2-11
●2-11
父さんは片膝を立て、そこに顔を伏せていた。
僕らを縛っていた聖縛縄も、いつの間にか消えていた。
「あの、父さん……」
父さんの肩が震えている。耳も首も真っ赤になっている。泣いているんだ。
凄まじい罪の意識が僕を打ちのめす。
「父さん、僕、うぐっ」
涙が溢れてきた。僕も泣いていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい……。こんなんなっちゃって、ごめんなさいっ」
僕は泣きながら父さんの元まで這っていき、その肩を抱いた。こんな恥ずかしい姿を見せてしまって、僕はもう、僕は……。
父さんが顔を上げる。汗だくの角ばった顔。涙を湛えた目。
「ひひっ、ひひひっ」
父さんは笑っていた。上目使いに僕を見て、そして首を回して、ヤミノを見て。
「ひひひ」
卑屈な笑いだった。
「やったなあ、承一。ひひ」
狂ったのか。血の気が引いた。重すぎる十字架を感じて、僕の思考が止まりそうになる。
だが。
「承一……。やっぱりお前は俺の子なんだな!」
「え」
「お前、顔は俺にゃあ似てないが、ちゃんと俺の血を継いでるよ。実感するよ。嬉しいぜ」
父さんは涙をぐいっと拭った。
「何言ってんの」
「惚れる相手が似ちゃうんだよ。いい娘を見つけたな」
嬉しそうな顔でヤミノを見ている。
ヤミノはヤミノで、何も分かっていないだろうに、神妙な顔で頷いてみせたりする。
「この娘はカタギなんかじゃねえ。よおく分かったよ。大した女王様だよ、この娘は」
「へ?」
「本物の女王は単なるSじゃねえんだ。強烈なMハートを持っているからこそのSなんだ。奴隷だって同じよ。相手に自分を責めさせる強烈な強制力を秘めている。互いに深い両面を持って、そして対峙するんだ。相手が心から欲している事を知り、自分が心をこめて出来る事をやる。それこそが愛なんだよ」
「あの……」
「母さんこそ、俺にとっての究極の女王だった。俺の深淵を満たしてくれ、俺のトンガリを受け入れてくれた。母さんが死んで、俺の心は空っぽになった。どんな店に行っても俺の心を癒せる女王はいなかった」
「え、何言ってんの? 母さんが女王?」
「運命の出会いってのはあるんだよ。それは若い時分の思い込みなんかじゃない。本当に、満たし合える人ってのがいるんだ。なあ?」
母さんが……、女王……? 僕の前ではあんなに優しかったのに……?
「お前達は互いに向かい合い、そして同じ地平を見ている。祝福するよ。承一、ヤミノちゃん」
「てことは、アタシはここに住んでもいいって事ですかい?」
「もちろんだ」
「イェア! やったぜ承一!」
「え? あ……、え?」
なんか、頭がぐるぐるしちゃって、何も考えられないっていうか。なんか熱っぽいな。風邪かな?




