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緊縛ダークエルフ  作者: クルクルパー
第三章 友よ、好敵手よ
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3-4

●3-4


 どうにか無事に午前中を乗り切り、ようやく昼休みになった。


 まだそこまで友達グループがかっちり出来上がっていないので、皆なんとなく自分の席で弁当を食べている。まあ、早くも女子グループのいくつかは固まってきているようだが。


 僕らも隣近所の席の連中と喋りながら、持参した弁当を食べる。


 弁当は僕が準備した。とは言え、冷凍食品のフライ類とミニトマトなんかを適当に詰めただけだ。それでも、正直面倒くさかった……。明日からは学食にしようかな。


「でさー、会長のお宅ってヘリポートがあるんだって」


「マジで? 俺は敷地に白馬しかいない牧場があるって噂を聞いたんだけど」


「なんか世界の経済を裏で操ってる財閥の一つなんだって?」


糖獄(とうごく)さんと恩田君も会えたら良かったのにねー」


「ねー」


「見てないなんて可哀想ー」


「かわいそー」


 僕とヤミノを間に挟んで、皆は、例の生徒会長の話に花を咲かせる。改めて、凄い人気なんだな……。


「……ごっそさん」


 ヤミノが空っぽの弁当箱を突き出してくる。食事中も終始ムスッとした顔で、全然会話に加わってなかったな。


「おう。あれ、バランは? あの緑色でペラペラの。それと、仕切りのカップみたいなの、なかった? ミートボール入ってただろ」


「知らん」


「……もしや、あれごと食べちゃった?」


「知らん」


 えー。大丈夫かよ、腹。なんて心配していると。


「行くぞ、承一」


 いきなりヤミノが立ち上がる。皆がキョトンとした顔で見上げる。


「行くってどこに?」


「いいから、来い」


 腕を取られて引っ張られるまま、僕は廊下に出た。




「おいおい、どこ行くんだよ。どうした?」


「どんな奴なのよ、その生徒会長って」


 口を尖らせてヤミノが言う。


 ははあ。こいつ、せっかく少しは話相手が出来たのに、皆が生徒会長の事ばかり話しているので面白くなかったんだな。


「そいつの顔見に行こう! たかが人間風情が良い気になっているなんて許せん! 生意気な鼻をへし折ってやる!」


「ええ!? やめろよ! お、おい、ちょっと待てって!」




 階段を下ると、そこは二年生の階となる。生徒会長は二年生だと聞いていたからここに来たわけだけど……。


「でも、どこの何組の教室にいるかも知らないし、そもそも顔も分からないんだからさあ」


「もしかして、あれじゃない?」


 見れば、廊下の向こうに、大勢の人だかりが出来ていた。賑やかで、熱気もあって、そこだけまるで祭りのようだ。


「なんか調子に乗ってる匂いがする。あれだよ!」


「そうなのか?」


「はいはい、ごめんよごめんよ」


 突撃し、ぐいぐいと人垣を押し分けていくヤミノ。こいつ、ビビリのくせに、攻める時は強気だな!


「お、おい、待てって! すいませんすいません」


 そんなヤミノの後ろをペコペコしながらついていく僕。


 渦を巻く人の群れは、やはり全員が中心点へと顔を向けていた。皆が皆、手を振り、熱意を込めた声で話しかけている。


 その、人の輪の真ん中に、その人はいた。


 輝きがあった。人の意思が集中しすぎてオーバーロードしているのか?


 違う。彼女そのものが、光のようだった。


 栗色の髪は廊下の照明に甘く輝き、陶器のように白い肌と、濡れた赤い唇もまた、柔らかに光っていた。そう、柔らかなのだ。眩しさも鋭さもない、柔らかな、優しい輝き。


 そして、彼女の目が、取り巻きの一人一人に微笑みで応えていた目が、こちらを向いた。僕を見た。


 その大きな黒い瞳には、宇宙の星々があった。単なる光線の反射なんかではない。彼女は自分の中に、星の光を宿しているのだ。


「この人だ……」


 僕は無意識のうちに呟いていた。


「こんにちは」


 赤い唇が、そう言った。


 僕は彼女の声を、唇の動きから目で聞いた。何も答えられなかった。


 ぼんやりしている間に、彼女は別の人に微笑みかけていた。


 誰もが彼女に声をかけたくて、微笑んでもらいたくて、殺到している。だけども誰も彼女に手を触れられない。押し合いへし合いして近付いているのに、彼女の一歩手前で足を止めている。彼女を中心にした人垣のドーナツが、彼女の歩に合わせて動いている。


 彼女は誰も傷つけず、誰にも傷つけられない。永久に穢されない、清らかなる存在。僕はそれを理解し、そして泣きたくなった。


 そんな僕の満たされた気持ちを切り裂くように。


「あああ!? そのすかした面! こんな所で何してんだ! このアマ!」


 ヤミノが叫んだ。生徒会長に向かって、だ。


 驚いた。それなのに。


「あら、ごきげんよう」


 当の会長はまるで驚いていない。


「って言うか! え!? 二人は、知り合い!?」


 なんで!?


「知り合いも何も……!」


 ギリギリと歯噛みするヤミノ。


「この女こそ、アタシを『神の大口』へ叩き込んだ張本人よ!」


「えええ!? それって、お前のいた世界で、お前と敵対していた、聖女っていう……」


 え、え? でもそれって、異世界の人だし、ここにいるのは僕の高校の生徒会長だし!?


「おい! なんだ君らは! 会長に無礼な口をきいて!」


 周りの取り巻き連中が、生徒会長を守るように立ちはだかる。険しい顔で僕らを睨んでいたが、あれ? といった表情に変わる。


「君達、もしかして」


「昨日の入学式で、凄い格好になっていた……」


「縄の……」


「あの、余興の」


「プレイ……」


「そうよね? 確かにこの二人だったような……」


 ざわめきの波が押し寄せる。


 うう、やっぱりバレてしまった。いたたまれない。どうする? 走って逃げるか?


「皆さん、ちょっと失礼」


 助け船を出してくれたのは会長自身だった。会長が歩を進めるだけで、人垣が割れる。


「立ち話もなんですので、こちらへどうぞ」


 僕とヤミノにそう言い、周りの連中には、


「それでは、私はこれで。皆さんも午後の授業に備えてゆっくり休んで下さいね」


 と、穏やかに、しかし有無を言わせぬ重さを持って言った。これ以上の問答は誰にも許されないのだ。


 僕とヤミノは会長の後を追った。


取り巻き連中は見送るだけで、誰一人ついてはこなかった。




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