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「なんか良い匂いしてるじゃーん?」
キッチンで調理中の僕の後ろで、ヤミノがうろちょろする。邪魔だ……。
「大した物じゃないよ。チャーハンと味噌汁だけ」
「へー。ほー」
ただいま夕飯の準備中。そろそろ父さんも帰る頃だしね。
「むむ、その火加減、やるではないか」
「コンロのスイッチ入れただけだよ」
うちでは僕が料理を作る事が多いけど、レパートリーは少ない。僕と父さんだけの男所帯だから、食べられればいいって感じ。
下手すれば、野菜でもソーセージでも何でも適当に切って鍋で適当に煮て味噌か醤油で適当に味を付けるだけだったりもする。ただ、雑な分具材は大量にゴロゴロ入ってるから、たとえ味噌汁でも満足度は高い、はず。そんなんでもいいんだよ。
後は野菜ジュースでも飲んで、取りあえず栄養面はオッケーって事にするわけ。今日の味噌汁だってキノコも大根も肉団子も入ってるし。
料理は面倒だけど、不摂生がたたって病気にでもなったら、死んだ母さんに申し訳ないからね。若死にした母さんの分まで僕らが生きなきゃ。
「出来た? 食べようぜ!」
「父さんが帰るまで駄目だよ」
「えー。別にいいんじゃない?」
「お前なあ。お前の事を父さんにお願いするんだからさあ」
僕とヤミノは聖縛縄で繋がってしまった。距離的に離れる事が出来ないのだ。こいつも僕の家に寝泊まりさせるしかないんだよ。そもそもこいつはこっちの世界に知り合いの一人もいないわけだし。
「どう頼むかなあ」
初めて連れてきた女の子を、しばらく家に置いてくれなんて……。事件性を疑われるかもしれない。少女の家出は珍しくないし、そこから大きな犯罪に繋がる場合も多いらしいんだよ。追求されるだろうなあ。本当の事を話すわけにもいかないし。
異世界の神にポイ捨てされてしまって、なんて正直に話したら、僕の頭の病気を心配されるかもしれない。そしたら父さん心労で倒れるよ。困ったなあ。
「承一の親父でしょ? 大丈夫大丈夫。一発軽く驚かせば、ビビッて降参するって」
「ふざけるなよ! お前、目いっぱい行儀よくしてろよ」
「えー。人間風情に何でアタシが畏まらなくちゃいけないのよ。アタシを誰と心得る? 泣く子も黙るダークエルフの……」
「父さんは怖いぞ。なってない奴は誰だろうと叱りつける。ぶん殴られても知らないぞ」
「なぐ……、え? 手を出すの? ちょっと待ってよ、そういうの困るんですけど……」