女様。
神様が泣いているなんてとんでもない事態なんだろうけど、小さい子供の姿なんで、あまり不自然じゃないと言うか……。僕としてもそれほど動揺しないのだった。
「まあまあ、水漬女様、そんな悲しまないで下さい」
ハンカチを渡す。
「すまんな……。チーン」
「えっ」
「はい、サンキュ」
「いや、そのハンカチ、もういいです。差し上げます」
「本当? もらった~」
今のはちょっと動揺しちゃったなあ……。
「で? 何の為にそなたらは来たのじゃ? 臆面もなく。わらわの愚痴を聞くボランティアか? 介護?」
「実は、水漬女様に是非会いたいという人がいるんです。水漬女様をこの世界の……いやまあこの辺りの……神様の代表と見込んで、どうしても挨拶したいという、それなりに高貴な人なんですけど、良いでしょうか」
「はあ? そんな物好きがおるはずがない。わらわのようなパワーの無い神が、代表とな? 何を申すか。逆にバカにしとるのか?」
「ち、違いますよ! 本気なんですって!」
「舐めやがって~! わらわの力なんぞを当てにする奴がいるはずないじゃろうが! わらわのようなちんちくりんの神を……。こんな、ただキュートで愛でたくなるだけのベイビードール・ゴッデスにひれ伏したいだなんて、マニアックな豚ぐらいなもんじゃ」
卑屈! 神様なのになんて卑屈なんでしょう! 自分の容姿には自信があるようだけど。