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緊縛ダークエルフ  作者: クルクルパー
第一章 やって来た厄介な方々
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1-3

●1-3


「早くこれをほどけ!」


 僕は縛られたまま、ゴロゴロと転がり、金髪女に体当たりしようとした。


 簡単に躱され、茂みにズサッと突っ込んでしまう。


「こらこら。暴れても無駄よ? このマスター・キーがなければそれは絶対に外せないの」


 どこから取り出したのか、彼女は銀色の鍵を指に引っかけてくるくると回した。あれが、この首輪を外す鍵か。


「そ、その鍵を寄越せ」


 どうにか膝立ちの姿勢まで持っていく。縄が食い込む~。


「お、根性あるねえ。男の子ねえ」


 女が手の中で鍵をカチャカチャ鳴らす。


「まったく、君も間が悪いって言うか。何も私の作業中に出くわさなくてもいいのにねえ。私としても困るのよ、首突っ込んでくれちゃうと。あなたを始末したくないのよ。こっちを治めている連中に知り合いもいないし、厄介な事になるじゃない? だからさあ、あなたもこの娘と一緒に、大人しくしててほしいのよ」


「い、一体何を言っているんだ、あっととと」


 よろけ、結局また倒れてしまう。


「ふぐ! ふごー! ふうっ!」


 体の下から、褐色肌の女が呻く。のしかかってしまったのだ。


「あ、ごめん! すぐどくから……、あっつつつ。動くと、縄が締まって……!」


「ふふふ……。こうして変態チックに縛られた男女が二人……。こりゃ、発見されても度を越したプレイだと見なされるだけね。説教されるのはあなた達だけ。一件落着」


 そんなわけあるか!


「僕までこんな風に縛って……。とんでもない犯罪者だ! 絶対逮捕してもらう!」


「犯罪者!? この私に向かって? この……麗しき幸福の女神スラーヌに向かって!? 人間風情が、女神を逮捕すると?」


「はあ? なにが女神だ。自分の事をいけしゃあしゃあと……」


 女が右手を振るった。どばっと、風が吹いた。


「え?」


 僕と、褐色肌の女が、浮いていた。そのまま、すとんと、正座の姿勢で着地。


「え……」


 いや、バカな。ただの偶然だ。


 だが風はやまない。金髪の女、スラーヌと言ったか、を中心として、竜巻となっていた。


「う、うわっ」


 放置されていた自転車や原付が吹っ飛び、空高く舞い上がった。


「ええー!?」


 僕と褐色女は、飛ばされないように身を寄せ合う。


 スラーヌが指をパチンと鳴らす。


 公園の滑り台が、その、地中深く埋まっていたはずの基部が、ずずずと引き抜かれていく。そして、浮き上がった。


 続いてブランコが、ジャングルジムが、シーソーが……。次々に空中に浮かび上がる。


「ふふふ。これを合体させてちょっとないタイプの大人の遊具に作り変えてやりましょうか? んん?」


「ちょ、超能力……!?」


「そんなチンケなもんではなーい」


 風はやんだ。


「ええと、そうね、はい!」


 今度は公園の入り口に立つ注意事項の看板にビシッと指を突き付ける。


 看板に書かれた、「ボール遊び禁止、ラジコン禁止、自転車禁止、スケボー・ローラースケート禁止、大声で話すの禁止、花火禁止、ブランコの立ちこぎ禁止、柵に登るの禁止、ベンチに上がるの禁止、ペット禁止、楽器の練習禁止」の文字が、看板から「剥がれ」、ふわりふわりと空中を漂い出した。


「はいよっと!」


 代わりに看板の文字が、「大人の公園。子供の立ち入り禁止。不機嫌な老人の立ち入り禁止。毎週土曜は奴隷市」「困ったゴミの投棄オーケー」に変わる。


「え! 奴隷市!? 現代に!? そんな事はいけない!」


 もう何から驚いたり突っ込んだりしていいか分からなくて、取りあえずインパクトのある言葉に反応する僕。この摩訶不思議な状況で、自分の理性を保つ為に、理論的に考えたり突っ込んだり出来る事にすがりたかったんだ。と思う。


「ああ、奴隷って言ってもそういう奴隷じゃなくてああいう奴隷ね」


「……よ、よく分からないけど、どっちにしても悪い事だ! バチが当たるぞ!」


「え、バチ? って、なんで女神の私にバチが当たらないといけないのよ。……あ、もしかしてこっちの神の? あー、だからね、そういうのはね、困るの」


 頭上でドガッバゴッと激突音!


 見上げれば、遊具がぶつかり合っている。火花が落ちてくる!


「ひい~っ」


 だ、だめだ、やっぱり理性が保たないー!


「おっと、よそ見してた。あんまり派手な事をやるとこっちの神に見つかっちゃうからね、元に戻しておかないと。よっ」


 ズゴゴゴゴっと音を立てて、遊具が元の位置に下ろされる。


「看板も、よっと」


 文字が剥がれ空中に浮かび、それからまた看板に張り付いた。戻した、のか?


 風がやみ、音がやみ、極端に静かになっていた。


 そう、静かだった。公園はどこもおかしなところはない……。


「あ、あれ? 幻覚……だったのか……?」


 だが、放置されていた原付や自転車は、無い。空高く飛んで行ったきりなのか。


「幻覚じゃない……」


「分かりましたか? 私の凄さが。私こそ女神なのです。その名も高き麗しのスラーヌ!」


「でも、でも、確かに超能力みたいだったけど、女神だなんて言われたって……」


「ここまで見せてやってるのに、まだ疑うか!」


「う!?」


 その声は、耳から聞いたのではなかった。僕の頭蓋骨の内側、目の奥、脳みその中で、聞こえた。


「愚か者!」


「あ、あ、あ……」


 彼女の言葉の一つ一つが、僕の細胞を振動させるようで……、細胞の一つ一つが、弾け、液体を飛び散らせそうで……。


 た、たすけ、て……。空を仰ぐ。


 その時、薄くかかっていた雲が、ばかっと割れた。そこから、サーチライトのように強烈な光が差した。この、自称女神に向かって。


「どうよ!」


 金色の髪が、金色の瞳が、白い肌が、白い衣が、猛烈に光っていた。


 光が、僕の網膜に突き刺さる。それなのに痛みはない。痛みはないのに涙は溢れていた。


 これは……神の威光!? 問答無用の神様っぽさだよ!


「ははー!」


 僕はひれ伏していた。恐らく生まれて初めて土下座した。縛られて自由に動かない体で、精一杯、地面に額を擦りつけていた。


 本物だ……。本物の女神様だよ……。なんだか知らんが、本物だって事は分かってしまったよ……!





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